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KOO

血柘榴 5

2019.07.23 01:30

ナオンがすごく喜んでる声が夕飯時に聞こえた。

「こんなご馳走どうしたの?」「凄く美味しそう」「久しぶりのお肉だ…!」「きっと神の御加護だわ……!」

ドアの向こうから小さく聞こえる声は間違いなく昔聞こえていた夕食どきの声だった、 


俺はその中に混ざることは無いけど、耳がいいからよく聞いてはあの輪に混ざりたいと羨んでいたのを思い出した。


そんな声を聞きながら机の上に畳んで置いてある覆面を手に取った、約束は約束だ、これもナオンの為。

顔が蒸れるし前もよく見えないけど、これで母様の気が済むなら付けていよう。


ナオンの喜んだ顔を思い浮かべて心が温まる


母様の言いつけを守っていればナオンが幸せになれると言うなら俺はそれに従う、けれど、薄々気がついてるんだ、暫く食い繋いだ所でいずれは元通りに戻ってしまう。


父様はどこで何をしてるんだろう、姉さんも、家族をここに残して居ないというのに。


「…父様」


覆面をつけたままだと本も読みにくくて、その時ばかりはたくし上げて本を読んでいた。

たくさんの図鑑達や古文書、海外の本、俺の部屋は家の資料室の本を上回るほどの本がある。俺はこの目とそばかすのせいで疎まれて

家から出れないので本を読むことが多かった。

父様はそんな俺に街に行く度に本を渡した、これも勉強だと、世界を知れと、それを聞いた母様は父様と喧嘩をしていた、こんな化け物を外に出したら我が家は崩壊してまう、と

幼い俺はそれが当たり前のような光景だったから、ナオンが青い瞳で綺麗な赤髪なのを見て俺が異端なのだと知った。

この尖った歯もそうだ、父様、母様、ナオン、シォンにはこんな風に尖った歯もそばかすも紫の目も、優れた嗅覚や聴覚もなかった、なかったんだ。

俺だけ、俺だけが異端な姿をして、家から出ることも許されず、1人でずっとずっと勉強だ訓練だ、と、女に生まれていればもっと愛して貰えたかもしれないのに、

女でもう少しまともならどこかに嫁いで家族の糧になれたかもしれないのに。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、ご飯持ってきたよ」


「ごめんね、ナオン俺はいらないから、ナオンが食べて」


「もう、またそんなこと言って、今日はね、お肉だよ、ビーフシチュー、お兄ちゃん好きでしょ?」


いい匂いが扉の向こうからする。

よかった、栄養価もありそうだ、ナオンが母様が暫くは生きていられる。


「俺は、いい。俺はいいから、食欲がないんだ」


「どうしたの?具合悪いの?ねぇ、ドア開けて?お兄ちゃん」


「…ごめん、ナオン」


「お兄ちゃん?ねぇ、どうして開けてくれないの?どうしたの?またお母さんに虐められたの?」


「違うよ。ねぇ、大丈夫だから、お願いだ、今はそっとしておいてくれ」


「……わかった、ご飯、ここに置いておくね」


「…ありがとう」


嗚呼、気持ち悪い、胸がぎゅうっ、と音を立てて握りつぶされるような、辛い食べ物を口いっぱいに含んだようなヒリヒリとした感覚が口に拡がった、吐きそうだ


大好きな、妹に嘘をついた。

大切な、守るべき妹に嘘をついた。


ナオンの去る足音を扉越しに聞きながら、

座り込んだ、覆面に水分が染み込んで重くなっていく、顔に張り付いて不快だ、

黒いシミが白いカーペットを汚していく、

黒くてドロドロとした汚い液、どこから垂れてるのかと顔を触ると目から、止めどなく落ちているのを感じた。

穢い、汚い汚い…!

ゴシゴシと腕で拭った、ヒリヒリとチクチクとしたけれど気にしない、この汚い液を拭えるならなんでも良かった。


ドアを少し開けて、冷めた夕食を部屋に持ち込む。


冷たい。

俺は暖かい食べ物を食べたことがない、いつも冷たく冷えている物を食べている、丁度いいんだ、暖かいものを食べたらきっと口内を火傷してしまう。


ナオンはいつも…いつも…?

あれ、なんだっけ…。

 

きっと明日になったら思い出せるだろうし、考えるのをやめよう、そんなことよりも今はこの夕食を食べて、本を読んで、明日ナオンに謝らなきゃいけないから言葉を選ばなきゃ



朝日が上がる前に目が覚めて、顔を洗う。

みんなが起きる前に部屋を抜け出して食器を台所へ持って言って、洗う、母様の手を煩わせたりすればナオンが八つ当たりされてしまうのは安易に想像できた。

庭に出て畑を見に行く、あぁ、酷い匂い、根から腐ってしまってる、

手際良く抜いて、代わりに肥やしを混ぜて畑を耕した、これも早朝の俺の仕事。

今度こそ、野菜が育って欲しい。


ウーウーと遠くからサイレンのような嫌な音が聞こえていて、それは日に日に近くなっている、この音の近くにはきっと父様がいる。


いない神様に願うのは家族が平和でありますように、俺は死んだところできっと裏庭に埋められるのだろうな、そんなことを考えながら汗を拭った、昨日の夕食のおかげかだいぶ身体が動くようになった


「お兄ちゃん!」


「ナオン」


「おはよう、おつかれさま、はい、お水」


「…ありがとう」


冷たい水を流し込みがらナオンを見る、また、頬が赤い


「ナオン」


「なぁに?」


「また母様に叩かれたの?」


「これは、これは、私が悪いの、大丈夫だよ!」


「…そっか、あんまりやんちゃすると母様の暴力が悪化するよ?」


「えへ、気をつけるね、あ、お兄ちゃん」


「ん?」


「髪!してあげるよ!座って!」


「あぁ、ありがとう、でも、大丈夫だよ、ナオン」


「ボサボサだよ?」


「うん、大丈夫、それに今、汗だらけで臭いから」


 「そっかぁ」


「ありがとうな、また、ね?」


「うん!」


母様の言いつけを守っていればナオンは不幸にならない。

母様の言いつけを守っていればナオンは不幸にならない。

なんども繰り返し繰り返し言い聞かせる。

ボサボサの髪を自分でときながらひとつに結う、上手くいかないけど、無いよりはマシだから、これでいいや。


久しぶりに魔女の森に行こうかな、食べれる木の実があればいいんだけど