阿曽隧道
金ヶ崎山トンネル編で僕は、敦賀には3つの全国区の廃隧道があるというお話をしました。
その中に一つ、敦賀市内にもかかわらず未だレポできていない隧道があったのを覚えているでしょうか?
阿曽隧道(あぞずいどう)
国道8号の旧道に掘られた明治生まれの大物隧道です。
実は他の2つ(金ヶ崎、小刀根)ももちろん行きたかったのですが、この隧道に関しては小学生くらいの頃から強く「あそこに行ってみたい!」と思い続けた高嶺の花なのです。
なぜ県外にまで廃隧道を見に行くような変人が、たかが市内の廃隧道にこれまで近寄れずにいたのか。
それはレポを見てもらえば分かると思います。
それではレポスタート!
さてここは国道8号現道、あの福井県道209号の五幡交差点から福井側に少し走った地点です。
ん?いつもと雰囲気が違う??
車が全然走ってない??
それもそのはず、現在の時刻
A.M 6:00
低血圧で朝が辛い僕にとって、初めての時間帯の探索です。
(実はこの日、サッカー日本対フランス戦が4:00から放送されていて、その為に早起きしたんですが)
行く手をさえぎるロックシェッド。
この先に隧道が掘られている旧道があります。
しかし見てください。
人が歩けるスペースなんてほぼ0。
そう、この隧道の探索を非常に困難なものとしている最大の要因は、この現道の交通状況。
新道野越編でも紹介した通り、いまさら言うまでもない北陸の大動脈である国道8号。
昼夜を問わずトラックが行きかい、我先にとこの海岸線を飛ばしていくのです。
そんな超危険地帯を歩行スペース0で通りきる。
僕にはそんな危険は、とてもじゃないですが冒せませんでした。
絶対そもそも人が歩くことを想定してないよ、この道。
しかしそんな国道8号の交通量が唯一収まるのが、朝3:00~6:30までの時間帯。
ここを逃せば再び通勤やトラック輸送が本格化し、現道は修羅場と化します(言い過ぎ)。
つまり探索のタイムリミットはあと30分!
さぁ行くぞ!
ロックシェッドの中はとてもじゃないですが立ち止まって撮影するなんて余裕はなく(日中に撮影している写真がネット上にありましたが、僕には無理、怖い)、横を高速で通り過ぎていくトラックにビビりながら駆け足でこの歩道までたどり着きました。
しかしこの歩道はホント天の救い。
旧道由来のものにも見えませんし、補修用かと思います。
そして現道にもトンネルが掘られています。
黒崎トンネル(くろさきトンネル)
このトンネル(阿曽隧道も)が掘られている岬を黒崎というので、そこから名づけられたのでしょう。
阿曽トンネルじゃないところがいいですが、ロックシェッドで結局名前はわかりませんね。
お気の毒に・・・。
ここに紹介しとくからな!
さて進もうか。
だいぶ草に埋もれていますが、間違いなく道の痕跡です。
しかし8,9月ってのは探索には向かない季節ですねぇ。
非常にわかりにくいですが、草の陰に縁石が現存していました。
貴重な生き証人です。
背丈に匹敵するマント群落をかき分け、振り返れば現道のロックシェッド。
こういう現在と過去のギャップが良いですね。
しかし朝方っていいなぁ。
なんか廃美って朝が一番美しい気がする。
低血圧には心底きついですが、また朝方の探索やりたいなぁ。
現在は使われていなさそうな倉庫の前に来ると突然、緑の勢力が衰えました。
釣り客の刈払いか?
倉庫の持ち主か??
これは謎です。
そして続く明確な踏み跡。
これはやはり仲間(オブローダー)達がここを訪れた後なのか。
はたまた別の理由があるのでしょうか?
なんにせよ僕はこれをありがたく使わせていただきます。
人工的な壁が見えてきた先には・・・。
阿曽隧道
この隧道の竣工はなんと明治9年。
現存する県内最古の隧道です。
金ヶ崎隧道、春日野隧道と合わせて春日野道三兄弟とも言われる隧道ですが、この釣鐘型の坑口がその特徴です。
春日野隧道や金ヶ崎隧道よりも古く、一度崩落している等紆余曲折があるせいか、そのポータルにはほとんど飾り気はありません。
というよりもこのポータル自体は後年(といっても明治でしょうが)作り直された可能性が高いようです。
もともと素掘りの人用隧道を直したという説が有力ですね。
洞内は平穏そのもの。
完全素掘りの隧道ですが、崩落はほとんど見られません。
驚異的な地質安定度です。
しかし振り返ってみると・・・。
怖ぇえ・・・
入り口は土砂流入で埋没しそうな雰囲気・・・。
まぁ隧道には2つの出口があるので、こっちが塞がれても問題はないんですが。
反対側はストレートにロックシェッド突入。
そう、僕が小学生ながらにこの隧道を知っていたのはこちらの坑口を車窓から見たから。
もしかしたら僕の他にもこちらから見る廃隧道の景色に心奪われた人がいるかもしれません。
時間にして15年以上。
僕はようやく思い続けた場所に立つことが出来ました。
近くて遠いロックシェッド。
この葛の海は容易く人を通してはくれません。
歩く路面は平坦ではなく、ボーリング玉大の落石がごろごろ落ちていて非常に不安定。
この先には隧道工事で亡くなった方の慰霊碑があるのですが、時間的にもそこまで行くことはかなわず、ここで手を合わせて引き返しました。
これが僕の心を奪った阿曽隧道北側坑口。
100年以上の時を越えてもそこに存在する人の痕跡。
それはもはや人間が生活範囲を広げる為の執念ともいえるものかもしれません。
草に埋もれて、蔦に絡まれて、それでもそこにある。
そしてそれが異常に似合う隧道です。
旧道から望む日の出間近の敦賀湾。
いつの日かまたここに来ようと思います。
早起きが出来たらな。
以上、阿曽隧道編