ヒトラー暗殺未遂事件を描いた映画
本日、7月20日は何の日か?と聞かれても答えられる日本人は極めて少数派でしょう。一方、ドイツ人なら、この7月20日の持つ意味も、そして「クラウス・フォン・シュタウフェンベルグ」という名も知らない方が少数派でしょう。そう本日は70年前に起きた「ヒトラー暗殺未遂事件」の発生した日です。トム・クルーズ主演の「ワルキューレ」によって、この事件の知名度が日本においても少しは上がったのではないかと思われますが、もちろん、この事件を描いた映画は「ワルキューレ」が最初ではありません。そこで、この事件を映像化した映画について、私が見た順番に取り上げて見ます。
砂漠の鬼将軍(1951)THE DESERT FOX
本作は「砂漠の狐」と呼ばれたロンメル元帥の半世紀を描いた伝記映画…のハズですが、なぜ砂漠の狐と呼ばれることとなったのか、戦いにおけるその知略ぶりが全然描かれておりません。戦闘シーンも、実写シーンを織り交ぜて軽く流しているのが残念。お話はむしろ、アフリカを去ってからのエピソードが中心となり、その過程で「ヒトラー暗殺未遂事件」も登場します。もともと、暗殺未遂事件を描く映画ではありませんし、戦後まもなくに作られた映画ですので、事件の描き方はかなりアバウトなものです。ルーサー・アドラー演じるヒトラーは、なかなか良い味を出していたと思います。
将軍たちの夜(1966)THE NIGHT OF THE GENERALS
ワルシャワ、パリで発生した娼婦殺害事件に「将軍」の影がちらついており、その事件を追うドイツ国防軍情報部の少佐を描く上質のサスペンス映画。実は私、題名とビデオのパッケージから、キワモノ映画であると勘違いをして、なかなかこの映画を見ませんでした(汗)。本作においても、話の途中の一つのエピソードとして暗殺事件の模様が描かれておりますが、爆弾がカチカチと音がするタイマー式のものだったり、かなりアバウトというか適当な描写でした。作品全体の質が高かっただけに、これはちょっと残念。ちなみにテレビ放送の吹替版は72分の素材しか現存していないそうで、これまた残念。
ヨーロッパの解放/第3部・大包囲撃滅作戦(1971)
OSVOBODZHDENIE: NAPRAVLENIE GLAVNOGO UDARA
ガルパンとのコラボのお陰で、再びこの映画が脚光を浴びる形となりました。やはり映画全体が長いということもあり、個人的にはそれほど好きな作品ではないのですが、カラーの戦闘シーンの合間に、モノクロで挿入される個々の戦史エピソードには目を見張るものがあります。暗殺未遂事件も、その戦史エピソードの一端として挿入されており、時間的にはそれほど多くはないのですが、総統大本営の爆破やレーマー少佐とゲッベルスとのやりとり、そして反乱の終焉に至るまでをツボをおさえて描いております。ヒトラー、スターリン、ルーズベルト、チャーチルなども本物そっくりさんが登場します。
殺しのプロット/独裁者を消せ!(1990)THE PLOT TO KILL HITLER
「コマンド戦略」、「レマゲン鉄橋」の製作でお馴染みの、デビッド・L・ウォルパー製作による1990年のテレビ映画。残念ながら巨費を投じたスケールが大きい作品ではないため、シュタウフェンベルクが暗殺計画に加担する過程を丁寧に描く一方、爆破してからのワルキューレ作戦の実行の部分では物足りなさが残ります。私の中ではデビッド・L・ウォルパーの名は、戦争映画の大作プロデューサとしてインプットされていたので、本作の小粒さはちと寂しかったです。また、事実の再現という点では疑問符の付く場面も散見されますが、全体的には手堅くまとめているという印象です。本作では、オルブレヒト将軍を演じたマイケル・バーン(ナバロンの嵐やインディ・ジョーンズ最後の聖戦)が印象的です。
ヒトラー暗殺(1955)ES GESCHAH AM 20. JULI
「史上最大の作戦」のドイツ軍側シークエンス監督のベルンハルト・ビッキがシュタウフェンベルグを演じた1955年の西ドイツ作品。私は国内でDVDが発売されるより前に、PAL版VHSを取り寄せて鑑賞しました。本場ドイツの作品であるから、さぞ完成度は高いだろうと思いきや…本編が70分あまりと短いということもあってか、始まってしばらくしたら、もうフュタウフェンベルグが総統大本営に向かう場面になるなど、かなり荒削りの作品という印象でした。
暗殺計画7.20(1955)DER 20. JULI
DVDは「総統爆破計画」と改題されておりますが、こちらも1955年の西ドイツ作品。主演は、その後、数々の戦争映画でドイツ軍将校を演じることになるウォルフガング・プライス。「ヒトラー暗殺」は、作品の完成度はイマイチでしたが、本作では反乱を計画した将校グループだけではなく、民間人の抵抗運動グループも描かれており、様々な立場の人間がこの事件に関わっていたことが判ります。事件の描写もツボを抑えており、本作は日本で劇場公開されたということもあって水準以上の出来となっております。
オペレーション・ワルキューレ(2004)STANFFENBERG
話題作が作られることになると、本家よりも先に似たり寄ったりの作品が粗製乱造されるというのが映画界の常です。私はてっきり本作もその手合いかと思っていたのですが、よい意味で裏切られました。本作は事件60周年にあたりドイツで製作されたテレビ映画ですが、実機と思われるユンカースが出てくるなどテレビ映画の域を超えており、後の「ワルキューレ」と比べても、遜色のない出来栄えです。演出過多のハリウッド映画と比べると、演出が抑制された本作は地味に感じるかもしれませんが見応えのある力作です。
ワルキューレ(2008)VALKYRIE
史実を再現するというのは決して簡単ではないと思いますが、そこに商業映画としての面白さを盛り込むというのは更に大変だと思います。しかも、本計画が失敗するのは歴史の事実として分かっております。判っていながらも、いかにサスペンス性を持たせて観客を引き込むか。そういった問題を、本作は見事にクリアしております。おそらく「ヒトラー暗殺未遂事件」を描く映画は、これが最後ではないでしょうか?それだけ完成度の高い作品です。
戦争の黙示録/ヒトラー暗殺(1988)WAR AND REMEMBRANCE
第二次世界大戦の開戦前から戦争終結までを壮大なスケールで描いたハーマン・ウォーク原作の小説『The Winds of War』とその続編の『War and Remembrance』をTVシリーズ化した作品。前者は『戦争の嵐』の題名で8日間に渡って放送され、後に短縮版のVHS(5巻組)が発売されました。また後者は『戦争と追憶』(VHS・9巻組)と『戦争の黙示録』(VHS・5巻組)で発売され、その『戦争の黙示録』のVol.3においてヒトラー暗殺計画が描かれております。本作品では、いわゆる「狼の巣」での場面はそれなりに丁寧に描かれていますが、その後はナレーションで失敗の説明がなされ、あっという間にシュタウフェンベルクが暗殺されてしまうので多少物足りなさはありますが、まあやむを得ないでしょう。