その向こう側にあるもの
8月も半ばになり
暦の上ではもう
早くも立秋を迎えています
激しい通り雨のあと
夕焼けの空に
大きな二重の虹が架かるのを
2日連続で見上げた夏の始まりが
ついこのあいだのように思えます
夏の休暇に入られている方も
多いかと思いますが
厳しい暑さが続く毎日
幼い頃に過ごしたような夏の記憶
待ち遠しかった
あの煌めくような季節とは
いつのまにか
大きく変わってしまったような気がして
少し寂しくやるせない想いになります
日本だけではなく
地球上の各地が異常気象で
過ごしやすいはずの
南太平洋に浮かぶ島々ですら
湿度の高い日が続いていると聞きました
その南太平洋の島
ハワイ島の聖地マウナケアで
今起こっていることを
日本ではほとんどと言って良いほど
情報は報道されていないので
ご存知ない方も多いかと思います
晴天率も高く高所にある
マウナケア山頂には
世界各国の天体望遠鏡が建設され
日々天文観測が行われています
日本の誇る天体観測望遠鏡・すばるは
口径8.2mという想像もつかないほどの
大型望遠鏡で
日本の高度で緻密な最先端技術を結集し
1999年のファーストライトから
これまでにも多数の惑星や新しい星を発見し
世界の天文科学に大きく貢献してきました
そのマウナケア山頂に
すばるをはるかに超える口径30mもの
『TMT』と呼ばれる
あらたなる巨大望遠鏡の建設予定を巡って
2014年から抗議行動が起こり
2019年6月20日にハワイ国土天然資源省が
建設着工を許可したため
現在 地元住民の人々との激しい対立抗争が
続いています
TMT建設の現状についてはもちろん
その建設予算 約1,8兆円のうち
約25%を我が国が出資することになっている現実を
知る方はさらに少ないのではないかと思います
TMT建設に関してはあらゆる意見があり
様々な立場から言及されているので
一概にこの場所で言葉を発することは
差し控えたいと思いますが
天文観測という最先端科学技術の世界と
マウナケアというハワイの人々にとって
古くから聖地と呼ばれてきた
神々の住む土地を守りたいという
頑なな想いがぶつかり合うのは
極めて当然のことかもしれません
TMTの問題だけでなく
テクノロジーと自然の世界の
共存を巡っての対立争いは後を絶たず
人の尊い命まで奪い脅かすような出来事が
起こるたび考えさせられることは
いつも同じであるように感じます
日本においては唯一の被爆国としての立場
そして言うまでもなく
福島の原発事故の大災害
あらたに私たちが得ようとするもの
それが本当に必要なものなのか
純粋に惑星や宇宙
月や星たちを巡る天文科学の研究のためであり
私たちの暮らしに
必要不可欠な技術貢献や投資であるのか
たとえば何かを所持することで
それが国としての何らかの
力を誇示するためのものであったりはしないのか
そういったことを私たち一人一人が
自分自身に問う必要はあるのではないかと
思います
ふと目覚めた朝
窓の外に薄紫の美しい朝焼けが広がっていたり
夕暮れの風に言葉にならない
懐かしさを覚えたり
何気なく穏やかに過ごした夜が満月だったり
雨上がりの空に
気配を感じて見上げると
大きな七色の虹が架かっていたり
ほんの数年前までは
そんな偶然の幸福が日々の当たり前に
そこにあったように感じます
古来の人々はきっと
そういった目の前にある
自然の風景や現象に
未来への希望の兆しを感じたり
時には生きる道しるべとして
かけがえのないものとして
生きていたのだと思います
時代が変わりテクノロジーが進むにつれ
何かを得ると同時に
そういったものを感じる力は忘れ去られ
私たちから薄れていくように感じます
夏の始まりに
消えてしまうまで見上げた
大きな虹のように
美しい自然が少しでも長く
この星から消え去ることのないように
願うばかりです
大きな台風が日本列島に近づきつつあります
どうか被害のないように
そして遠く離れたハレアカラにも
心から平和への祈りを捧げたいと
思います