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崖の上のボロ庵宿坊ものぐさ帖

判決…あの世のイソップ物語

2019.07.27 01:28


彼は…まさに…申し分のない人間だった…


少なくとも…自分だけは…死ぬが死ぬまでそう固く信じていた


子供のころから…親や大人たちの言いつけはきちんと守ってきた

だから…学校でも…教師から…生徒の鑑だと…ずっと…言われてきた…

社会に出ても…いつも…世のため人のためを考えながら…

他人の世話のためなら…自分のことは後回しにしてきた…

家族の幸せのために自分のしたいことをいつも二の次…犠牲にしてきた…


家柄のせいで信仰にも厚く…まわりの強い後押しもあって…彼は…50歳の時に…幼いころから続けてきた新興宗教の頂点…いわゆる会長職にも就いた


私は…人として非の打ち所のない人生を送ることができた……

息を引き取る前に…彼はそう告げて…微笑んだという…


※


四十九日が過ぎて…彼は…ほんとうにほんとうに…この世と別れをつげることになった…

四十九日の間…皆が…自分の死を惜しみ悲しみはすれど…悪く言う者が一人もいないことに…幽体離脱した彼は非常に満足げであった

彼は…思い残すことなく…三途の川の渡り舟に乗った…

渡り舟の船頭には…もちろん…渡り賃の他に…チップを添えることも忘れなかった…

ただし…その年老いた船頭が…じつはかの前世では総資産数十兆円のアラブの国王であったことは…彼は知るよしもなかった


彼は…船着き場でもらった…

《黄泉の国…案内マニュアル》

に従って…閻魔大王大審判公邸までやってくることができた…


入り口で順番待ちの番号札をもらうとそれは彼の教団では最高とされる幸運の数字だった…

彼は審判室の待ち合いベンチに腰を下ろし…自分の天国行きを…あらためて確信した


しばらくして…幸運の数字が呼ばれて…彼は中へ入った…


そこに立て…


王座の閻魔大王が言った


彼は…床の矢印に従って…部屋の中央に立った

背後でぞろぞろと人が着席しはじめた気配に振り返った彼は…その直後…目をまん丸にした…

全員が…彼と瓜二つだったのだ…


みんな…お前だ…


閻魔大王は…それだけ言って…あとは何の説明もなかった…


次…入場…


大王のかけ声で…部屋の脇から…何人かが出てきて…彼の前に並んで…着席した


彼らの背中のゼッケンには…番号の下に…名前が…

そのひとりの名前を…大王は…よんだ…


1番の守護霊…

まず…判決から述べよ…


はい…

守護霊と書かれたゼッケンの…まだ若い見るからに学生風の青年が…起立して…言った


地獄行き…に決定します…



よろしい…

大王は言った

お前は地獄行きだ…



ちょ…ちょっと…待ってください…

彼は信じられないと言わんばかりに…

声を上ずらせた…


(何故…

人として非の打ち所のない生き方をしてきたはずの彼が…なぜ…地獄行きなのか…!)


ちょ…ちょっと…待ってください…


いきなり…地獄行きの判決をうけた彼は…

思わず…信じられないと言わんばかりに…言い返した


私は…人として見本となるよう理想的な人生を送ってきました…

何かの間違いではありませんか…?


その石頭…昔からむかつくんだよな…

ゼッケン7番の学ラン姿の中学生が…吐き捨てるように言った

くくくっ…と…彼の前に着席している7人から笑いが起こった


7人は…彼の一生を面倒見てきた…彼専属のガイド…いわば守護霊たちだった…

中学生のガイドは続けた…

あの時…落ちてたエロ本を頑として拾わなかったな…欲しくて欲しくて…その場で15分も悩んでいたくせに…

俺…どうしても…見たかったんだよ…そのエロ本を…重罪だよ…反逆罪だ…


私も…そうよ…

若い修道女姿のガイドが…口を開いた…

あの時…捨てられて死にかかっていた子猫を塾に遅れては先生に叱られるという理由で見捨てたわね…

あの子猫はあなたの人生を左右する前世からのつよい繋がりを持っていたんだから…

せっかく…すがり付くような瞳と鳴き声であなたを惹き付けたのに…あと一歩のところで見捨てるなんて…弱虫…!

修道女は…そう言って…最後に彼に指を突きつけた



あたいなんかさあ…いちばん悔しい思いばかりさせられて…

小太りの外人の中年女ガイドが次に発言した…


子供のころから…あたいの食べたいお菓子を…親に叱られるからと…まったく買わなかったわね…

大人になっても…せっかく美味しい料理を…規則だからとか不健康だからと…

あたいが必要で差し出したものを…ことごとく拒否したわ…あいつは…

いったい…何だったの…あたいの80年間の努力は…!

ああ…悔しい…!




それなら僕だって…

と…ゼッケン5番の黒人の青年ガイドが…声を張りあげた…


タイプで可愛い女の子…いっぱいチャンスをやったのに…

自分だってやりたくてウズウズしてたくせに…

恋の予感…何回も送っただろう…

世間体…体裁ばかりを重視して…

僕にはつまらないことこの上ない人生だった…ああ…また…やり直しだよ…

黒人ガイドは…頭を抱えて…悔しがった…



一事が万事…!

お前の人生は守護霊たちの意思に逆らい…期待を裏切ってばかりの…非道この上ない行いである…

よって…レベル3地獄の厳罰に処す…!


閻魔大王は…彼に…金棒を突きつけて…きっぱりと…宣告した


あ~あ

彼の背後の席からハイアーセルフたちの落胆のため息が重なった…


げっ…お待ちください…!

それはないでしょ…

彼は必死に食い下がった…

それ以上に…私は世のため人のために尽くしてきました…

親には親孝行…家族には貧しい思いはさせず…世間では会長様と呼ばれて誰からも慕われていました…

私は善は思えど…悪行に手を染めたことは1度もない…!

彼は…興奮のあまり…唾をとばした…



それが何だと言うんですか…

1番のリーダー的守護霊が横槍をいれた…

あなたは…われわれガイドたちの声を聞けども…それに耳を傾けたことなど一度もなかったではないか…


しかし…私は地獄に落とされるような悪行はしておりません…

彼は喉を枯らして叫んだ…


ふふふ…


すると…ゼッケンNo.2の…ちょっと渋い中年男のガイドが…含み笑いで…言った…


お前さん…輪廻転生で…浮き世に生まれ出る時に…はっきりと宣言したぜ…

こんど皆さんの期待を裏切ったら…地獄へ落としてください…なんてよ…自分でさ…

証拠ならその時の霊TUBEがあるから見せてやろうか…



そういうなり…


彼の目の前の宙空に…巻き戻しされたその時の映像がはっきりと写し出された…


彼は唖然と固まった…

反論の余地はなかった…


しかし…私は悪いことは何も…


しかしもかかしもない…!

閻魔大王が怒鳴った…


往生際の悪いやつめ…

浮き世の善悪など…雲か霞…

あの世から見れば幻に過ぎん…

そんなことに…一生お前はうつつを抜かして…大切な使命をおざなりにした…


ちょっと興奮してきた大王は…

ぬっと立ち上がると…焼き尽くさんばかりの眼力で彼を睨みすえた


いいか…!


大王は…ドンと…金棒で床を叩いた…

部屋が揺れて…見物人から小さな悲鳴がおきた…


生まれ変わる際のお前の使命は…いいや…

おまえの願望とでも云おう…

それはな…

過去に類を見ない…

極悪非道の大悪人になることだったんだぞ…!


お前が自分で決めて言ったんだ…!



そんな…

彼は…へなへなと…腰を抜かした…


それを見ながら…大王は…

彼に最後の引導を渡した


しかしな…お前が自分の使命を怠ったがために別の者がお前の身代わりをするはめになってしまったんだ…!


分かってるのか…!


お前の身代わりのために…その者は歴史に残る大悪党に運命を方向転換せざるおえなかったんだぞ…!


いいか…!


お前の身代わりになったその者はな…


本来は…


ダライ・ラマ15世に生まれ変わる予定だったんだぞ…!


どうしてくれようぞ…!


閻魔大王は雷が落ちたような大声で…

彼に叫んだ…


よって…

無期限の地獄行きだっ…!


あまりのショックで彼はすでに気絶していた…


分かったか…

大王は…室内を見回すと…満足そうに…最後に言った


これが宇宙の法則よ…