ラボラトリー方式の体験学習とはその1
http://jiel.jp/laboratory/ より
ラボラトリー方式の体験学習のことを、ラボラトリー体験学習と呼ばれることがあります。ラボラトリーとは、実験室という日本語訳が一般には使われます。しかし、人間関係を実験室で学ぶとなると、少し違和感を感じる方も見えるかもしれません。もともとは、K.レヴィンと仲間たちによって、グループダイナミックス研究の成果を用いた民主的風土づくりのためのワークショップから誕生した学習方法です。
1947年に始まった「Human Interaction Laboratory」のラボラトリーから由来しています。人間関係(自己理解、他者理解、グループダイナミックス、リーダーシップなど)を学習者(参加者)自らがいろいろと試み(実験し)ながら学ぼうとする学び方です。私どもJIELでは、その学び方のキー概念は、「コンテントとプロセス」と「体験学習の循環過程」であると考えています。
私たちが日常グループや対人間で話し合っている際の課題や話題を「コンテント」とよび、その課題や話題に向けて活動をしている間に、個人の内で、また対人間やグループ・組織の中で起こるダイナミックスが「プロセス」です。下図のように氷山図で示されます。「コンテント」と「プロセス」は表裏一体のものであり、どちらも大切に扱うことが必要です。
また、その「プロセス」における気づきを大切にして、分析して概念化したり、次回の新しい場で試みる課題を考えたりするステップを「体験学習の循環過程」とよび、学びの大切なサイクルとして、下図のように示されます。
このコーナーでは、ラボラトリー方式の体験学習の実践に関する基本的な考え方を理解していただくためにさまざまな資料や教材を公開したり、直接集い交流を通して理解を深める学びの場などの情報を提供しています。
交流から学ぶ
文献や書籍、オンライン情報では、ラボラトリー方式の体験学習を実感、体感をもって知ることは難しいと思われます。直接、体験学習になんらかの関心をもっている人たちが集まり、直接体験をすることなどを通して、ラボラトリー方式の体験学習の理解を深めることができる場として「学びの場」を開催しています。一つは、体験学習を体験する場としての「体験学習実践研究会」と、体験学習のルーツでもある人々が集まりそのグループダイナミックスが問題解決の糸口を見いだすことができる機会を提供するために「ラーニングカフェFOR CHANGE」を開催します。
体験学習実践研究会
長く南山大学にて、開催をしてきた「体験学習実践研究会」を引き続き、JIEL主催で開催をします。本研究会では、基本的には、どなたかに体験学習の実習教材を提供していただき、提供者がファシリテーターになり参加者はそのオリジナルの実習を体験するとともに、その体験学習の進め方などをめぐるファシリテーションについて、話し合いをします。話題提供者も参加者も、まさにともに学び合う場です。
年に5回の体験学習実践研究会が開催予定です。各回の内容は、体験学習実践研究会のページをご覧ください。参加資格は、特にございません。「体験学習ってどんなのだろう?」「少し体験学習を始めたけどもう少し理解を深めたい」「新しい教材をもっと知りたい」など幅広い関心でお越しくだされば結構です。
https://www.shain-kyouiku.jp/word/0160.html より
ラボラトリー体験学習
ラボラトリー体験学習とは、体験学習によるトレーニングのことである。
その場にいる人々とのコミュニケーションやグループ行動を行う中で、自分自身がリーダーシップの役割や聴く役割など、様々な行動様式を試しながら、体験的な学習ができる方法である。 グループの中で生じた人間関係に焦点をあて、自分自身を見つめることや、問題を発見し解決していくといったことを行うことで、自立的な学びや人間関係について学ぶことができる。
https://www.nsgk.co.jp/sv/kouza/gw/experience.html より
ラボラトリー方式の体験学習とは?
歴史
1947年、グループダイナミックス研究の創始者でもあるK.レヴィン等が開発した、体験学習を用いたトレーニングを「ラボラトリー方式の体験学習」と呼びます。アメリカでは、NTL応用行動科学研究所(National Training Laboratories)によって主催されてきました。日本では1960年代から普及し、現在は南山大学などを中心として広まっています。
ラボラトリーとはどういう意味?
ちょっと堅苦しい「ラボラトリー」という表現。そのまま訳すと「実験室」となるため、「受講者が、誰かのモルモットになるの?」といった誤解を生むことがありますが、決してそうではありません。実際は「自分が自分のことを色々と試して(実験して)みることのできる場」という意味で使われています。例えば日常生活では試しにくいリーダーシップの取り方・聴く態度など試してみる、といったことができます。もちろん、講座の中で、受講者が何かを強要させられることは一切ありません。
概念学習ではなく、体験学習
日本の学校教育で一般的に実施されてきた「知識を覚える学び」は「概念学習」です。一方、「ラボラトリー方式の体験学習」では、一人ひとりの今ここでの「体験」を題材に学びます。前述の概念学習では、学ぶ内容が画一的であると言えますが、体験学習では受講者それぞれが異なることを体験し、自分ならではの気づきを得ることになります。単なる体験で終わらないよう、工夫された教材を用い、体験のふりかえりを通して学びを深めていきます。
思いや感情を拾う
日々、私たちの心の中では色々な"思いや感情"が沸き起こっています。また家族や職場の人間関係では、メンバーの"関係性"に様々なことが起こっています。しかし日常生活では、話題や問題、成果などに目が向きがちで、先に挙げたような"思いや感情"、"関係性"を取り上げないままに、先へ進んでしまうことも多いのではないでしょうか。実はそこに、人間関係づくり・チームづくりのヒントが隠れているのです。
「ラボラトリー方式の体験学習」では、その場にある"人間関係"をふりかえり、日頃は見落としがちな上記の点(プロセス、と呼びます)を丁寧に取り上げます。グループメンバーとともに、自分自身を深く見つめなおしたり、他者との関わり方を点検したりすることは、きっと明日からの人間関係づくりに役立つことと思います。
http://venus-association.com/a-top/tg.htm より
体験学習とは
体験学習とは、本や理論など、既に一般化されたモデルから学ぶのではなく、自分が体験したさまざまなことを大切にして、そのような今ここの生きた体験から学ぶ学習方法です。
その歴史は古く、1940年代に社会心理学者K.レヴィンによるグループダイナミックス研究の一環として開発されたトレーニング方法に端を発しています。
主に、コミュニケーションやリーダーシップと言ったヒューマンスキルトレーニングに適していると言われており、現在では、企業教育はじめ、 学校や病院、さまざまな組織におけるソーシャルスキル、ヒューマンスキルトレーニングの方法のひとつとして広く一般的に活用されています。
体験学習とモデル学習
体験学習を深く理解していくために、ここでは、体験学習を、モデル学習との対比の中で見ていきましょう。
私たちが“学習”と言った場合には、一般的にイメージされるのは、モデル学習ではないでしょうか。
モデル学習とは、既に出されている答や成功モデルから学ぶ学習方法であり、正解を複写し、 練習して記憶し自分のものにすることを通して成長しようとする学習方法です。
モデル学習は、先哲の叡智の結晶を短時間で体得するための大変効率の良い方法であり、 どんな文化や組織でも実施されている教育方法でもありますが、しかし、決して万能とはいえません。 例えば、コミュニケーションやリーダーシップと言ったヒューマンスキルを考えて見ましょう。 私たちの考え方では、ヒューマンスキルとは、個性の現れであると認識しております。 その際、個性には、正解やあるべきモデルはありません。すばらしいリーダーと言った場合、 咲く花は一輪だけではなくて、百花百様であり、あらゆる個性がすばらしいリーダーになりうる萌芽を持っているのです。
そのように考えた場合には、ヒューマンスキルのように正解が存在しない要素については、 モデル学習は、効果的には機能しづらいと言えるでしょう。
一方、体験学習とは、従来のモデル学習とは違って、既に一般化された知識やモデルから学ぶのではなく、 自分が感じ、体験し、気づいたことを大切にし、そこから宝を導き出す学習方法です。 体験学習は、過去の枯れた理論というよりは、“今、ここ”のリアルな体験を教材にします。 体験学習は、頭で分かることよりもハートで分かることを大切にするのです。
体験学習は、自分や関係性を体験を通して観察し、個人で感じたこと気づいたこと=個人の主観をチームで分かち合い、 さまざまな視点から本当のことを明らかにしていくことを通して、真実の理解や、 よりよいあり方の探求をしていくことができる学習方法です。
また、ありのままの現実を淡々と観察していく方法でもあり、「こうあるべき」や「こうあるべきではない」 と信じ込んでいる考え方から離れ、自然で等身大の自分自身をみつめ、本来の自分らしさを探求していくことができるので、 自由になる、本来のエネルギッシュで生き生きとしている自分を取り戻す方法ともいえましょう。
技術の進歩が早く、変動の大きい時代にあって、変化に柔軟に対応し、智恵を生み出し、 創造的に問題解決を図るための質の高いコミュニケーションやリーダーシップの能力育成が求められている現代では、 主体性や個性を重んじて、その限りない潜在性を引き出す支援をする体験学習による教育方法が 大変威力を発揮すると言えましょう。
体験学習の学習プロセス
体験学習は、先生の講義や理論モデルから学ぶと言うよりは、体験から学ぶ方法であり、通常の場合、まず、チーム活動や個人ワークのような"実習(structured experiences)"と呼ばれる体験エクササイズを実施します。
各種の実習は、さまざまなレパートリーがあり、楽しく熱中して参加できるように工夫されています。たとえばチーム活動のような実習を実施すると、チームコミュニケーションは一気に活性化し、文句なく楽しいことが多いので、メンバーの参加度合いは増し、凝集性は高まることが多いといえましょう。
しかし、ややもすると、このような刺激的な実習の側面だけをとらえて体験学習と呼ばれることが多いのですが、 単に体験だけでは、本当の意味での学習にはつながらないと私どもは考えております。
体験学習は、実習の後に、体験プロセスをじっくりと丁寧にふり返り、観察していくことを通して、 普段は隠れて見えることがない人間関係の中で起こっているさまざまなことがらに光を当てて、 思い込みではなく、ありのままのリアリティや関係性の真相を理解していくことを試みる学習方法なのです。
ですから、どちらかと言うと、刺激的で興奮する学習方法と言うよりはむしろ、粛々と淡々と内面や関係性をみつめ理解を深めていく 方法であり、その学習がうまく行くときは、たいていの場合、静かで穏やかな雰囲気になることが多いと言えましょう。
その具体的なプロセスは、以下のとおりです。
1.体験
グループワークやエクササイズなどの実習を実際に体験します。
2.観察
実習の後で、実習中に体験した様々な事柄(自分の感情、感覚、思考、など)を言語化し、記述します。
日常生活の中では、多くの場合、どう行動すべきか、どう考えるべきか、 などといった自分なりの仮説や正解、態度をもって体験と関わり行動を評価しますが、体験学習の場合には、 そのような自分の中に既に構築されているメンタルモデルをひとまず保留して、 起こった出来事や体験したことを、ありのままに丁寧に観察していくことになります。
謙虚に現実を観察し、ありのままの姿をよく探求していくことで、思いもよらなかった可能性と出会い、 隠されている真相や真実が明らかになっていくことになります。
具体的には実習の後で、実習中に体験した様々な事柄(自分の感情、感覚、思考、など)を言語化し、 紙に書いていきます。その際、体験をふりかえりやすくするために設計された一定の書式(プロセス観察シート)を使うこともあります。
3.分析
2で記述した体験は、自分の内面で起こった出来事なので、自分にとっては本当のことですが、 人間の認識にはバイアス(偏向)がかかっており、現実をありのままに理解しているとは限りません。例えば、自分の実感では、「太陽が動いている」のですが、 真実はそうではありません。
特に、人間関係のような複雑な現象を理解する場合には、誤解や思い込みが多く、 真実を知るためには個人だけの認識ではなく、多くの視点から観察したデータを持ち寄ることが大切となります。
ですから、本当のことを理解していくために、メンバーそれぞれが体験をふりかえった観察データを公表し分かち合います。 この分かち合いを通して、ありのままの現実や本当のことを理解していく事が出来るようになるのです。
本当のことが分かれば、自分はどうあればいいのかは、自明のこととなりましょう。
4.仮説化
実習の後で、実習中に体験した様々な事柄1~3までのプロセスを経て明らかになった現実に基づいて、 「なぜその様な事になったのか?」「よりよくするためには、どうあればよいのか?」について自分なりに仮説化します。 その時に、小講義と言う形で、既に一般に公表されているような理論や学説などを参考にする場合もあります。
導き出された仮説は、次の実習で検証したり、実践してみて、更に深く探求し理解していくことが出来ます。 また、より良いと思える方法を次の実習で試みて行くことができるので、実習を繰り返すうちに、 個人として、チームとして成長を実感して行くことができるでしょう。
このように、実践や試みを通して学習し、成長を図ることができるので、 体験学習方式による方法は、ラボラトリーメソッド(実験室メソッド)とも呼ばれています。
ラボラトリーメソッドとしての体験学習の効果
体験学習の目指すもの、そのねらいは、主に、個人の領域と集団の領域に分けることができます。
1.個人の領域
体験学習は、ありのままの現実を良く観察することを通して、本質や可能性を探究してく方法であり、 個人が本来持っている自然でリアルで限りない力や可能性と出会い、本当にそう生きたい生き方や自分らしく輝いて生きる生き方を後押し、 支援ができる優れた方法です。
体験学習を通して個人が学ぶことができる要素の代表として、私どもは以下の項目を考えております。
①主体性
自分自身が感じたことや気づいたことを信じ大切にして、その体験をもとに学ぶことを繰り返すことで、 自分のコントロールセンターを、他者の権威に置くのではなく、自分自身でつかみとり、ついには自分の人生を自分らしく 輝いて生きる主体性を獲得することにつながります。
②自己信頼と自尊心の回復
等身大で、ありのままの自分自身を探求することを通して、自分の注意すべき点に気づくと同時に、 思ってもみなかったような輝かしく大きな存在としての自分自身に気づくことが多く、自分の中に深く根付いている否定的な 自己概念が解かれて、よりリアルで自然で健康的で偉大な存在としての自己を回復することにつながります。
③落着きと集中力
ありのままを一旦受け止めてみること、現実をそのままで観察してみることを繰り返すことで、 その場で起こっているありのままの現実を嫌ったり恐れたり拒絶したりすることによる内面の騒がしい反応が静まり、 落ち着いてよく場や現実を観察する能力や集中力が格段に向上します。またその落ち着きと集中力は、 個人の潜在化しているさまざまな能力やスキルを表に出す強烈な力となるのです。
④創造性(Creativity)
内面で起こった気づきやひらめきやアイデアを大切にして、それを書きとめて、 実際に表現していくことを通して、次第に個人の表現力のスキルが高まり、個人の創造性も同時に開花していくことになります。
⑤チャレンジ精神
体験学習は、実践を通して学ぶ方法であり、試みる学習方法でもあります。ですから、個々人のさまざまな挑戦や試みは、守られ奨励される風土の中で、新しい自分を発見し、 その可能性に挑戦していくスキルも身につけることができます。
2.集団の領域
体験学習は、リアルに起こる人間関係のプロセスを通して、そのより効果的なあり方を探究していく方法です。 ですから、人間関係(チーム、組織)のより良いあり方を学ぶと同時に、実際に場のメンバーのコミュニケーションの改善や リーダーシップスキルの向上が起こり、受講チームの生産性や創造性が大幅に高まることが多いといえます。
学習と改善が同時に起こる体験学習方式は、職場ぐるみで実施するなどを通して、 実際の現場を改善していくことができる実践的な現場変容のツールともなるのです。
①コミュニケーションの改善
コミュニケーションは、安全性や生産性、創造性に大きな影響を及ぼす要素ですが、 体験学習は、この職場のコミュニケーションを改善し、開放的でオープンな風土を醸成することにつながります。
②チームビルディング
チームとして協力し、チームパフォーマンスを高めるための実践学習を通して、 チームの優れた可能性を引き出すことにつながります。
③基本的な信頼関係
深くて正確なコミュニケーションを通して、メンバー相互の懸念や誤解を解消し、 相互理解を促進すると同時に、共に協力し合って課題を成し遂げるために必要な基本的な信頼関係を育成することができます。
④生産的、創造的な組織風土の醸成
体験学習の学習目標である、オープンなコミュニケーション、相互に信頼しあえる関係、共通のヴィジョン、 自己実現に関する学習を通して、組織全体としての力、生産的で創造的な組織風土の育成につながります。
⑤チャレンジ精神に基づく組織風土
失敗を許される風土、挑戦を尊ぶ風土、繊細な問題を無視しない風土、問題から逃げない風土、あきらめない風土、 など、学習を通して、チームが本来持っている素晴らしい素質が育まれていきます。