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ダンス評.com

ケイタケイ’s ムービングアース・オリエントスフィア「LIGHT, Part 49『祖への道』:ダンスがみたい!21『三道農楽カラク』を踊る。」d-倉庫

2019.07.27 14:55

課題楽曲にダンスを振り付け踊る「ダンスがみたい!」シリーズ。第21回の今回は、11組の振付家・ダンサーが、韓国の民俗芸能を継承するために音楽を現代的に創り直す集団・演奏形式「サムルノリ」の曲「三道農楽カラク(サムドノンアクカラク)」に取り組んだ。

ケイタケイ氏は、来日したアンナ・ソコソフの推薦でジュリアード音楽院舞踊科に留学、アメリカでアン・ハルプリン、マース・カニングハム、マーサ・グラハム、トリシャ・ブラウンなどに学ぶ。ケイタケイ’s ムービングアースを結成し、アメリカやヨーロッパで公演活動をした後、1992年に帰国し、ケイタケイ’s ムービングアース・オリエントスフィアを結成。アメリカで創作していた「LIGHTシリーズ」を2009年から再開し、再創作や新作発表を行っている。日本では第27回ニムラ舞踊賞(2007年)などを受賞。

ケイタケイ氏のトークを聞きに行ったことがあり、何の知識もなく行ったら、アメリカのモダンダンスやポスト・モダンダンスの超著名な振付家・ダンサーたちに教わった話が出てきて、20世紀のダンスの生き証人のようだと驚いたのだが、バリバリ現役で新作を発表し続けている。今回、初めて作品を見る機会を得た。

舞台と客席の距離が近い劇場である日暮里のd-倉庫で、天井に白っぽくて巨大な蛇のような形状のオブジェ(木の枝をイメージしているのだろうか?)がつるされている以外、舞台セットはなく、照明がメリハリをつけるのに一役買っていた。

2部構成で、「I 行進」の音楽は宗誠一郎、「II 動物葬」がキム・ドクス、サムルノリで「三道農楽カラク」。生演奏ではなく録音だが、録音とは思えない迫力で、地の底からリズムと声が湧き上がってくるようだ。

開演時は真っ暗になり、照明がつくと、舞台上手にダンサーたちが客席を向いて何列かになって立っていた。みんな両手に小枝に付いた葉っぱを握っている。一斉に四股を踏むように動き、膝を伸ばす、手を振る。動き自体が特殊なわけではないが、始まった途端に、これはすごい、と思った。

同じ動きを繰り返したり、横を向いたり、数人ずつ移動したりするが、やはり別段特殊な動きではなく、動き自体はやろうと思えばダンサーではなくてもできるかもしれない(中腰の体勢はかなりきついと思うが)。

真っ先に浮かんだ言葉は「土着的」という、あまり使うべきでないかもしれず、あまり使いたくもない、使い古された言葉だった。見ているだけで血が騒ぐような興奮、高揚は何だろう?引きずり込まれそうで、危険すら感じる。ずっと見ていたい、終わってほしくないと思ってしまう、この中毒性のあるすごさは一体何だろう?失礼ながら、通常の意味で美しいと言える見た目のダンサーは1人くらいしかいないのに、皆がエネルギーに満ちあふれていて、目が離せないのは、なぜだろう?

しばらくして、ダンサーたちはただ足を踏みしめているわけではない、ただ手を上げているわけではないのだと気付いた。上げる手に、尋常ではない力がこもっている。舞台だが地面に見えてくる大地に、何かの思いを込めて足を下ろしている。そして、ダンサーたちの目。彼らの目は何を見ているのだろうか?彼らはどこにいるのだろうか?劇場の中にいるようには見えない。

彼らは私たち観客に何かの景色を見せている。それは、土地と自然に根差した暮らしをする人々の世界かもしれない。シンプルな薄茶色(アースカラー、土の色)の衣装に汗がにじみ、必死の形相で苦しそうに踊っているダンサーもいる。それが、美しい、というか、貴い、ようにも見えてくる。

こういうダンスはまさに「見たい!」ダンスだが、同時に、踊っているのではなく、農作業をしているようにも、儀式をしているようにも思えてくる。

第2部で、手に持っていた植物を舞台の両側に置いたダンサーたちの手が赤く染まっていて、驚いた。元からそうだったのか、それとも植物を握りしめていたために色素か何かが付いたのだろうか?その手は、「動物葬」の手なのだろう。両肩を前方にすぼめて頭を前に落としてから、片方の肩を上から後ろへ回すと、その手はまるで動物ののどを掻っ切っているように見える。生きるために動物をほふって、感謝をささげているのだろうか。

簡単な動きで、どんなに深いことを「見せる」ことができるかを、見せつけられた。

通常は、このような、何かを「礼賛」しているようにも見える集団の踊りには警戒心が働くのだが、今回の作品にはつい敬服してしまいそうになる。怖いながらも強烈に引かれた。

この作品は、今回を初演とし、9月には「ケイタケイLIGHT津々浦々シリーズ2019」として、多摩川の7カ所で野外ツアー公演を行うそうだ。


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使用楽曲: 『三道農楽カラク』(「キム・ドクス サムルノリ」<synnara music> 収録)

構成・振付:ケイタケイ

出演:青柳ひづる、石田知生、岩崎倫夫、大塚麻紀、角隆司、川原田瑞子、響子、西巻直人、前田ゆきの、ラズ・ブレザー、ケイタケイ

舞台監督・美術・衣装:河内連太

衣装:ケイタケイ

照明・音響:曽我傑

制作:斎藤 朋(マルメロ)

制作協力:早田洋子

リハーサル・アシスタント:石田知生


前売:3,000円 ― 学生2,500円   

当日:3,500円 ― 学生3,000円  

3回券:8,000円 ― 学生6,500円

通し券:15,000円 ― 学生11,000円 ※11公演+姉妹企画のコンペ「新人シリーズ17」の受賞2作品再演の全13作品

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