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KOO

血柘榴 6

2019.07.28 08:09

ここ最近全力でナオンを避けていたからかナオンの機嫌がすこぶる悪い、いつもに増して弓矢の稽古の成績がひどいことになってるのを目撃してしまった。


「…むぅ」


ぶすくれ顔で的を見るナオンを遠目に見ながら家の裏庭に行く、罪悪感と寂しさで胸が苦しいけれど、なんやかんやで覆面を付けて過ごす生活にも慣れてきた、食料はまた少しずつ底をつき始めたが今度は俺にはなにもすることが出来ない、少しでもまともに生きる為に家にある物を売りながら過ごしているが、この不景気のせいで物価は高くなる一方だ、

どうにかしてナオンだけでも食べさせてあげたい、動物たちも狩られ過ぎて数が減っているというのに大丈夫なんだろうか……

それに遠くから聞こえていた音は日毎に着実にこちらへ近づいている

ここもいずれは離れなければいけないだろうな、けれど母様は俺の話を聞かない。

一言も聞いてはくれない


ならばどうにかしてナオンだけでも連れて逃げなければ、でも、逃げたところで俺達が生き残る保証も確信もない、国が1つ死ぬ度に兵器は力と勢いを増している気がする、どこか地下にでもに出た方が安心なのだろうか


シォンの家はあの音の近くにある、きっと逃げてると思うけど、もしかしたらこれは手遅れなのかもしれない、酷い薬品の匂いと動物を焼いたかのような嫌な匂いが薄く漂っていた


国の外の人間が無事な国に逃げ込むように沢山なだれ込んでくるせいで国の食料はますますそこをつくスピードを上げている。

今朝の新聞ではそれが一面に記載されていた

生物兵器は五体いるらしいが全然歯が立たないそうだ、この世の終わりも近いのかもしれないなぁ……なんだかそれでもいいと思う自分がいることに若干だが驚いている


母様はナオンにはきちんと食べさせなければと頑張っているようだけど、買い物が大好きな母様は自分の服やアクセサリーを売ろうとしない。売るのは家具や俺の本、絶対に自分のものは売り払わない、なんて驕慢なんだろうか…母様のネックレスを売れば暫くは食い繋げると思うのだけれど


この間は俺の部屋からベットが無くなった。

今はクッションの上で寝てる、どうにも落ち着かない、でもどこでも寝れるのは俺の長所なのでは…?


ナオンの物には余程でなければ一切手を出さない、それが母様とのやくそくだから。

俺の妹のナオンは昔から心配になる程物欲がなくて昔俺に


「お兄ちゃんが居てくれたら私はそれでいいの」

だなんて言っていた、なんて可愛くて健気な妹なんだろう。


「僕もだよ」


あまりにも幸せで、胸焼けをしそうな程に甘くて甘くて胸がいっぱいになった、彼女だけは、妹だけは絶対守りたいって思った。

この家で足でまといでしかない俺を大切にしてくれる唯一の救いだから。


父様も母様もシォンも俺を蔑むように哀れな生き物を虫を見るような目で僕を見て

 口を揃えて「可哀想な子だ」と言う、こればかりは仕方ない、だってきっとそれは本当のことだ、でなければきっと俺はこんな風にダメな人間には育っていない。


いずれこのにせよ家の食料は尽きてしまう、尽きたら真っ先に死ぬのは幼いナオンだろう、それは避けなければいけない、ならばどうする?俺はなにをすればいい?


「…生きよう」

今俺にはこれしかない、生きて父のように軍人になろう、家族を養うにはこれが一番早い気がする、軍人や世界政府は憎いが背に腹はかえられない。

体を鍛えて、知識ももっと付けよう、確か父様の部屋にたくさんの資料があったはずだ

それまでこの国が、家族が生きていればの話だけれど

 「お兄ちゃん!」


「いいっ?!」


「ふふ~びっくりしたー?」


「ナオン…驚かさないで…死ぬかと思ったよ…」


「うふふ」


「気配消すの上手くなったね」


「お兄ちゃんが気が付かないなんて珍しい、何考えてたの?」


「んん。なんもないよ、野菜が育たないから肥料変えてみようかと思ってた所」


「そっかあ」


「うん、今日もあまり日が差してないから苗の調子があんまり良くないみたいだし」


「ねぇ、お兄ちゃん」


「うん?」


「どうして最近私を避けてたの?私何かした?何か嫌なことした?」


「ナオンは悪くない、全部俺が悪いんだ」


「理由を聞いてもいい?」


「…ごめん」


「お兄ちゃん」


「ごめんね」

 

「ティオン」 


「ナオン…ダメだよ、教えられない」


「どうして?私のこと信じてくれないの?」


「違う!」


「なら教えて」


「出来ないんだ」


「…お兄ちゃんの意地悪」


「ごめんね、今度ちゃんと話すから」


「約束だからね。破ったら許さないからね!」


「うん、約束するよ」


ナオンの鈴の音ような声を聴きながら少しパサついた髪を撫でる、ナオンが僕をお兄ちゃん、ではなくティオンと呼ぶ時は大抵本気で怒っている、可愛い妹が怒るととても怖いのはやはり母様譲りなんだろうか?


「テォン!」


「…母様」  


「穢らわしい手でナオンに触れないで頂戴!」

バチン、と乾いた音と頬の熱を感じて叩かれたのだと悟った、ひりひりするし口の中が鉄の味でいっぱいになった。

美味しくない。


「お母さん!やめてよ!なんでお兄ちゃんを叩くの!?」

  

「この子が忌み子で穢らしいからよ、そんなどうでもいい事はいいから稽古に戻りなさい、ナオン」


「嫌!」


「ナオン、母の言うことを聞きなさい」

  

「嫌!理不尽だわ!お兄ちゃんは何も悪くないのに!」


「うるさい子ね!このゴミに同情する暇があるなら稽古をしなさい!」


手を振りあげる母様の前に立ってナオンを庇って叩かれる、覆面はその拍子で落ちてしまった、口の端が切れたのかひりついている


「お兄ちゃん!」


「ナオン、母様の言うことを聞いて、お願いだ」


「でもっ!」


「俺は平気さ、男だもん」


「ふん、女々しい顔してよく言うわ、髪も女みたいに伸ばしてるくせに、ますます気持ち悪い」


「お母さん…!そんな言い方「大丈夫、俺は大丈夫だから、稽古に戻って、ナオン」


「お兄ちゃん」


「ね、ナオン」


ぎこちなく笑顔をつくり笑ってみせるとナオンはなにか言いたそうにしていたが渋々と稽古に戻っていく。

それを見た母様は満足気に鼻で笑うと汚いから早く覆面を付けなさい、と一言残して部屋の中へ消えた


「女に生まれたかったって…つくづく思うよ」


独りごちた言葉は火薬の匂いのする風と一緒に流れて消えた