【Interview】長く続けるために向き合う、自分のなかのバランス(前編)──荒井岳史 [the band apart]
the band apartのギター・ボーカルとして、15年以上ギターロック界の中心で活躍し続ける荒井岳史さん。もともとラグビーをやっていたという彼が、近頃また、走っているという。2011年の震災以降はソロでの活動機会も増えた荒井さんが、走るときに頭のなかで流れている音、そして考えていることとは。
ゆったりと、バランスよく向き合いたい
--荒井さんは普段、どういう音楽を聴いていますか?
自分はギターを弾きながら曲の制作をするので、普段音楽を聴くときはピアノっぽいものを聴きたくなることが多いですね。ギターメインじゃないものを聴きたいという欲求が最近は強くなってきたかな、と思います。
僕らのバンド「the band apart」はギターサウンドを軸にしていますが、逆に普段はギターだけのロックをあんまり聴かなくなったというか……年齢のせいもあると思うんですけど(笑)。ジャズに近いような、シブめの曲も聴くようになってきました。作るものと聴くものがどんどん真逆の方向に行っているかもしれません。
ある時期には友達に教えてもらってポストロックやいろんなジャンルのロックも意識的に聴いたり、いろいろ試したりもしたんですけど……それは「自分が聴きたい」っていう欲とはまた別の、研究や発見のような部類でしたね。そんななかで「じゃあ自分は何を聴きたいのか」ということを考えると、実は歌謡曲的なものを求めているのかも、と思うようになったんです。だから、ソロではわりとそっちに寄っていこうという気持ちがあります。好きで聴いているものに憧れて、「自分でも作ってみたいな」という思いからソロをやっているような感じですね。
--ソロの楽曲を最初に出されたのは2013年でしたね。
はい。ファーストミニアルバム『sparklers』を出したのが、2013年の8月でした。それまでにも少しずつ活動していたのですが、ソロという形でちゃんとやり始めたのは2011年の震災以降ですね。それ以降活動が続いて、この2月にはセカンドフルアルバム『プリテンダー』をリリースしました。
『the band apart』として被災地で歌わせてもらった2011年の6月時点で、自分たちには英詞の楽曲しかなかったんです。そこで、避難所の皆さんが知っているような曲をカバーで演奏したときの感触に、すごく自分自身が触発されました。当たり前のことなんですけどスタンダードな名曲だったり、もっと根本的なところだと、日本語の曲ってやっぱりわかりやすいんだなって今更のように実感して。だから自分でもカバー曲を歌ったり、日本語で曲を作るようになりました。バンドとしても、その頃から日本語の詞になっていきましたね。そういう、「わかりやすいものを作りたい」という欲求が出てきたんです。
--そういう場所で歌った経験があるからこそ出てきた感情ですね。
そうなんです。避難所だったり、自分のことを知らないひとばかりの場所で。最初に行ったのは石巻の湊小学校でした。津波が来た場所なので、本当にちょっと想像を絶するような光景で……「音楽なんかやっていいのかな」と思うぐらい、大きな衝撃を受けました。そこの体育館で、おじいちゃんおばあちゃんも、炊き出しをしている自衛隊の方もいるなかで歌わせてもらいました。
--荒井さんが走るようになられたのはいつ頃ですか?
継続的にずっと走っているというよりは、ずっと、やったりやめたりを繰り返しています。僕は6〜16歳の頃にラグビーをやっていたので、当時は練習で走ったりはしてました。自主的に走るようになったのは、ラグビーをやめた後の17、18歳頃からですね。そこから20年近く、太っては痩せるために走り、またちょっとしたらやめちゃって……という繰り返しです(笑)。
詳しくは覚えていないけど、20歳過ぎた頃からカセットとかで走りながら音楽を聴いていたと思います。
--走ってやめてを繰り返して、ランに対する考え方など変わってきたことはありますか?
この1年半ほどは継続して走ってるんですけど、今が一番ハマっているというか……以前までは「やりたくないけどやろう」「走んなきゃだめだ!」という、運動部上がりの人間にありがちな、根性でなんとかする感じで(笑)。でも今はどちらかというと、“走らずにはいられない”。走ることとの付き合いは自分のなかでは長いけれど、30代半ばを過ぎて再開して、今回はやめずに一生続けるのを目標としてがんばりたいなと思えてきたんです。だからこそあまり無理しないで走る方法だったり、ゆったりと気持ち良く走るっていう楽しみ方だったり、そういうものが今更ながらわかってきました。これまでは誰かと一緒に走るということもなかったので、今日はインタビュー前に高山都さんと上田さんと一緒に走れて楽しかったです。
--「無理して追い込む必要はない」と思えるようになったのですね。
今年は、「速けりゃいい」という感覚を捨てることが目標です。部活のように追い込む感覚と一緒にしちゃいけないなって。今って便利なことに、アプリとかを使えば全部数値化されるし他のひとの状況も見られるので、速いひとを見ると自分はまだまだダメだとか、ついつい思っちゃうんですけどね(笑)。今はとにかくマイペースを目標にしていて、今回のプレイリストもそういうテーマで作りました。長く続けるためにはもうちょっと自分と向き合って、ゆったりやるのも大事かなと思っています。いいバランスでやっていけたらなって。
Photo: Watanabe Akane/Text: Suzuki Emiri
荒井岳史
1978年生まれ。the band apartのギター・ボーカルとして活動中。伸びやかで芯のある歌声と、複雑なコードカッティングも弾きこなす卓越したギターセンスで、the band apartのフロントマンとして独特の存在感を放ってきた。近年ではバンドでの活動に加え、ソロ活動として自身が企画するイベントをはじめ、ライブ出演などを精力的に行う。2013年8月に初のソロ・ミニアルバム、2014年7月には1stフルアルバムをリリースし、2016年2月3日に2ndフルアルバム「プリテンダー」をリリースした。
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