ウィーザー【F's GARDEN -Handle With Care- Vol.33】 by 野中なのか
25年目の正しいニューアルバム
ウィーザー『Weezer (Black Album) / ウィーザ―(ブラック・アルバム)』
<F's GARDEN -Handle With Care- 第33回:野中なのか>
バンドが大人になるのは難しい。
バンドを続けていく事は難しい。
若い時はそれでもいい。
自分たちだけのやりたい事や歌いたい事がたくさんあって。
世界がどこまでも広がっていくような気がして。
でもいつからか、始めはうまくいっていたはずなのに、そうじゃなくなってくる時がやってくる。
「オレ、違うことも出来ますよ」っていう方向性の違いだったり、音楽的な才能から生じるメンバー間の格差だったり、家庭を持って住む世界が変わったり、お金のトラブルだったり、単純に性格が合わなかったり。あ、男女関係のもつれっつーのもあるな。
ま、わりとあるのよ、いろいろと。
バンドってやっぱり思春期特有の部分もあって、いわば学生時代の部活みたいな側面も大きくて。
高校3年生の夏が終わってもずっと同じメンツで野球チームを組んでるようなアンバランスな感じがあって。
かつて忌野清志郎はプロ野球選手に向かって「スゴイですね、大人なのに野球なんかしてて」と驚いたというが、話された相手も「アンタも大人なのにバンドなんかして」と思っただろう。
とにかく、他人同士が集まって何かをやり続けるというのはやっぱり難しい。特に音楽という雲を掴むような事を続けるって感じは。
ウィーザーというバンドがアメリカにいる。
フロントマンは眼鏡の文系ロック青年のリヴァース・クオモという男。
1994年、24歳の時にデビュー。
「オレに会う時以外は化粧をしないで〜」なんて歌った思春期特有のパワーポップがギッシリ詰まったファーストアルバム(通称・ブルーアルバム)は全米で300万枚を売る大ヒット。
Weezer - Say It Ain't So (Official Music Video)
続く、セカンドアルバム「ピンカートン」では18歳の文通相手に「僕には君の手紙があり、君には僕の歌がある」と歌った「アクロス・ザ・シー」という超ド級の名曲を生み出します。
ちなみにこの2枚のアルバム、「バンドとは小さなオーケストラなんだ」という事を教えてくれるアレンジ的にも最高のアルバムです。全てのパートが共鳴して意味のある音になっています。
でも順調に進んでたのは最初の方だけなんですよね。
日本では圧倒的支持を得たこのセカンドアルバムもアメリカではちょいコケ。
メンタル的にも文系ギターロック青年が急激な成功によってバランスを崩しちゃって、友達だったベースも抜けちゃった。
何を思ったかリヴァースの大学進学の為、バンド自体は活動休止。
どう考えてもここからツラくなります。
ま、そうなんですよ。いつまでも夢見る少女じゃいられない。
お金も入ったし、嫁も子供もいる。音楽的にも欲が出る。
歌詞だって「なんで僕はホントの恋をものにできないのかな?」なんてばかり歌ってられない。
でもね、このバンド今も続いてます。
デビューアルバムとまではいかないけれど、小ヒットや中ヒットをコンスタンスに放って、今も精力的に活動をしています。
さて、ニューアルバムです。
ロックバンドというフォーマットでHIPHOP全盛の今のシーンにどうゆう風にアプローチするのか、お手本のようなアルバムです。
キャリア25年の非常に正しいニューアルバムです。
Weezer - Can't Knock The Hustle (starring Rivers Wentz)
ギターポップの枠にとらわれずに楽曲重視打ち込みありの現代的アレンジ。
リードシングルの「Can't Knock The Hustle / キャント・ノック・ザ・ハッスル」から攻めの姿勢。
(フォール・アウト・ボーイのピート・ウェンツをフィーチャー!)
イントロだけ聴いたらウィーザーとは思わないかもしれない。
でも聴き進んでいくとやっぱりウィーザーなんですねー。
ポップで捻くれてて、むこうみずでいじらしくて。
結局、このバンド、生粋のポップ好きで音楽に対する姿勢は基本的にデビューから変わって無い。アウトプットの方法が違うだけで。
でもサウンド的にもメンタル的にも明らかにタフになっています。
タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない。
やっぱりウィーザーもいろいろとありながら、大人になったんですね。
しみじみ。
野中 なのか
コンサート業界勤務です。
誰か友達になってください。