「見えない世界」との対話 ①…精神科医の霊的体験
霊能力があると言うKさんと初めてお会いすることができた。 一風変わった人を勝手にイメージしていたのだが、 会った瞬間そんな思いはあっさりと裏切られた。
そこに現れたのは、 穏やかな 普通の中年の女性である。 明るい笑顔が 魅力的な 気さくな方であった。
K さんはご主人もお子さんもいらっしゃる主婦であり、 霊の浄化のセラピー自体も 一般には公表していない。
私が K さんに 霊の浄化というものを見せて欲しいと 頼み込むと、 逆に彼女は「 私みたいな人間と関わって、医師として大丈夫ですか?」と私の立場を気遣って いただきながら 、快く引き受けてくれた。
Kさんの霊の浄化をようやく見学する日がやってきた 。
場所は私のクリニックである。
霊の浄化の被験者となってくれたのは 私のクリニックに通院していた 20代の女性患者、由美子さんである 。
もちろん彼女にはすべてを説明し、霊の浄化を試してみたいと言う彼女の要望もとりつけた 。
由美子さんは精神医学的には境界性人格障害という病名が当てはまる患者だった
※境界性人格障害について
この精神疾患は、感情が極めて不安定で気持ちや行動のコントロールができない。
漠然とした不安感や空虚感に苛まれ、 特に人間関係がうまく築けないという特徴がある。
些細なことでヒステリックになったり、相手の気を引こうとしてわざと相手を困らせたりもする。
好き嫌いがあからさまで、嫉妬心も強い。そのため過剰な愛情で相手を束縛することも多い 。
また同じ人に対して最初は信頼し優しく接していたのに、少しでも気に入らない部分が出てくると、手のひらを返したように相手を非難し、冷酷な態度を取ることもある。
近年、日本でも注目されている精神疾患なのである。
由美子さんにも同様の症状が見られていた。 数年来の感情の不安定、自殺願望、自傷行為、さらには、最近は、頭痛、吐き気、微熱も続き、外出もままならない状態だ。
いろいろな治療を試みたが、どんな治療も彼女には効果がなかった。
当日、由美子さんは母親と二人でやってきた。
由美子さんと面と向かって椅子に座ったKさんは、死後の世界や天界の仕組み、 輪廻転生について 由美子さんに分かりやすく語った。
それから浄化のやり方を説明した 。
「あなたは目を閉じてぼーっとしていてくださいね 。力を抜いて自然にまかせて話をしたくなったら話してください。 私が由美子さんって呼んで足をトントンと叩いたら、あなた自身が答えてくださいね」
そう言うと彼女はさっそく霊の浄化を開始した。
K さんは一瞬だけ目を閉じて精神統一すると 、すぐに由美子さんに声をかけ始めた。
「 あなた、自分がなくなっているのをわかっているの?」
私には見えないが、早くも、憑依霊が姿を現したようである。
その間ものの1分もかかっていない。
Kさんは現れた霊に話しかける。
「 あなたはどうしたのどうして由美子さんについているの?」
普通の人に話しかけるような自然な口調で、 由美子さんに取り憑いている霊に向かって穏やかに問いかけるKさん。
神がかった儀式を行ったり呪文を唱えたりといった怪しげな要素は全くなかった 。
しばらくして、うつむいていた由美子さんが急に小声で答え始めた。
「 苦しい…苦しいから…こいつも苦しめてやるんだ」
いったいこの現象は何だろうか !
私は驚愕した。
確かに由美子さんの口から発せられた言葉だが、 今ここで話している声の道は明らかに彼女とは別人である。
由美子さんをまるで他人のように客観視している話し方だった。
これが憑依という現象なのだろうか ?
Kさんは 催眠術など一切使っておらず、ただ優しく話しかけただけなのだ 。
表情も声のトーンも全く変えずに、まるで普通の人と会話するような感じでその別人格に向かって話しかけていく 。
「あなたは何で亡くなったの?」
「自殺 …」
「あなた、何で自殺なんかしちゃったの?苦しかったから…?それで楽になったの?今の方がもっと辛いでしょ。あなたは若かったんだからもっと行けなきゃダメだったのよ。神様がくれた命を粗末にして、 家族にも迷惑かけたわね 。何の関係もないこの人にもとりついて …そんなことじゃいけないでしょう… きちんと反省して皆に謝って …」
すると由美子さんは首を横に振った。
「こいつはな…私の存在が見えるからとり憑いたんだ」
そうはっきりといい、自分が憑依霊であることを認めた 。
その言葉にひるむことなく 、Kさんは平然と話し続けた。
「勝手に自殺して…みんなに迷惑かけて…あなた今のまま苦しみ続けるつもり…? このままじゃどんどん辛くなる一方よ… 自分がしたことをきちんと反省したら… 行くべきところに連れて行ってあげるからちゃんと謝りなさい …」
「こいつをもっともっと苦しめたい …」
「あなた…相当なひねくれ者ね… あのね…ご縁があって私はこうしてここにいるけど…別にあなたがどうなろうと私は構わないのよ… 反省しないならずっとそのまま苦しんでいなさい …私は関係ないんですから」
「 いや…それは困る …」
「それじゃあ…きちんと反省しましょうよ…」
憑依霊はようやく納得したようだ 。
「反省するまで…私待っていてあげるから…しっかり反省するのよ …家族や迷惑かけた人にもちゃんと謝ってね…」
「 ごめんなさい…ごめんなさい…」
反省した憑依霊が、由美子さんの口を借りて謝ってきた 。
「分かりました…それじゃあ帰りましょうね …はいしっかりと手を合わせて…じゃあ…今から帰るのよ …」
そういうと、Kさんは由美子さんの横に立った。
「目を閉じたまま…あなたの行くところを探してごらん…見えましたか?」
由美子さんは目を閉じたまま、顔を動かしてどこかを探しているようすだ。やがて、由美子さんの顔の動きが止まった 。
「見えた…?」
とKさんが尋ねると、由美子さんはこくりとうなずいた
「さあ…自分の行くところに集中するのよ… よしよし…そうそう…」
Kさんは念を込めているようすだった。
これが私が初めて体験した霊の浄化というセラピーの全容である。
しかし、なんと、 由美子さんに対するこの日のセラピーはこれで終了ではなかったのだ。
続く…