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エストニアは政府と価値観が面白い。

2019.08.08 07:06

電子国家!?行政サービス99%がオンライン?国民の44%でオンライン投票?スタートアップエコシステムが凄い?最近日本のメディアで大きく話題となるエストニア。就活も終わり時間に余裕の出来た南は、その秘訣を探りに、思いっきりエストニアに21日間行ってみました!



※写真について。Starship社のロボット。自律運転(100%ではないらしい)で食事を届けてくれる。まだ動きが赤ちゃんみたいでかわいい。


エストニアのスタートアップエコシステムを探りに。

7月7日から7月20日までエストニアのタリン工科大学のサマースクールに参加していました。e-Governmentという授業を履修し、エストニアが提供するX-Roadと呼ばれる行政サービスがどのような経緯で生まれ、どのような経緯で国内に浸透して行ったのかを探ってきました。また、時間の空いたタイミングで、本当に素敵な先輩方とスタートアップやインキュベーションオフィス、エストニアにオフィスを構える日本人の方々とお会いしてきました! 他にも、どのようにしてエストニア人の価値観が生まれたのかを知りたく、美術館や博物館にも入り浸りました。


今回は、短い短い2週間のエストニア留学で考えてきた、「結局、エストニアでは何が起きてて、何がすごいの?」と言う問いに対する仮説を簡単に書いて行きたいと思います。


※写真について。エストニアのインキュベーションといえば、Lift99。ここから多くのエストニアのスタートアップが誕生した。フリーランスの人たちも多い。入るメンバーの性格をしっかり判断して入居の可否を決めている。今はwaiting listの人が多く、なかなかここを拠点にするのは難しいとのこと。場所はテリスキヴィで、工場跡地をリノベしててかっこいい。


エストニアにエコシステムが出来た理由は政府、スカイプ、価値観の3つだ!


2週間ながらの滞在で考えた弱々しい仮説ではありますが、エストニアにおけるスタートアップエコシステムが出来つつある理由は3つあると思います。1つ目がデジタルで攻める事を決めた政府、2つ目がスカイプのマイクロソフトへの売却で生まれた熱狂、3つ目がエストニアに根付く価値観です。これこそが他国には存在しえない、エストニアならではのスタートアップエコシステムを作り上げ、今でも世界中から起業家を集めている理由になっているのだと思います。これから少しずつ詳細を書いていきます。


1. デジタルで攻めた政府

エストニアが独立したのは1991年でした。「何がなんでもロシアからの介入を弱め、独自で発展しなければならない!」こうした意志の強かったエストニア政府ですが、何よりも社会インフラがほとんど整っていないのが現実でした。ただ、エストニアはソ連時代からIT関連の研究を担当しており、サイバネティクス研究所を中心に優秀なエンジニアが残っていました。(現地で話を聞くとソ連時代から授業でプログラミングのコースをやっていたそうです。)広い面積のエストニアの領土全体に行政サービスを広めるためには、オンライン上で行政手続を出来るようにしなければならない!このように考えたエストニア政府は、トップダウンでデジタル社会を目指す方針を打ち立てました。(e-Government構想)

※写真について。e-estoniaのホームページから引用しています。国のブランドデザインがしっかりしていて、Ainoフォントは未来を感じさせるし、とても素敵。https://e-estonia.com/


トップダウンでのe-Government構想は、エストニアが生き残るための共通認識として与野党で浸透しており、政権が変わっても安定してデジタル社会への発展は進んで行きました。政府の強さを感じる政策として、タイガーリーププログラムというものがあります。タイガーリーププログラムは、1996年に教育大臣たちが決めたもので、より年齢の低い世代から自然とコンピューターに触れ合う環境を作るため、エストニアの全ての学校にインターネットを接続させたものです。このタイミングで、多くの学校にコンピューターが設置されていきました。こうして少しずつ、行政サービスを提供すると同時に、国民に対するデジタルへの障壁を少しずつ下げて行ったのでしょう。この決断は、本当にすごいですよね、、。

※写真について。タルトゥにあるエストニア国立博物館に入って最初の展示物は、、、。なんとスカイプ創業メンバーの椅子が。(実は違う人の椅子だという裏話もあるそうです)どれほどエストニアにとってスカイプの存在が大きかったが分かる。


また、このe-Governmentで生まれたあらゆるサービスには共通した根本思想があります。それが、"ユーザー中心主義"です。授業でもよく”its all about the trust”という話があり、どのようなサービスを提供すれば国民からの信頼を得られるかを大前提に考えていました。(日本の行政サービスではなかなか考えられない...)どの時間帯にどの政府機関がその人の情報を取得したかが全国民に対して表示されるタイムスタンプ機能は、かなりその思想を表しているなと思います。「誰もが簡単に税金の申請をするためには?誰もが簡単に登記をできるようにするには?」このような問いかけから、分散型のデータ管理(X-Road)とシンプルな申請方法が生まれ、税金も起業登記も全部オンラインで簡単に出来るようになりました。(すごい)


2. スカイプ売却後の熱狂


スカイプの売却劇は、エストニアのスタートアップに熱狂とエコシステムを作り上げました。大きな収益を得たエストニアのメンバーは、TransferWiseやPipedriveなど新たに会社を立ち上げユニコーン企業を作り上げたり、Lift99のようなスタートアップ向けのコワーキングスペースを作ったり、エンジェル投資家となり多くのエストニアのスタートアップを支えるようになりました。その熱狂からBoltやLingvist、JobbaticalやTeleportなどが誕生しました。また政府も”Startup Estonia”を立ち上げ、起業家たちの意見を聞きながらエコシステム作りに貢献し、StartupVISAを作ったりと大きく支えています。

※写真について。Lift99にあるエストニアンマフィアの企業たち。エグジットすると星がつく。もはや観光名所化していますよね。ただ、Lift99は訪問者数もKPIに入れてるそうです。訪問もエストニアエコシステムの戦略のうち、、。さすがだ。


LingvistのCEOは「スカイプのエンジニアが開発環境を整えてくれて、スカイプ売却で希望が見えて、本当にエストニアからでも世界を変えられると信じられるようになったんだ。」という話をしていて、スカイプの衝撃を強く物語っているなと思いました。また、今の若いエストニアの起業家と話していると、「スカイプの時はよく覚えてないけど、BoltやTransferWiseには影響受けたよ。」と話しており、熱狂はまだまだ続いているなと感じました。スカイプによる投資環境の整備、人材のスタートアップへの流出、そして熱狂。これらの要素こそが、エストニアでも世界をリードする企業が作れるという希望と熱狂を作り出したのではと思います。


3. エストニアに根付く価値観


エストニアは、歴史的にクロスボーダーで仕事をするのが当たり前な価値観が根付いているのではないかと思います。その理由としては、ハンザ同盟の頃から貿易港として発展した歴史や、標高が低く北欧西欧ロシアからの文化が入り込みやすかった地形的な理由などがあると思います。そのため、エストニア初期のアートはドイツ人の名前が多く、建築物はドイツからの影響とソ連からの影響のものが混在しており、テクノロジーはフィンランドやスウェーデンの影響を受けており、多様な文化が当たり前かのように浸透していました。これによりクロスボーダーな価値観が受け入れやすく、世界中どこでもリモートワークをしながら生活できるデジタルノマドを支えるサービスやe-residencyが、生まれるべくして生まれたのではないかと思います。そうした政府の取り組みの後から、funderbeamやjobbaticalなどの独特な価値観を持つサービスが生まれたのも、このエストニアの価値観ならではないかと考えています。


※写真について。エストニアの芸術家が誕生したのは19世紀になってから。それまでは、昔から住み込んでいたドイツ人芸術家が描く絵が並んでいます。左図は、ドイツ人から見たエストニアの民族衣装。相当不思議だったのでしょうか。かなり大げさにして描かれているそうです。右図はエストニア人が新聞を読んでいる絵ですね。エストニアはプロテスタントが広まったため、ラトビアやリトアニアよりも早い段階から識字率が高かったそうです。なるほど〜


他にも、エストニアは人口130万人の小国であり、マーケットが小さすぎるため、最初から海外展開が全体になっている経済的な要因も、クロスボーダーな価値観を支える大きな理由になっていると思います。エストニア人は英語教育もかなり浸透していて、若い人たちは基本的に英語を使えるので、海外展開のコストもかなり低いはずです。


エストニアのスタートアップエコシステムは、今後が勝負だと思う


簡単な説明ではありますが、以上の3つからスタートアップエコシステムが生まれ、エストニアがすごい!と呼ばれるようになったのではないかと思います。ただ、皆さんもご存知の通り、エストニアにはスウェーデンのSpotifyやフィンランドのAngryBirdのように世界中で強く強く浸透したサービスはまだありません。そのため、中国の深センを見た私としては、エストニアのスタートアップエコシステムはまだ黎明期であり、今後どうなるかが非常に重要だと思いました。今後エストニアがスタートアップエコシステムとしてさらに発展するためには、2つの事が大事だと考えています。1つ目は、今のユニコーンやネクストユニコーンの上場です。中国もDJIやテンセントなどが上場して、彼らがスタートアップに出資するようになって急激な変化を起こしました。エストニア発企業も今後上場し、安定的に収益をあげ、国に還元するシステムをしっかりと作り上げると、さらなる熱狂が生まれるのではないでしょうか。2つ目は、起業家がさらにエストニアに集まる事です。エストニアの圧倒的な魅力は起業のしやすさ、スタートアップに対する優しさだと思います。もっともっと多くの起業家がエストニアに集い、切磋琢磨しながら新たなサービスを作り上げるコミュニティが生まれるとエストニアならではの価値が生まれるのではないでしょうか。ただ、私がエストニアにいた理由は非常に明確で、「なんだかメディアの記事を読んでてめちゃめちゃ面白そうだと思った」という単純な理由です。これは日本の過剰反応でもなんでもなく、エストニアのブランド戦略そのものです。ここまで政府が支援してスタートアップ誘致に努める姿勢のあるエストニアであれば、必ず独自の価値観を武器にしたスタートアップエコシステムが形成されると思います。非常に楽しくて面白い旅でした。またエストニアに戻り、ビジネスをやってみたいなと強く感じました。

※写真について。エストニアは、何よりも自然がすごい。 エストニアに行ったタイミングは夏休みだったので、ほとんどのスタートアップの方々は自然のある地元に帰っていました笑 残念!でもやっぱりこうした点も彼らの価値観を大きく支えているのではと思います。


さあ次は、シリコンバレーに行ってきます。8月8日からです。もし良ければ、お知り合いでシリコンバレーやサンフランシスコにいる人をご存知でしたら、紹介してください!(深セン、エストニア、シリコンバレーの3拠点を比較したブログを書くのが楽しみです!)