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渡辺音楽教室

タッチ(The Touch) その4

2019.08.10 13:25

ピアノのタッチについて改めて考えてみると随分奥深いものだなと感じました。「ピアノは猫でも弾ける(誰が弾いても同じ音が鳴る)」の考え方がどこかにこびりついていた証拠ですね。

今回は、ピアノタッチについてピアノの構造と物理学の観点から考察してみました。

下記1表は我が家のピアノのアクションを100gの分銅重りと十円玉を使って量った結果です。必ずしも正確ではありませんが大体のところが分かりました。

前々回の項でも説明しましたが「ダウンウェイト」はダンパーを踏みながらキーが沈み始める重さです。ダンパーを踏まないとダンパー自身の重さが加わってしまうためです。

「アップウェイト」は鍵盤を下に沈めてから自然に上に戻ることが出来る最大の重さです。もちろんダンパーペダルを踏んだままです。

良かった。我が家のピアノも20gを切っている。

「ダウンウェイト」は結構ばらつきがある。まあこんなもんでしょうか?

下の鍵盤は重く上は結構軽くなる右下がりのグラフを予想していましたが最高音の方は意外と重いという結果でした。(普段弾かないから重い?)

低音はそれなりに重くよく弾く中間鍵盤は軽めという、なんだか弾き癖やメンテナンスのレベルを見せているようで恥ずかしい感じです。

最低重量の項目は、ペダルを踏まない状態でピアノ(ピアニッシモ)の音が鳴らせる最低限の重量を量ってみました。ダウンウェイトの2倍以上あります。

最低重量(ペダル有)はペダルを踏んだ状態です。ここまでくると結構疲れるので中央の音をサンプリングし計算で重さを算出しました。ペダルを踏むと約20g軽くなります。最高音域はダンパーがないので最低重量と同じ重さです。最低音域は本来ダンパーが少し重くなるのでもしかしたらもう少し軽くなるのかもしれません。

最低重量はピアノの音を得るのに必要は重さですからフォルテ、フォルテッシモだともっと力が必要なのは言うまでもありません。

ピアノの曲は総じて音符の数が多く一曲、何百から数万、数十万?の音符を弾かなくてはなりません。一音符一音符、音の強弱、ニュアンス、速さを変えて。大曲を一曲弾いたら必要な重さ(力)はどれくらいになるのでしょう。数キログラムはくだらないでしょう。疲れるわけですね。

ピアノを弾くということは、一音一音のダウンウェイト、アップウェイト、最小音の重さ、ダンパーを踏んだ時の重さ、アフタータッチなどを曲のことを考えながら弾くわけですから相当な複雑さを要求される仕事です。

これをステージ、ステージ、自宅、レッスン室などで調整具合、ピアノのメーカー、ハンマーなど様々な違いを瞬時に感じ取って演奏するわけですから大したもんじゃないでしょうか。

もう「猫にも弾けるピアノ」などと言わせないよう説明してあげましょう。

ネット上の論文なども拝読しているとタッチによって一音一音に違いが出せるかどうかこだわっているのは音楽学者と音響学者だけのようです。音楽として違うというより純粋に物理的学問のレベルで違うのかということにこだわっているのです。

何年か前の音響学者の論文でもすでに「本当は一音だけでなく音楽として音が連続してなった状態について調べないと意味がない」という内容の論文も発表されています。

表2 力と打鍵時間の音量、ハンマー速度との関係

下の2表は、タッチする際の力やキーの押す時間(打鍵時間)が音量やハンマー速度にどう影響するか表したものです。

計算式は

力(N)×打鍵時間(s)=力積(Ns)

です。

物理学ですね。

これは力積の値が小さければ音量は弱く、大きければ強いことを意味しています。数値を変えて掛け算してみると思わずふうんと納得させれます。

最大の音量を出すには大きな力と打鍵時間を増やすという計算式になります。

やはりピアノの音量を変える要素は打鍵速度のみではないということです。

力積の大きさだ。

弱く速く引いた場合でもハンマーの打弦速度が打鍵時間を上回るので遅れないということですね。

そうはいっても結局、ハンマーの速度に左右されているじゃん。という見方もできるかもしれません。

でもピアノタッチはゆっくり丁寧な方が良いです。良い音を出すためには神経がそれだけそがれますが、一つ一つ音にそれだけ集中するにはその分時間が掛かります。

とはいってもコンマ何秒の世界です。このコンマ何秒の世界を余裕をもって弾けるようになった時、本当のタッチに近づいたというべきでないかと思います。

そんなコンマ何秒の世界なんか分かるわけない。と思われる方に朗報です。

音楽家にはある超能力があります。

それは、時間を少しだけ伸ばすことができるというものです。

野球の神的な存在、長嶋茂雄さんがその全盛期でこんなことを言ってました。

「ジャストミートの瞬間ボールが止まって見える」

例えばアンダンテの速度 M.M.=60(1分間に60拍刻む速さ)で何か曲を演奏したとします。

初心者だとともて速い速度で音符が次から次へと出てきてもう追うのに頭がいっぱい、という状況だと思います。

ところが上級者だとどうでしょうか。同じ曲を弾いているのに一拍一拍が遅く感じられその間色々なことを考える事ができます。

初見(初めて見た楽譜をすぐその場で弾く)だともっと顕著にこの現象が出ます。

初見の達人はそれこそコンマ何秒か分からない、もっともっと短い時間に音符を読み、楽想を理解しどう表現するか考えるというところまでやってしまいます。

ここまで来ると時間を遅くする以外に予知能力も併せ持っているかのようです。

そ、っそんなことを言われても分からないという方へ。

そこはやっぱり慣れ、練習、訓練です。

良い指導者とのめぐりあわせ、良い演奏との出会い、感動。音符の読み方から、姿勢、手の形、指のことなど。様々なことを学び自分のものになっていくと段々この境地に近づいていきます。

結構長い距離ですがその内、この道を歩くこと自体が楽しくなるものです。その状態が一番いいと思います。

物事は、目標が達せられるとなんだかつまらなく感じられるものです。

次回は、ここまで書いてきたタッチについて締めくくりたいと思います。