7月22日(月) 『歌舞伎座七月大歌舞伎夜の部、星合世十三團(ほしあわせじゅうさんだん)』
海老蔵が咽頭炎で休演し、復帰後の公演である。演目は、星合世十三團(ほしあわせじゅうさんだん)で、人気狂言、義経千本桜を元に、脚色された新作で、副題は成田千本桜という。義経千本桜の名シーンを、スピーディーに、次々に見せる演出で、海老蔵が十三役を務め、早変わりで楽しませてくれた。
海老蔵の早変わりを見ていると、先代の猿之助と当代の猿之助とダブって見えた。早変わりが鮮やかで、一人の看板スターによる大奮闘公演だからである。3人とも、驚くべきスピードで、早変わりするのだが、やはり違いも感じた。先代猿之助は、涼しい顔で早変わりしていた。早変わりしたなんて顔に出さず、平然と変わったばかりの役に入り込んで演技していた。当代の猿之助は、早変わりを自ら楽しんでいるように見せ、時折襟を直すしぐさをして、愛嬌たっぷりに、早変わりがようやく間に合ったという演技をして客を楽しませている。で海老蔵はというと、猿之助顔負けのもの凄いスピードで早変わりして、演者の若さと体力の充実さをみせていた。見た目は大きく変化して驚くが、その割には役が違って見えないのはどうした事だろう。海老蔵が綺麗すぎると言う点が、邪魔をしているのかもしれないが、夫々の役の性根が、薄いからだと思う。言葉を変えると、夫々の役の特色を大掴にしていないから、変わったように見えないのだと思う。でもそんな事はどうでもいい事かもしれない。先代猿之助は病に倒れ、もう早変わりで楽しませることが出来ない。今、早変わりで観客を楽しませてくれるのは、海老蔵と猿之助の二人しかいない。海老蔵は来年には、團十郎を襲名し、襲名した後は、歌舞伎の演目の、主役を演じなければならない宿命にある。早変わりで、私達観客を楽しませてくれるのは、今の内である。次代の歌舞伎の看板役者となる海老蔵、来年には團十郎襲名が決まっている。もしかすると、最後の早変わりかもしれない。宙乗り、早変わりは、猿之助にまかせ、團十郎襲名に備えて欲しい。
團十郎になる将来は、義経千本桜の主要な役柄、碇知盛、いがみの権太、狐忠信を演じなければならない。義経に復讐するために必死の知盛、端正な顔立ちが、血にまみれ、血に汚れた白い鎧に似合い、悲壮美を強調していたし、いがみの権太の母親への甘え方、きっぱりとした身のこなし、本役で、是非見たいと思った。その意味では、義経千本桜の各段の主役を演じる前の、テスト本番でもあるような貴重な公演であったと思う。
通しで演ずれば、一日がかりの義経千本桜を、スピーディーに、楽しませてくれて楽しかった。最後は場内に、強い送風で、30トンの桜吹雪が舞い散り、驚かせた。海老蔵の十三役早変わり、ひと夏の思い出である。