ボン・シックとKARAKUの物語
2015.06.01 15:53
洋菓子職人であった父の長男として生まれた私は、物心がついた時から甘い香りの満ち溢れた環境の中で育ってきました。
仕事から帰ってきた父の腕に抱かれると、手の平からはカスタードのあの何とも言えぬ卵と砂糖とバターが入り混じった芳醇な香りが漂い、よくクンクンと鼻を近づけてはジャレて遊んでいたのを思い出します。
幼少の頃から父の職場の厨房に出入りしていた私にとって、カステラの上部がほんのり焼けた香ばしい匂いや、シャルロットフレーズの甘酸っぱさや、モンブランのクリームに潜むほんのりとしたダークラムの大人っぽいかんじや、スイートチョコレートのほろ苦さは自然と自分の感性の中に取り込まれていて、父や若い職人さん達に交じって、たどたどしく手伝いながらも、将来自分もこの仕事をやってくのかなと幼いながらに意識していたのかもしれません。
父は決して有名なパティシエではありませんでしたが、同業者やいろんな方に愛されていました。父の作るお菓子はとにかくバランスよく、小さい子供からご年配の方まで伝わるやさしさで出来上がっていました。ほんと驚くくらいに。自分は目隠しをして食べても父のケーキがどれか当てられる自信があります。それくらいに「やさしいおかし」という個性が父の作るお菓子にはありました。
生涯60年をかけてそんな領域に辿りついた父の足元にはまだまだ及びつきませんが、自身もこれから一歩一歩足を前に進めながら、洋菓子職人としての頂を目指し歩んでいきたいと思います。
2015年7月 岩崎 能久