ファイナンス×ビジネス戦略立案で経営支援
【ゲスト】小鹿翔矢
【インタビュアー】株式会社ビースタイル 代表取締役社長 三原邦彦
【ライター】 荒川雅子
小鹿翔矢さんは、大和証券エスエムビーシー(現・大和証券)に新卒入社後、6年間、日本の上場企業の資金調達を支援されました。その後、アメリカへ2年間の私費留学(MBA)を経て、世界有数のカストディアンであるブラウン・ブラザーズ・ハリマンで顧客リレーションの成長に貢献。SBIグループで、仮想通貨・フィンテック関連業務やバイアウトファンドの立ち上げなどを経験され、今年9月には中小企業の事業承継を目的とした会社の設立を予定されています。
今回は、ファイナンス領域においてさまざまな企業の資金調達支援と、そのための経営戦略立案やストーリー作りに携わってこられた同氏に、当社社長の三原がお話をお聞きしました。小鹿さんの経歴や資金調達におけるご提案例、そして設立予定の事業会社についてお伺いしました。
三原
まず初めに、経歴をお聞きする前に、いまやろうとしていることがあるということですが。
小鹿
はい。実は、後継者難に直面する中小企業の事業を引き受ける会社を設立する予定です。
現在、後継者不在の中小企業が100万社以上あるともいわれ、事業者数の減少が課題となっています。「事業承継」というマーケットでは、M&Aの仲介業者が増えていますが、実は主体的に事業を引き受け、戦略的に経営する意欲のある方はあまりいないんです。
三原
そこが、結構重要ですよね。
小鹿
そうですね。私の会社は、王朝を親族ではなく徳のある人に平和的に譲っていく王朝交代の形式である“禅譲(ゼンジョウ)”から、『ゼンジョウホールディングス』と名付けています。禅譲のように、私自身が経営者として後継者のいない企業の受け皿となり、いくつもの中小企業を引き継いでいきます。
三原
事業承継中心で中小企業を集めて、小鹿さん自身がオーナーになって経営していくんですね。
小鹿
そういうことです。
私のような30代半ばの若い人間が、事業承継を受ければ、少なくとも30年先の未来を思い描き、長期的に戦略を練ることができます。また、まだまだエネルギーがあるので、ベンチャー企業と連携したり、大企業に営業に行ったりということもできます。
さらに、今まで培ったものを活用して、最新の経営手法やIT技術を導入することができます。このように、いろいろなものを積極的に掛け合わせることが、事業の成長につながっていきます。将来的には中小企業のプラットフォームというポジションを確立し、上場できればと考えています。
三原
なるほどね。会社全体としては、採用力がすごく重要になってきますね。
小鹿
そうですね。
初めは既存社員だけでやっていきますが、いずれは採用も考えています。
しかし我々が手をかけていきたいところは、製造業や建設業といったオールドエコノミーと呼ばれる古い産業で、はっきり言ってMBAを取得するような優秀な若者たちが積極的には行きたがらない分野なんですよね。
でも、経済の基盤となっているのは、まさにそういった企業です。今の時代テック系のベンチャー企業なら、放っておいても優秀な方が入っていくので、我々はそうではないところに付加価値を出していきたいんです。
三原
でも、スキルセットが全て揃った優秀な人を採用しようとしても採算が合わないといことはないんですか?
小鹿
そうですね、そういう全てが揃った人を正社員で採用しようと思うと、かなりの報酬を出さないといけません。
そして、そもそも人材採用難のため、なかなか採用できません。そういったときに、ある課題に対して必要なスキルセットを上手く切り分けて、そのスキルセットを持つ人材をはめ込められたらと考えています。必ずしもフルタイムの正社員である必要はなく、一時間単位のコンサルタントに来てもらってもいい。今後はこういう切り分け方が非常に重要になっていくと思います。
三原
まさにそれが、私がこの『スマートキャリエグゼクティブ』サービスをつくった理由です。採用や能力開発がビジネススピードに追い付かないんですよね。すごくよく分かります!
三原
最初は、大和証券さんに入られたんですね。
小鹿
はい。2007年から2013年までの6年ほどです。
基本的には資金調達が必要な上場会社向けに、株や債券の引受業務を担当していました。ただ、途中で半年間だけ、三井住友銀行さんに出向していた時期がありまして、企業にお金を貸す融資の仕事をしていました。
三原
上場会社さんが資金調達をする場合、外国人投資家さんを含めてIRをしていくじゃないですか。その辺りのディレクションをすることもあるんですか?
小鹿
IRは別の担当がいたので、我々は主に発行体側の財務や経営といった観点から資金調達業務に携わっていました。
その中で、例えば、国内か海外か、株でやるか転換社債でやるかなど、そういった資金調達の在り方におけるオプションをご提案していました。
当時はリーマンショックの前後でマーケットが荒れていたので、ファンドから資金調達するケースや、シナジーを追求した大手企業と資本業務提携とするケースというように、M&Aのような切り口でお手伝いをさせていただくこともありました。会社がつぶれそうで再生のステージだったときには、投資会社からの資本注入の案件をやらせていただいたこともありました。
三原
そうすると、単純な資金調達だけではなくて、企業ごとの戦略やストーリーが必要ですね。
それがないと、お金を出す側も出せないですしね。
小鹿
そうですね。特に多かったのは、業績が悪化してしまい、銀行からお金を貸してもらえないために、エクイティを希望されるケースです。正直これは厳しいんですよね。そういったいわゆる救済型の案件はたくさんありましたね。
三原
再生のステージであれば再生のための戦略、業務提携であれば、それによるシナジーやメリットのストーリーを描いて、提案しないといけないですもんね。
大和証券エスエムビーシーを辞められた後は、ご自身のお金で2年間アメリカにMBA留学されたということなんですが、どうして留学を決められたんですか?
小鹿
MBA留学をしたのは、インベストメント・バンカーとして職人的なキャリアを歩むのではなく、経営者として事業を作っていきたいと考えたからです。
大和証券で仕事をしていた頃から、証券の引受というビジネスは、近い将来テクノロジーによって効率化され、人がやらなくなるのではないか、今後はテクノロジーとビジネスのかけ算ができないと、ビジネスの発想は生まれてこないのではないかと考えたんです。
また、さまざまな会社のさまざまなステージにおける経営を見ていく中で、経営者次第で会社は全く変わってしまうのだということを学び、経営者の大切さを肌で実感しました。
それなら、大和証券でこれから同じことを何年も続けていくよりも、海外に出て、一度、経営をしっかり学びたい。なおかつ、テクノロジーとビジネスのかけ算を学ぶことができる学校に行きたいと思い、テクノロジー、サイエンスの名門であるカーネギーメロン大学を選び、会社を辞めて、留学しました。
三原
そして、留学から戻ってこられて、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンへ移られたということですね。初めて伺ったんですが、どういう会社なんですか?
小鹿
ブラウン・ブラザーズ・ハリマンは、創業200年を迎えた現在も、パートナーシップ制を維持している米国の金融機関です。
日本向けには運用会社様や機関投資家様向けにカストディ業務やファンドアドミニストレーション業務を提供しています。
投資家に代わって、有価証券の保管や管理を行う金融機関をカストディアンと呼びます。日本の運用会社様や機関投資家様が、海外の有価証券に投資をする時、コスト面や事務の正確性・効率性の観点から、カストディアンを活用することが一般的になっています。また、ファンド投資をする際には、運用会社が運用を担う一方、アドミニストレーターがファンド計理等を担うという分業化が進んでいます。その中で、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンは、カストディ業務・ファンドアドミニストレーション業務において、日本のお客様から高い評価を得ています。
三原
そうなんですね。そこではリレーションシップ・マネジメントを担当されていたと。
小鹿
はい。そういったビジネスをしていますので、短期的な売り買いや何かを買わせるいわゆるセールス提案ではなく、お客様に対しては、十年単位の長期的なお付き合いの中で、いかに質の高いサービスを提供し続けていくかというリレーションシップ・マネジメントが重要です。
そして、それを理解頂けるお客様と日頃から会話をしながら、お客様に即したメニューや仕組みを考えてアドバイスさせていただくといったような、企画型の提案をします。
三原
それらをフレームワークにしているというのはすごいですね。なかなか想像できませんが、具体的にはどんなことですか?
小鹿
そうですね。例えば、リスク管理の高度化を課題と感じておられるお客様に対しては、リスク管理に必要なデータの整備やそれをご提供する仕組みづくり。ファンド投資をするのであれば、どのファンド籍国で、どのファンド形態を取るのが一番良いか、といったこと。あるいは、運用のパフォーマンスを改善したいというお客様に対して、例えばオペレーションの改善による為替ヘッジコスト削減や証券レンディングによる収益獲得をご提案したり、とかですね。
三原
なるほどね。その後は、SBIさんで仮想通貨関連のお仕事をされていたと。
小鹿
そうですね。私が入ったのは、先行申し込みをいただいたお客様限定でサービス提供していたものを、一般向けに口座開設のお申し込みを受付開始する直前でした。事業の立ち上げ期だったので、何でもやっていました。
三原
そこでの小鹿さんのミッションは?
小鹿
最初はコールセンターなどのカスタマーサービスの質の向上に取り組んでいましたが、口座数が多くなるにつれて、コンプライアンス整備が重要になってきましたので、後半はKYC(Know Your Customer)のオペレーション部隊のマネジメントをしていました。
オペレーションの効率化・高度化、そのためのシステムをどう作り込んでいくかを考えました。そこが整理できた頃にブロックチェーン推進室に移ったのですが、その時点で事業承継ビジネスの企画を会社に提出し、そちらに移る話が出ていたので、推進室には2ヶ月程度しかいませんでした。
三原
具体的には、どのような経営課題の解決を得意とされていますか?
小鹿
そうですね。もちろん、ファイナンス分野は得意ですが、財務や資金調達にとどまらず、ビジネスとファイナンスが連関するところで、力を発揮できると思います。
例えば、技術とサービスをどうビジネスに繋げていくかとか、ビジネス面と資金面をうまく連携させていく部分です。
三原
最近は、エンジェル投資家からの出資を集めるために、ビジネスモデルを描いて、投資家さんに提案して、ある程度バリュエーションをつけて調達するということは、スタンダードだと思うんですけど、それ以外のことでもバリューアップできるんですか?
小鹿
確かに、創業直後の資金調達はしやすくなりました。しかし、問題はその先です。例えば、ベンチャーキャピタルを入れていく時に、単純に普通株ではなく優先株を入れる話も多いので、それらを投資家さんごとに調整していく必要があります。
バリュエーションに関しても、交渉力が重要ですし、しっかりとした経営計画を提示できることは、それ以降のステージにいけるかどうかに非常に大きく関わってきます。
そして、実際に事業を立ち上げ、マネタイズに成功したら、また違うステージに入っていきます。
経営者さんの中には、ご自身で経営戦略立案やストーリー作りができないという方もいらっしゃいます。そういったときに、経営のさまざまなステージにおいて、これまでに構築したフレームワークを基に、ご支援できると思います。
三原
最近では、仮想通貨系のブロックチェーンビジネスをやっている会社も多いと思いますが、そういうビジネスに取り組んでいるような会社が資金調達をして拡大したいというときにお手伝いしていただくこともできますか?
小鹿
それはもちろん可能です。もう少し広く捉えて、『フィンテック』という言葉が適切かはわかりませんが、ファイナンスにテクノロジーを上手く掛け合わせて、金融領域で何かサービスを提供していきたいという時にお力になれると思います。
元々金融側から来た方であれば、ご自身でもできるかもしれませんが、逆にテクノロジー側から来た方だと、金融との上手い組み合わせ方がわからないというご相談をよくいただきます。また、金融の世界は専門用語が多く独特なので、最初は言葉自体が通じないという方が多いです。そういったときに、話が分かる人が一人入るだけでも、コミュニケーションが全然違ってくると思います。
三原
なるほどね。あとは、経営企画で、中期経営計画を立てる上においてのアドバイザリーとして入ってもらうのもイメージが湧くんですがどうですか?
小鹿
そうですね。金融マンとして財務部分の知見もありますし、M&Aや経営企画、IRなども経験を積んでいますので、その辺りは一番分かりやすく能力が発揮できるかなと思っています。
三原
わかりました。今後、色々とお力添えいただくかと思いますが、よろしくお願い致します!
大和証券株式会社
・ファイナンス案件のプロジェクトマネジメント
・エクイティファイナンスの提案や資本政策、資本提携等に関するアドバイスの提供
・デューディリジェンス及び引受可否判断
・オファリングストラクチャーの設計や転換社債等の商品設計
・引受契約書・法定開示書類等のリーガルドキュメンテーション 等
ブラウン・ブラザーズ・ハリマン・インベストメント・サービス株式会社
・リレーションシップマネジャーとして、機関投資家向けビジネスの成長に貢献
・機関投資家セグメントにおける中長期の成長戦略立案や新規サービスの調査・企画 等
SBIグループ
▼SBデジタルアセットホールディングス株式会社 部長
・仮想通貨交換業における顧客管理態勢/コンプライアンス態勢の見直し/強化
▼SBIホールディングス株式会社 ブロックチェーン推進室 部長
▼SBI地域事業承継投資株式会社 執行役員
兼 SBI インベストメント株式会社 営業企画部 部長
・会社設立(SBI地域事業承継投資株式会社)
バイアウト型事業承継ファンドコンセプトの策定及びファンドレイズ
・投資案件の発掘/検討