しんかのおしろ

ケージのたぬくん。

2019.08.20 09:37

とあるペットがいた。

その子の名前は「たぬ」くん。

とあるペットショップで、とある家族に買われた。

その子の世界はケージの中だった。

ある日、家族が引っ越す事になった。

たぬは違う世界への期待すらなく、別の家に移った。

だけど、家族はそこにいなかった。

違う家族が、ケージの中へたぬを入れる。

違う家族がご飯をくれるが、怖くて噛みついた。

噛みつかれた違う家族はこりもせずに、またエサを持ってくる。

たぬは怖がるのを諦めた。

たぬは新しい家族になでられることを許した。

新しい家族はある日、引っ越す事になった。

だけどたぬは、また何が起きているのか解っていなかった。

ケージから出された時、たぬはようやくわかった。

また家族が変わるのかな、そう考えたかもしれない。

だけど、新しい家族はついてきた。

次のおうちには、少しだけ大きなケージが用意されていた。

次のおうちではお客さんがたくさん来た。

毎日楽しかったかもしれない。

新しいおうちではついつい楽しくって、毎日毎晩吠えていた。

でも吠えると、いつもなでてくれる人がスリッパで叩く。

その人の前では吠えるのをやめた。

お出かけしたり、病院にいったり、たぬは少しだけケージの外を楽しんだ。

ある日、たぬは立てなくなった。

それからどれ位経つのか、新しい家族はたぬの前から離れようとしない。

たぬはなでられながら、そばにいる家族を見つめ返した。

ケージの入り口は二度と締められることはなく、たぬもケージに戻ることはなかった。

いつもエサをくれたりスリッパで叩く手は、たぬの体をそっとなで続けている。

ただずっとなで続けている。

たぬはそのことだけを覚えていたかもしれない。

たぬは疲れたのか、なでてくれる人の膝の上で眠った。

たぬのおうちは、ケージの中じゃなく、家族の心の中。


たぬ、お疲れ様でした。

これからもずっと一緒だから。