シェーカー・ダイニング・ローバックチェア
シェーカー・ローバックダイニングチェア
シェーカー家具に関する本を何冊も買って読んでみたなかで、「The Book of Shaker Furniture」(JOHN KASSY 1980日本語訳「シェーカー家具 : デザインとディテール」藤門弘訳,1996年,理工学社)が秀逸でした。内容はベッド、ベンチ、箱、タンス、カップボード、机、テーブル、椅子などと、日常生活で使用されていた当時の家具の写真が数多く載せられ、ひとつひとつに説明がつけられています。そして、すべての分野にわたって、代表作の詳細な寸法図が載せられています。これをもとに家具が復元できます。ほぞ組などの見えない部分の構造の説明は推測で書いてありますが、正確だと思います。
その本のなかで最初に出てくるダイニングチェアを書かれているとおりの寸法で作ってみました。
シェーカーは装飾を不要としたので、脚や貫はすべて単なる丸棒です。ただ、上から下まで同じ直径の丸棒は美しくないと考えたのでしょうか、前脚の下部は、下に向かって細くなるテーパーがついています。この工夫一つで椅子が美しく見えます。
この椅子の解説にはこう記されています。「椅子はメープルで作られ、薄茶色のステインが塗られている。2枚の背板が付けられ、座面はスプリントと呼ばれる木の皮や木のテープで編んである。兄弟や姉妹たちが別々のテーブルで食事をとる食堂ホールでは、最初は長いベンチを使われていた。食堂ホールは、だいたい宿舎の1階の台所に近いところにあった。ベンチは背板が1枚のローバックの椅子にとって代わり、のちに背板はより良く背を支えるため2枚になった。このローバックの椅子は床掃除のとき移動が簡単で、また壁のペグレールに吊るすことができた。椅子をテーブルの下に入れると、セッティングや配膳やテーブルの掃除を容易に行うことができた。また、食堂ホールが整然として見えた。こんな便利なことを可能にしたのは、トレッスルテーブルの上部に通し貫を取り付けるというシェーカーの改良による。前後の脚の上の端はただ丸く仕上げてあるだけだ。前脚の下部はテーパーが付けられているが、後脚は直径は変わらず、そのまままっすぐに床と接する。前面の座面の貫以外は中央から両端に向かってテーパーになっている。前面の座面の貫は強度を増すため、また、座面に張った材料を長持ちさせるため楕円になっている。背板は座り心地をよくするため曲線を描いている。」
彼らが行った発明や創意工夫は、トレッスルテーブルや椅子だけではありませんでした。丸いほうきを細長くして、素早く効率よく、また狭いところのごみも履きだせるようにしました。彼らはとにかく掃除が好きなのです。それも創立者のアン・リーが、「天国には、ほこりがありません」と掃除を勧めたからです。シェーカー家具の「かたち」は、ほこりを出さない、掃除がしやすいという観点からみると、合点がいくことがあります。
建物の照明、空気の循環、暖房、冷蔵、洗濯(洗濯バサミも彼らの発明)に至るまで創意工夫と発明に熱心でした。ですから、19世紀後半には、自動食器洗い機や水流式の扇風機を作っていました。また、仕事場でもその力は発揮され、現在の丸鋸を考え付いたのは、一人のシスターで、回っている糸車を見ていて、水の力で回転するノコギリなら人が切るよりはるかに早く木材を切ることができるのではないかと考え付いたそうです。この発明は、自動カンナ、さねはぎの機械、その他回転させて切る装置に応用されました。また、静電気を使った治療器など、ありとあらゆる発明を行いました。世の中に役に立つものは、皆で共有すべきだとして、特許は取りませんでした。共同体の中で発明されて、使用されたものは、人のためとして世の中にシェアされていったのです。