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WUNDERKAMMER

ショートショート 671~680

2019.10.07 04:27

671.やあや御機嫌よう、ここはユートピアと相成りまする。犯罪反逆蚊帳の外、皆が夢のうち生きております。少し目を回し粉を吸え、私の声が聞こえるか。達磨の豪奢な朱に交われよ皆の者、洗脳は教育堕落は至極、分厚い壁の内に笑え、嗚呼紙吹雪!さあさパレードが始まるぞ、判断を握り潰し ──拍手!

・・・

672.家へ帰ると幾枚もの古びた尋ね人のチラシがポストに入れられていた。

どうして、誰が、

泥に乾いたチラシを握る。

何故今更、

完全犯罪だった筈なのに。

箱庭の艶な椿がぼとりと落ちた。

・・・

673.本とは虚ろな現実を標本にしたものであり、虚ろ故に書いた当初は正しくとも一分後には間違った内容になる場合がある。

常に現実は間違っているのだ。

その昔、「生きる意味」の答えが書かれた本があった。この本は未だ間違わず、だからこそ神様が消したという。

神は常に人間の悩む姿が好きなのだ。

・・・

674.落とした指輪を拾おうと磁石を括り付けた糸を排水溝に垂らし引いたところ、糸の先に蝶々結びに結ばれた指輪が出てきた。

・・・

675.協会の色硝子の影にて、リュウグウノツカイが飛び跳ねた。

「深海から上がった時に、ここから歌が聴こえました。もっと近くで聴きたくて、それが遂に叶ったのです」

「私は魚ですので天まで泳いで行きましょう。

御機嫌よう。また何処かで」

そう言うと朱をくねらせて讃美歌と共に舞い上がった。

・・・

576.その吸血鬼は何をする訳でもない。古い屋敷で紅茶を愛し「私の代わりに」と庭を花で覆っている。

ただ一つ吸血鬼たらしめていたのは鏡に映らないという事だ。

鏡には一枚の絵が貼られている。大昔にある子供から似顔絵を貰ったそうで、毎夜それを眺め身支度をするのだと月下美人を撫で微笑んだ。

・・・

577.ムーンライトの白銀に

水族館が眼を覚ます

「寂しくないかい」

シロナガスクジラの亡霊が

己の骸に声掛ける

外は黒曜石の静を真似、

3つに分裂した世界は銀河の果てに等しく、全てが過去である

『 』

骸が何かを答えたが、

ずっと昔に私であった者の声は

もう私には聞こえない

・・・

578.蝉の歌う十字路にて、カーブミラーに真黒い女が手を振っていた。

すると突然大きな音を立て、カーブミラーが割れたのだ。

驚きながらも近付き覗くと、青空と共に、粉々になった破片全てに先程の女が映っていた。

・・・

579.菫の笑う野畑にて、誘われるまま、私は地面を掘ったのだ。

蚯蚓や蝶がそろりと来ては見守る中、土から現れたのは掌ほどのアメジストであった。

茶黒から瞬く輝きは暖かく、そうかこの宝石は、ここの母であり子なのか。

「秘密よ」「秘密」

皆が囁く。エエ確かに。

私は野畑の愛しき胎児を埋め直した。

・・・

580.猫が鳴いた。

それを聞いた神様はハッとし「こうしてはおれん」と地を豊かにしマタタビを育てた。豊かな地は食べ物を与え、世界から貧困が消えた。満たされた人間は争いやお金に興味を無くし自給自足で生活する様になった。時間の出来た人間は猫を沢山撫でる様になった。嬉しい猫は神様を思い鳴いた。