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KOO

血柘榴 9

2019.08.29 11:30

離れ家にはある程度の缶詰や非常食がいくつかあった、ナオンにそれらを暖炉火で温めて乾パンと共に食べさせる。

少なくともリンゴよりはきっと栄養価はあるはずだ。

 「おいしーね!お兄ちゃん!」

 「良かったね、ナオン」 

 「うん!」

ニコニコとパンを食べるナオンは本当に天使みたいで、遠い昔を思い出す。

小さい頃は3人でよく遊んでここに隠れて父と母を困らせていた。

今思えばあれも本当は俺の幻なのかと思ってしまう程、霧掛かった思い出で。

時々遠くの思い出も溶けて消えてしまったかのように感じる。

所々抜け落ちてしまって掴めない記憶も多い。

そういえばあの時、なにかすごく楽しいことがあったんだ、なんだっけか。

 「お兄ちゃん?」

 「…何も無いよ、ナオン」

 「ふぅん…ねぇ、お兄ちゃん、大丈夫?」

 「え、なにが?」

 「落ち着きがない気がするの」

  「そう?」

  「うん、なれない場所だからかな…」  

 「きっとそうだよ。俺は大丈夫、ね?」

悲鳴や銃声の音が家の近くまで聞こえている。

この場所ももう安全とは言えないのかもしれない。

だとしたら早くここから離れなきゃ行けないんだけどもし、あいつがこの近くまで来てるなら出ない方がいい。

火薬の匂いと銃声であたりの音が上手く聞こえない。

 決断に猶予は残っていはいないなるべく早く決断しなければ命する危ういかもしれない。

 「お兄ちゃん、大好き」

 「急にどうしたの? 俺もナオンが大好きだよ?」

ぴとーっとくっついて擦り寄ってくる可愛い妹の頭を優しく撫でながら微笑む。

ナオンなりに俺を和ませてくれようとしてるのだろうか。

 「お兄ちゃん、私ね、誰よりもお兄ちゃんが好きだよ」

「?  俺もだよ、ナオン」

 「永遠を誓って欲しいの、寂しいのは嫌」

 「誓うさ俺の唯一」

ここでうだうだとしてる暇はないんだ。

この唯一を救うためにここから逃げなきゃ。

俺がナオンを守るんだ。

 「ナオン、ここから逃げよう」

 「うん、お兄ちゃん」

華奢で少し握ったら折れてしまいそうな指を握り、手のひらを包み、手を引く。

裏口のドアを開くと火薬の匂いと生臭い匂いがむわりと流れ込んできて、思わず顔を顰めた。

それを見たナオンが大丈夫? と心配して、顔を覗き込む。

ああ、ナオンは何も感じないらしい。

やはり鼻が利くのは俺だけのようで、あまりの激臭に頭がぐわんぐわんという感覚とツンとした匂いのせいで動けない。

それぐらい酷い匂いだ。

真夏に生ゴミを腐らせた時みたいだ。

蛆虫が湧いて残飯の肉をうねうねと這い回る姿が目に浮かぶ。

頭が揺れるような感覚に暫く立ち止まっていたが少しずつ鼻が慣れて来た。

 「行こう、ここから早く離れよう」

 「うん、お兄ちゃん」

手を引いて外に出る。

ナオンがヒッと息を呑んだ、僕にはよく見えないけど、遠くで酷い光景が広がってるのは予想がつく。

 「…大丈夫、大丈夫だよ、ナオン、俺がいる、俺が絶対守るから」  

 「うん、おにぃちゃん」

何度目か忘れた同じ頷きと返事を確認して歩き出す、とりあえず、家に戻りたいというナオンの意見を聞くことにした。

大切なものがあるから取りに行きたいと、そんな危険なことさせたくないという俺の意見は通らなかった。

家の敷地内はまだ軍の手に落ちてないようで、不気味なくらい静かだった。

鳥のさえずりも虫の鳴き声すらしない。

聞こえる音は全て死を示すような嫌な音。

 「怖い」

 「ナオン」

 「怖い…戻ろうよ…」

 「…ごめんね、俺がいるから大丈夫」

さくさくと芝生を踏みながらなるべく端の方を通る。

 「おにぃ、ちゃん」

後ろを歩くナオンから、かすれるような声が聞こえたしっかりと握っていた手が離されて後ろを振り向く。

軍人だ、真っ黒な覆面? マスク? をつけてナオンに鉄の塊を突きつけていた。

酷い匂いで気が付かなかったのか。

なぜ音で気がつくとが出来なかったのか。

どうしよう。

 「…見ねぇ髪色だな、それに覆面着けてやがる餓鬼が居るなんて…くそ気味悪ぃbossも悪趣味なこった」

 「ナオンに手を出すな」

泣きそうな顔で震えているナオン。

俺どうなったっていい、ナオンだけは、逃がさなきゃ。

 「…お前男だったんだな、髪が長いから女かと思ったぜ……男かぁ…つまんねぇなあ…」

んー、と上を向いた隙にナオンが溝内にきつい肘打ちをした。

 「ナオン!」

「おにぃちゃん! 早く逃げよう!」

今度はナオンが俺の手を引いて走る番だった。

後ろから怒鳴り声と銃声がして頬を掠めた。

ひりつく感覚とキンキンと音が響く耳の奥。

これは良くない、目の奥が熱い。

スープが煮え立った時みたいに感情がふつふつと音を立ててる。

この軍人が、この男が憎い。

ナオンの柔らかい皮膚に傷がついてる。

あの男のせいだ。

 「お兄ちゃん!早く!」  

  「ナオン、早く逃げて、俺は大丈夫」

ぱ、と手を離すとナオンは慌てて止まった。

  「お兄ちゃん?!」

 「行って、ナオン。早く。頼むよ」

 「お兄ちゃ」

 「早く行け!」

ナオンが走り出すのを見届けて、前を向く。

銃を構えて今にも撃ってきそうな男と音を聞き付けてか集まってきた同じような格好の男が数人。

殺さなきゃ。

身を守らないとナオンを守らなきゃ。

頭が真っ白になって、酷く目の奥が熱い。

襲い掛かってくる男を避けて力任せに腕を掴み。振り回し、投げ、木に投げつけ。

仲間の方へ投げつけ、仕切りなく撃ってくる銃を掴んだ。

手からジュウと音がして酷くひりついたが気にしてられない。

腕をひねり上げて男が痛さに呻き、手を離して地面に落とした銃を掴む。

男を盾にして銃弾から身を守った。

辺りに赤い血が散っている、父様に習った通りに構え、撃つ。

すぐに殺してはいけないと習った。

すぐに殺すとは、死ぬとはなんだろう。

今更ながらに考えて首を傾げる。

多分恐らく相手を懲らしめて情報を吐かせるためだ。

これは俺の予想でしかないけれど、きっとそう。

倒れ込んだ軍人の頭を掴んで左右に揺らす、生憎、俺は父様と違って力加減が出来ない。

ボキッと音がして首がぐにゃりとなって動かなくなる、気絶したのかな。

念のためにもっとちゃんと千切った方が良さそうだ。


気がついたら辺り一面真っ赤だった。

手には誰の物か分からない程顔面がぐちゃぐちゃの頭、片手には脚を掴んでいる。

それに、この鉄のような生臭い匂いは嫌いだったのに、なんでこうも腹がすくんだろうか。

まるで絵本で読んだ暴食の騎士だ。

痛みというのはこういう物なんだなと嫌な程冷えた頭で肩を掠めた傷を抑えながら考えた。

ナオンを追いかけなきゃ。