もののけ姫 全セリフ
それは自然の驚異か、それとも人為的な策略の末路か。
美しいだけではない神々と人のたわむれ。
生を謳歌する人と隣り合わせにある死。
その関わりの矛盾による物語に、人は魅せられる。
勧善懲悪ではない、深く深く心に刻まれる物語。
ナレーション「むかしこの国は深い森におおわれそこには太古からのかみがみがすんでいた」
アシタカ「ヤックル」
アシタカ「ちょうど良かった。ヒイさまがみな村へもどれと。じいじもそう言うの」
女の子A「山がおかしいって。鳥たちがいないの」
女の子B「ケモノたちも」
アシタカ「そうかじいじの所へ行ってみよう。みんなは早くもどりなさい」
女の子たち「ハイッ」
アシタカ「なにか来る。じいじなんだろう」
じいじ「わからぬ。人ではない」
アシタカ「みなを呼びもどしている。村のほうはヒイさまが」
じいじ「来おった。タタリ神だ!」
アシタカ「タタリ神?!」
タタリ神「ぐぇぇぇぇぇl!」
アシタカ「ヤックル!逃げろ!」
じいじ「うわっ!」
アシタカ「くっ」
アシタカ「おそう気だ!」
じいじ「アシタカ!タタリ神に手をだずな!呪いをもらうぞ!」
アシタカ「しずまりたまえ!」
タタリ神「さぞかし名のある山の主と見うけたがなぜ。そのようにあらぶるのか?」
女の子たち「おばけ。村へ!」
タタリ神「止まれェ!なぜわが村をおそう」
アシタカ「やめろ!しずまれ」
女の子A「アッ!」
女の子B「しっかり!」
アシタカ「早く!」
タタリ神「ぎぇぇぇぇぇ」
アシタカ「くっ!」
町の人たち「たおした!火をたやすな。ヒイさまを早く」
アシタカ「くっ!」
女の子「兄さま!兄さま」
アシタカ「カヤふれるな。ただ傷のではない」
町の人A「アシタカが手傷をおった!」
町の人B「ヒイさまは?」
ヒイさま「みな!それ以上近づいてはならめぞ!」
町の人C「ヒイさま!」
ヒイさま「この水をゆっくりかけでおやり」
ヒイさま「いずこよりいましあらぶる神とは存ぜぬもかしこみかしこみ申す。この地に塚を築きあなたのみたまをお祭りします。うらみを忘れしずまりたまえ」
タタリ神「けがらわしい人間どもよ。わが苦しみと憎しみをるがいい...」
ヒイさま「さて困ったことになった。かのシシははるか西の土地からやって来た。深傷の毒に気ふれ身体はくさり走り来る内に呪いを集めタタリ神になってしまったのだ。アシタカヒコやみなに右腕を見せなさい」
アシタカ「はい」
町の人たち「おお-」
ヒイさま「アシタカヒコやそなたには自分の運命を見すえる覚悟があるかい」
アシタカ「タタリ神に矢を射るとき心を決めました」
ヒイさま「そのアザはやがて骨までとどいてそなたを殺すだろう」
町の人1「なんとかなりませぬかヒイさま」
町の人2「アシタカは村を守り!」
ほかの町の人「乙女らを守ったのですぞ。ただ死を待つしかないというのは...」
ヒイさま「誰にも運命はかえられないだが、ただ待つかみずからおもむくかは決められる。見なさい。あのシシの身体にくいこんでいたものだよ。骨をくだきはらわたをひきさきむごい苦しみをあたえたのだ。さもなくばシシがタタリ神どになろうか...西の土地でなにか不吉なことがおこっているのだよ。その地におもむきくもりない眼で物事を見定めるならあるいはその呪いを断つ道が見つかるかもしれぬ。大和との戦さにやぶれこの地にひそんでから五百ゆう余年いまや大和の王の力はなく、将軍どもの牙も折れたときく。だが我が一族の血もまたおとろえたこのときに一族の長となるべき若者が西へ旅立つのは定めかもしれぬ」
アシタカ「...」
ヒイさま「掟に従い見送らぬ健やかにあれ」
女の子「兄さま!」
アシタカ「カヤ!」
アシタカ「見送りはじられているのに」
女の子「おしおきはうけます。どうかこれを。私のかわりにお伴させてください」
アシタカ「これは?大切な玉の小刀じゃないか」
女の子「お守りするよう息を吹きこめました。いつもいつもカヤは兄さまを思っています」
アシタカ「わたしもだ。いつもカヤを思おう」
アシタカ「戦さ?!」
侍1「回り込め!」
アシタカ「カブトクビだ!」
アシタカ「ハッ!もどれ-っしょうぶしょうぶ!」
アシタカ「やめろ-っ!なにっ?!」
侍2「うわっ!」
アシタカ「なんだこの腕は?!」
侍たち「逃がさぬぞ!見参!」
アシタカ「押しとおる!邪魔するな!」
侍3「鬼だ...」
アシタカ「アザが濃くなっている...」
ジコ坊の友人「なんとも白湯みたいなめしだな」
ジコ坊「おっ!」
ある町の人「いた!いた!」
ジコ坊の友人「へへっ」
エボシ「なんだいこりゃ?おアシじゃないじゃないか」
ジコ坊「まてまて拙僧がみてやろう。これは砂金の大粒だぞ!」
エボシ「ゼニがいいなら代金はワシが払おう。そのかわりこれをゆずってくれ!」
ジコ坊「みなの衆!この近くに両替屋はおらんかの?」
ジコ坊「お~い!そういそがれるな。いや礼などと申す気はない。礼を言いたいのは拙僧のほうでな。田舎侍の小ぜりあいにまきこまれた折をそなたのおかげで助かったのだ。鬼神のごときとは正にあれだな」
ある町の人たち「ホッホッ。気づいたか?人前で砂金など見せるとなァ。まことに人の心のすさむこと麻のごとしだ」
ジコ坊「寝こみをおそわれてもつまらぬ。走るか!?」
ある町の人たち「チッ!くそっ」
ジコ坊「イノシシがタタリ神になったか...」
アシタカ「足跡をたどって来たのですが里におりたとたんわからなくなりました」
ジコ坊「そりゃそうだろう。そこらを見なさい。この前来たときはここにもそれなりの村があった」
のだが洪水か地すべりか...さぞたくさん死んだろうに戦さ、行きだおれ病に、飢え。人界はうらみ」
をのんで死んだ亡者でひしめいとる。タタリというならこの世はタタリそのもの」
アシタカ「里へおりたのはまちがいでした人をふたりもあやめてしまった」
ジコ坊「人はいずれ死ぬ。おそいか早いかだけだ。おかげで拙僧は助かった。椀をだしなさい」
ホウ、みやびな椀だな。そなたを見ていると古い書に伝わる、いにしえの民を思いだす。東の果てに」
アカシシにまたがり石のヤジリを使う勇壮なるエミシの一族なりとな...かんじんなこと」
は死にくわれぬことだ!」
アシタカ「このようなものを見たことはありませんか」
ジコ坊「これは?」
アシタカ「イノシシの身体からでてきました。巨大なイノシシにひん死の傷をあたえたものです」
ジコ坊「これよりさらに西へ西へと進むと山の奥のまた山奥に人をよせつけぬ深い森がある。シシ神の森だ。そこではケモノはみな大きく太古のままに生きているときいた」
アシタカ「...」」
ジコ坊「やはり行くか...」
エボシ「みなあとわずかだ。油断す。ましぞ!」
町の人1「でたぞ!犬神だ!」
町の人2「あせらずに陳をくめ!」
町の人3「せいて火薬をめらすな!」
町の人2「モロ!来い!」
モロ「ググッ」
町の人3「やりました!」
エボシ「きやつは不死身だ。このくらいでは死なん!」
町の人3「すぐ出発しよう。隊列をくみなおせ」
甲六「ううっ...」
アシタカ「!」
アシタカ「しっかりしろ!」
アシタカ「!」
アシタカ「わが名はアシタカ。東の果てよりこの地へ来た。そなたたちはシシ神の森にすむときく古い神か?!」
サン「去れ!」
アシタカ「!」
甲六「あわわわわ...」
アシタカ「コダマ?!ここにもコダマがいるのか」
アシタカ「しずかに!動くと傷にさわるぞ。すきにさせておけば悪さはしない。森が豊かなしるしだ!」
アシタカ「こいつらはシシ神を呼ぶんだ。大きな山犬か?」
甲六「ちがう!もっとおっかねぇ化物の親玉だ。危険なものは近くにいない」
アシタカ「すまぬがそなたたちの森をとおらせてもらうぞ」
甲六「おねげぇです。もどりましょうよ。むこう岸なら道がありやす」
アシタカ「この森をぬけるなんてムチャだ。流れが強すぎて渡れない。それにこのケガ人は早くしないと手おくれになるぞ。道案内をしてくれてるのか。迷いこませる気なのか」
甲六「ダンナ~こいつらワシらを帰さねぇ気なんですよ」
アシタカ「どんどんふえてやすぜ。これがおまえたちの母親か。リッパな樹だ」
病者「ふふっ」
アシタカ「あの少女と山犬の足跡だ!ここは彼らのナウバリか...」
甲六「ダンナ...こんどこそヤバイですよ。ここはあの世の入り口だ!」
アシタカ「そうだな。ちょっと休もう」
アシタカ「足跡...?!ひずめが三つ...まだ新しい」
アシタカ「うっ!」
甲六「だ、ダンナ!どうしたんで」
アシタカ「くっ!ハァハァ」
甲六「ダンナ、すげえタタラについた!まるで城だな。エボシさまの大タタラでさ。砂鉄を沸かして鉄をつくってるんです。
町の人「森から人が来る」
町の人「もののけか?」
甲六「おれだ~牛飼いの甲六だ~」
町の人「なにィ甲六ガ...」
町の人「カカァにしらせろ」
町の人「うそじゃねぇ!いま舟でこっちに来る」
ゴンザ「何事か!?おれが字を書いてるときはしずかにしろ!」
町の人「死んだはずの甲六がむこう岸にでたんでさぁ」
町の人「幽霊じゃねぇな」
町の人「他のヤツはどうした」
町の人「おいっ」
町の人「助けられたのはおれたちだけだ」
甲六「石火矢の衆よ。このダンナがずっとおぶってくださったんだ。礼を言っとけ」
町の人「さま、あの頭巾の者は何者でしょう?見なれぬ姿だな」
ゴンザ「そこの者、まて!ケガ人をとどけてくれたことまず礼を言う。だが得心がいかぬ。われらがここへついて半刻もせぬうちにおまえは来た。しかも谷底から大の大人をかつぎシシ神の森をぬけてだと...」
トキ「甲六~生きとったんか~。牛飼いが足をくじいてどうやっておマンマくってくんだよ」
甲六「んなこと言ったってよ」
ゴンザ「心配ばかりかけやがって」
トキ「いっそ山犬にくわれちまえばよかったんだ。そうすりゃあたしはもっといい男を見つけてやる」
甲六「おトキ~カソニソしてくれよ~」
ゴンザ「トキーーーー夫婦喧嘩はよそでやらんかい」
トキ「なにさ。えらそうに。なんのための護衛なのさ。ふだんタタラのひとつもふまないんだ」
ゴンザ「いざというときは生命をはりやがれ」
トキ「しかたがなかろう...。ありがとあんな亭主でも助けてくれてうれしいよ」
アシタカ「よかった。つれて来てはいけなかったのかと心配してしまった」
エボシ「ゴンザッ!あとで礼を言いたい。客人を案内しなさい」
町の人たち「エボシさま」
エボシ「甲六、よく帰って来てくれた。すまなかったな。トキも堪忍しておくれ。わたしがついていたのにザマァなかった」
トキ「いいえ。男たちだけだったら今頃みんな仲良く山犬の腹の中ですよ」
エボシ「旅のおかたゆるりと休まれよ」
アシタカ「す...」
トキ「あらっ、いい男じゃない!」
町の人たち「そ-れ」
町の人「モロをやっつけて運んだ米だ!ありがたくうえよ!」
町の女「どこどこ?」
町の女「え?あの人?」
町の女「ほんとトキの言ったとおりじゃん」
町の女「いい男ね~」
町の女「ちょっと若すぎない?」
町の人「しずかにしねぇか。通夜をやってるんだぞ」
町の女「ネィ、旅のおかたあたいたちの所へきな」
町の女「こんなクサイ小屋はやめてさ」
町の人「てやんでェ。おれたちが生命がけで運んだをくらってよ」
町の女「その米を買う鉄はだれがつくってるのさ。あたいたちは夜っぴいてタタラをふんでるんだ」
アシタカ「よかったらあなたたちのはたらく所を見せてください」
町の女「おしろいぬってタタラを」
町の女「紅もさす?」
町の女「きっとだよ-」
町の女「まってるからね~」
甲六「ダンナ気をわるくしねぇでください」
町の人「エボシさまが甘やかしすぎるんで」
アシタカ「いい村は女が元気だと聞いています」
町の人「でもなぁタタラ場に女がいるなんてなぁ。ふつうは鉄を汚すってそりゃ~~いやがるもんだ」
甲六「おっ!はじめやがった。エボシさまときたら売られた娘を見るとみんなひきとっちまうんだ。そのくせ掟もタタリもヘッチャラなコワイ人だよ」
町の人「そうそう。ナゴの守をやったときなんか見せたかったぜ」
アシタカ「ナゴの守?!」
町の人「すげえでかいイノシシでよ。このあたりのヌシだったのよ。でよ、だれも山に近よれねぇ。お宝の山を見ながら人間様(さま)はをくわえてたのよ」
町の人たち「ハハハ!」
町の人「この下じゃ砂鉄(さてつ)をとりつくしちまったからな」
アシタカ「何人ものタタラ師がここをねらってよ。みんなやられちまったんだ。おれたちの稼業は山をけずるし木を切るからな。山の主が怒ったてな。そこへエボシさまが石火矢衆(いしびやしゅう)をつれてあらわれたってわけだ」
町の人「ダンナ、どうしたんで?」
アシタカ「そのイノシシのことを考えていた。いずくで果てたかさぞ。うらみは深かろう」
エボシ「アシタカとやらまたしてすまぬな。あすのおくりのしたくに手間どってね。いい鋼(はがね)だ」
エボシ「ちょっと休もう。そなたを侍どもか、もののけの手先とうたがう者(もの)がいるのだ。このタタラ場を狙う者がたくさんいてね。旅のわけを聞かせてけれぬか」
アシタカ「このつぶてにおぼえがあるはず。巨大なイノシシ神の骨をくだき肉を腐らせタタリ神にしたつぶてです。このアザはそのイノシシにとどめをさしたときにうけたもの死にいたる呪いです」
エボシ「そなたの国は?見なれぬシシに乗(の)っていたな」
アシタカ「東と北のあいだより...それ以上は言えない」
ゴンザ「正直にこたえぬとたたっきるぞ!」
エボシ「そのつぶての秘密を調べてなんとする」
アシタカ「くもりなきまなこでものごとを見定(みさだ)め、決める」
エボシ「フフア-ッハハハハハハハわかった。わたしの秘密を見せよう。来なさい。ゴンザ!あとをたのむよ」
エボシ「ここはみなおそれて近よらぬ。わたしの庭だ。秘密をしりたければ来なさい」
働いてる人「ちょうどくみあがったところですよ」
エボシ「まだちょっとおもいな」
働く人「あまりけずると銅金がはじけます」
エボシ「わたしだけが使うのではない。ここの女たちにもたせるのだ。ホホホさぞ見ものでしょうね。この者たちが考案した新しい石火矢(いしびや) だ。明国(みんこく)のものはおもくて使いにくい。この石火矢なら化物(ばけもの)も侍(さむらい)のヨロイもうちくだけよう」
働く人たち「コワヤコワヤエボシさまは国くずしをなさる気だ」
エボシ「いそがせてすまぬな。あとで酒などとどけよう」
アシタカ「あなたは山の犬の森をうばいタタリ神にしてもあきたらずその石火矢でさらに新(あら)たなうらみと呪いを生みだそうというのか?!
エボシ「そなたには気の毒だった。あのつぶて、たしかにわたしのはなったものおろかなイノシシめ。呪うならわたしを呪えばいいものを」
エボシ「その右腕はわたしを殺そうとしているのか」
アシタカ「呪いが消えるものならわたしもそうしよう。だがこの右腕はそれだけではとまらぬ。ここの者すべてを殺すまでしずまらぬか」
働く人「エボシさまその若者の力あなどってはなりません」
働く人「長(おさ)!お若いかた、わたしも呪われた身ゆえ。あなたの怒りや悲しみはよくわかる。わかるが、どうかその人を殺さないでおくれ。その人はわしらを人としてあつかってくださったたったひとりの人だ。わしらの病(やまい)をおそれずわしのくさった肉を洗い布(ぬの)をまいてくれた。生きることはまことに苦しくつらい...世(よ)を呪い人を呪いそれでも生きたい...どうかおろかなわしにめんじて...」
エボシ「また来ていたか。夜になるとああしてもどってくるのだ。山をとりもどそうと木を植(う)えにくる。アシタカ、ここにとどまり力をつくさぬか」
アシタカ「あなたはシシ神の森までうばうつもりか?!」
エボシ「森に光が入り山犬どもがしずまればここは豊かな国になる。古い神がいなくなればもののけたちもただのケモノになろう。さすればもののけ姫も人間にもどろう」
アシタカ「もののけ姫...」
エボシ「山犬に心をうばわれたあわれな娘だ。わたしを殺そうとねらいつづけている。シシ神の血はあらゆる病をいやすと聞く。そなたのアザを消す力もあるかもしれぬぞ!」
働く人たち「エボシさま、首尾(しょび)はいかがでしょうや?」
エボシ「上出来(じょうでき)だ。正(まさ)に国くずしにふさわしいが...やはりちょっとおもいな」
町の女「あらっ?!あんた」
アシタカ「おトキさん、わたしもふませてくれ。かわってくれないか。せっかくだからかわってもらいな」
町の女たち「すごい力!」
トキ「ねっイイ男だろう。そんなにリキむとつづかないよ。旅人(たびびと)さん」
アシタカ「きびしい仕事だな」
町の女「そりゃそうさ」
トキ「四日五晩(よっかいつばん)ふみめくんだ」
アシタカ「ここのくらしはつらいか?」
トキ「そりゃあさ...でも下界(げかい)にくらべりゃずっといいよ」
町の女たち「お腹いっぱい食べられるし。男がいばらないしさ」
山犬「ウ~~ッグルルル」
町の女たち「あした行っちゃうの?もっといればいいのに」
アシタカ「ありがとう、でもどうしても会(あ)わなければならない者がいるんです」
町の女「ここではたらきなよ」
アシタカ「ハッ」
アシタカ「来る!」
ある町の人「もののけ姫だ!」
ある町の人「うわっ!くっ。うわっ~」
アシタカ「!」
町の人たち「姫だ~!」
アシタカ「やめろ!」
アシタカ「くっ!」
アシタカ「そなたと戦(たたか)いたくない!」
町の人「入ったのは姫ひとりだ」
町の人「御殿のほうへ行くぞ!」
ゴンザ「かがり火をふやせ。石火矢衆は柵(さく)をかためろ」
町の人「もち場(ば)をはなれるな」
町の女「この屋根(やね)のにいるらしいよ」
トキ「さわぐんじゃない。休まずふみな!火をおとすととりかえしがつかないよ」
エボシ「ひとりか?」
ゴンザ「はっ、よほど追いつめられたと見えます。エボシさまをねらってのことでしょう」
エボシ「しかたがない。来なさい」
エボシ「もののけ姫!きこえるか。わたしはここにいるぞ。おまえが一族の仇をうとうというならこちらにも山犬にくい殺された夫(おっと)の無念をはらそうと心に決めた者たちがいる。でておいて。今夜こそケリをつけてやる」
町の人たち「出た~いたぞ~!」
アシタカ「(バカな...?!)」
町の人たち「前をあけろ!流れ弾にあたるぞ!」
アシタカ「罠(わな)だ!(...)やめろ-!」
アシタカ「山犬の姫、森へ帰れ!みすみす死ぬなしりぞくも勇気だ!」
ゴンザ「やはりあいつ!」
エボシ「すきなようにさせておけ」
アシタカ「くっ!
ゴンザ「やった~!おちるぞ!」
町の女「動かない」
町の人「首だけになってもくらいつくのが山犬だ!」
エボシ「おちた所をねらいな!」
サン「ううっ...」
エボシ「はなて!」
ゴンザ「やった-」
アシタカ「うごくなー」
ゴンザ「あちち」
アシタカ「しっかりしろ!」
サン「ううっ」
アシタカ「やめろ~!」
ゴンザ「なにっ!?」
サン「うおー」
サン「ぐああっ~」
エボシ「袋(ふくろ)のネズミだ!逃がしちゃだめだよ」
町の人「ゴンザさまお気をたしかにっ」
ゴンザ「おれにかまうな!行け!」
ゴンザ「ウッ」
アシタカ「うめは...やはり...」
ゴンザ「もののけのたぐいかっ?!とまれぇっ!」
アシタカ「どいてくれ」
町の人「イテテてめぇなにするんでィ」
エボシ「なんのまねだアシタカ。この娘の生命わたしがもらう。その山犬を嫁(よめ)にでもする気か?!」
アシタカ「そなたの中には夜叉がいる」
エボシ「この娘の中にもだ」
エボシ「みんな見ろ。これが身の内に巣(す)くう憎(にく)しみと恨みの姿だ...肉をくさらせ死を呼びよせる呪いだ!これ以上憎しみに身をゆだねるな!」
エボシ「さかしらにわずかな不運を見せびらかすな」
サン「アアッうわっ」
エボシ「その右腕切りおとしてやろう!」
町の女「エボシさま!」
アシタカ「だれか手をかしてくれ。心配するな気がつく。この娘、わたしがもらいうける」
町の女「おまちっ!逃がしはしないよ!よくもエボシさまを...動くんじゃない!」
町の女「キヨ!やめな!」
町の女「あたったのに歩いとる...」
ゴンザ「おれの石火矢をもってこい!」
ある町の女「おトキ!早く!」
トキ「あんた?!」
門番1「だんな、ここは通れねぇ。ゆるしがなければ門はあけられねぇんだ。あなたは仲間を助けてくださった」
門番2「敵にしとうありませんどうかおもどりを」
アシタカ「わたしは自分でここへ来た。自分の足でここをでて行く」
町の人「だんな、いけねェ!死んじまう!」
町の人たち「動いた!すげぇー」
門番1「アア~」
ゴンザ「どけ~!山犬だー!」
アシタカ「やめろ!そなたたちの姫は無事だ!いまそっちへ行く!行こう、ヤックル。世話になった」
町の人「行ってしまわれた」
サン「おまち!わたしのエモノだよ。おまえ射たれたのか。死ぬのか。死の前に答えろ!なぜわたしの邪魔をした?」
アシタカ「そなたを死なせたくなかった」
サン「死などこわいもんか!人間を追い払(はら)うためなら生命などいらぬ!」
アシタカ「わかっている...最初に会ったときから」
サン「そのノド切りさいて。二度とムダ口がたたけぬようにしてやる!」
アシタカ「生きろ...」
サン「まだ言うか!人間の指図(さしず)はうけぬ!」
アシタカ「そなたは美しい...」
サン「!」
山犬「どうしたサン!オレがかみくだいてやろうか?」
サン「はっ。猩(しょう)猩たち...」
山犬「われらがモロの一族としっての無礼か?!」
猩たち「ここはわれらの森。その人間よこせ。人間よこしてさっさと行け」
山犬「うせろ!わが牙がとどかぬうちに!」
猩たち「オレたち人間くう。その人間くうその人間くわせろ」
サン「森の賢者とたたえられるあなたたちがなぜ人間などくおうというのか?」
猩たち「人間やっつける力ほしい、だからくう」
サン「人間を食べても人間の力は手に入らない。あなたたちの血がけがれるだけだ」
猩たち「木...うえた木...うえみんな人間め、森もどらない。人間殺したい」
サン「わたしたちにはシシ神さまがついてる。あきらめないで木をうえて...モロの一族はさいごまで戦う」
猩たち「シシ神さま戦わない。わしら死ぬ。山犬の姫、平気...人間だから...」
サン「!」
山犬「無礼なサルめっ!そのクビかみくだいてやる!」
サン「おやめっ!平気...気にしない...おまえたち先に帰りな。この人間のしまつはわたしがする」
山犬「あいつは?食べていい?」
サン「食べちゃダメ!」
サン「さあ、行きな!」
サン「おいで!仲なおりしよう!おまえの主人をはこぶから...力をかしておくれ」
サン「おいで...」
サン「おまえはかしこいね。この島にはのぼらないほうがいい...人間くさい。すきな所へ行き。すきに生きな」
ジコ坊「おお~でたぁ。ディダラボッチだ!ついに見つけた。なにをしとる早く見んか!なんのためにこんなクサイ毛皮をかぶってたえてきたんじゃ」
狩人1「シシ神さまを見ると目がつぶれるワイ」
ジコ坊「それでもヌシは西国一の狩人か?この天朝(てんちょう)さまの書きつけをなんとこころえる。天朝さまがシシ神退治をみとめとるんだぞ!」
ジコ坊「ディダラボッチはシシ神の夜の姿だ。いまに夜から昼(ひる)の姿にかわるそこがシシ神のすみかだ。おおっ、消えるぞ。あそこだ!」
シシ神「...」
狩人1「ジコ坊さま」
ジコ坊「判っとる」
狩人1「あそこを」
ジコ坊「おお、これは?なんともおびただしい数(かず)だな。ありゃあこの森のもんじゃねぇ。それぞれいずくかの山の名のある主だ。むっ。あれは?鎮西(ちんぜい)の乙事主(おっことぬし)だっ!」
狩人1「鎮西?!海を渡って来たと言うのか?」
ジコ坊「まちがいねぇ。あの四本牙!一族をひきいて来やがったんだ!」
狩人1「ばれたっ!」
ジコ坊「ひきあげだ!いそげ!」
乙事主「ぶぎゃー」
イノシシたち「ピ-ギャ-ブヒ-ピギャー」
ジコ坊「早くしろ!」
アシタカ「うっう...ん、はっ!傷がない!
ヤックル「(スッ)」
アシタカ「ヤックル」
サン「目がさめてたらヤックルに礼を言いな。ずっとおまえを守っていたんだ」
アシタカ「どうしてヤックルの名を...」
サン「自分からいろいろ話してくれた。おまえのことも古里(ふるさと)の森のことも。シシ神さまがおまえを生かした。だから助ける」
アシタカ「ふしぎな夢を見た。金色の鹿だった...」
サン「食べろ」
サン「かめ!」
アシタカ「おまえ...」
イノシシ「われらは人間を殺し森を守るために来た...なぜここに人間がいる?!」
モロ「わたしの娘だ。人間などどこにでもいる。自分の山にもどりそこで殺せばいい」
イノシシ「シシ神の森を守るために殺すのだ!なぜ人間がここにいる...」
サン「この人間の傷をシシ神さまがいやした。だから殺さずにかえす」
イノシシたち「シシ神が人間を助けいやしただと!なぜナゴの守を助けなかったのだ!シシ神は森の守り神ではないのか?!」
モロ「シシ神は生命をあたえもしうばいもする。そんなことも忘れてしまったのか、猪ども
イノシシたち「ちがう。山犬がシシ神をひとりじめしてるからだ。ナゴを助けず裏切ったからだ!」
モロ「きやつは死をおそれたのだ。今のわたしのように。わたしの身体にも人間の毒つぶてが入っている。ナゴは逃げわたしは逃げずに自分の死を見つ
めている」
サン「モロだからシシ神さまに...」
モロ「サン!わたしはすでにじゅうぶんに生きた。シシ神は傷をなおさず生命をすいとるだろう」
サン「そんなはずはない!母さんはシシ神さまを守ってきた」
イノシシたち「だまされぬぞ!ナゴは美しく強い兄弟だ!山犬どもが食(く)っちまったんだ!」
サン「母さんをバカにするとゆるさんぞ」
アシタカ「あらぶる山のかみがみよ、きいてくれ!」
アシタカ「ナゴの守にとどめをさしたのはわたしだ。村をおそったタタリ神をわたしはやむなく殺した。大きな猪神だった。これがあかしだ!あるいはこの呪いをシシ神がといてくれぬかとこの地へ来た。だが...シシ神は傷はいやしてもアザは消してくれなかった。呪いがわが身をくいつくすまで苦しみ生きろと...」
イノシシたち「乙事主だ...」
モロ「少しは話のわかるヤツが来た」
サン「待って、乙事主さま!」
乙事主「モロの娘だね。うわさはきいていたよ」
サン「あなた目が...」
アシタカ「山犬の姫かまわない。ナゴの守のさいごを伝えたいから」
乙事主「ありがとうよ、お若いの...悲しいことだが一族からタタリ神がでてしまった...」
アシタカ「乙事主どのこのタタリを消す術はないのだろうか...」
乙事主「お若いの森を去れ次に会うときは殺さねばならぬ」
モロ「乙事主よ、数だけでは人間の石火矢には勝てぬぞ!」
乙事主「モロ、わしの一族を見ろ!みんな小さくバカになりつつある。このままではわしらはただの肉として人間に狩られるようになるだろう...」
モロ「気に入らぬ一度にケリをつけようなどと人間どもの思うつほだ!」
乙事主「山犬の力をかりよいとは思わぬ。たとえ...わが一族ことごとくほろぶとも人間に思いしらせてやる!」
サン「...シシ神さま...」
町の人「ドウドウ。牛をちらすな!」
侍たち「うわーッ」
エボシ「まだ撃つな。ひきよせろ!」
侍たち「うわー」
エボシ「はなてぇ!」
侍「ひいい...」
エボシ「弾込めいそげェ!」
ジコ坊「やれやれ。エボシのやつ相手がちがうだろうに。おまえたちさきに行きひそんでおれ」
町の女「みえた!帰って来たよー」
ジコ坊「おかしら。苦労をかけるな」
ジコ坊「そろそろ動く。みなにもそう伝えよ」
町の人「はっ」
ジコ坊「師匠連から矢の催促だ田舎侍とあそんどるときではないぞ」
エボシ「アサノ公方が地侍どもをそそのかしてるのだ」
ジコ坊「アサノか...大侍だな」
エボシ「鉄を半分よこせと言ってきた」
ジコ坊「そりゃあごうつくだ」
エボシ「だがいまは人間とやりあうヒマはない」
ジコ坊「森に猪神があつまっておる...じきに来るぞ!この際、鉄など全部くれてやれ。師匠連への約束をはたしてから戦さでもなんでもやればよかろう」
町の女「エボシさまーお早くー侍が来ます。早くー」
ジコ坊「うわさをすれば...あれはアサノの使者だな」
エボシ「使者だ。丁重にもてなしなさい!」
町の女たち「ハーイ!」
ジコ坊「おい、会わんのか!?」
使者「タタラバ、エボシとやら、さきほどの地侍あいての戦さみごとなり!われらは公方さまの使者としてまいった。かいこまって門をひらけい!」
町の女たち「フン。用があるならそこで言いな!この山はエボシさまがもののけから切りとったんだ。金になるとわかって手のばしやがって!とっとと帰れ!」
使者「女ども使者への無礼ゆるさんぞ!」
町の女たち「無礼だってさ。こっちは生まれたときからズーッと無礼だい」
ある町の女「鉄がほしけりゃくれてやるよ!」
使者「!」
町の女たち「アハハハハハッ」
ジコ坊「いやぁまいった。まいった。大侍ももののけも眼中になしか。エボシタタラの女たちのいさましいことよ」
エボシ「こんな紙きれが役に立つのか?」
ジコ坊「まぁ色んな輩をあつめるにはききめがある!」
エボシ「けものとはいえなにしろ。神を殺すのだ」
エボシ「そなたたち、この書きつけがわかるか?」
町の女「はい、エボシさま」
エボシ「天朝さまのだ」
町の女「天朝さまって?」
エボシ「みかどだ」
町の女「みかど...」
ジコ坊「いやぁまいった。まいった」
エボシ「いいよ...」
町の女「はい」
エボシ「わたしたちがここで鉄をつくりつづければ森の力は弱まる。それからのほうが犠牲もすくなくすむが...」
ジコ坊「金も時間もじゅうぶんにつぎこんだ石火矢衆四十名をかしあたえたのは鉄をつくるためではないぞ...とまあ師匠連は言うだろうなあ」
エボシ「まさかそなたまでシシ神の生首に不死不老の力があると思ってはいまいな」
ジコ坊「やんごとなき方々の考えはワシにはわからん」
エボシ「約束は守る。モロ一族のかわりに猪の群れが森にひしめくならかえってやりやすかろう。崖の裏にひそんでいるあやしげな手下どもをよびよせるがいい」
ジコ坊「いやぁハハハ...ばれてたか。あっ、そうだ!もうひとつ」
ジコ坊「少年がひとりたずねて来なかったか?アカシシに乗ったふしぎな少年だが...」
エボシ「去った...」
町の女「なんか気味が悪いよ」
甲六「ありゃあただの狩人じゃねぇジバシリダだ」
町の人「ジバシリ...?」
町の女「わたしたちもおともさせてください!」
町の女「あんな連中を信用しちゃダメです!」
町の女「エボシさまになんかあったらとりかえしがつかないもの」
町の女「せっかく石火矢をおぼえたんだから...」
エボシ「だからこそみんなにここを守ってもらいたいのさ。こわいのはもののけより人間のほうだからね。シシ神殺しがすんだらいろいろわかるだろうよ。唐傘連の師匠たちがシシ神の首だけでここから手をひくもんかね...侍だけじゃないよ。石火矢衆が敵となるかもしれないんだ。男はたよりにできない。しっかりやりな、みんな」
ゴンザ「エボシさまのことは案ずるな!このゴンザ、かならずお守りする」
トキ「それがホントならねぇ...」
ゴンザ「なにい!」
トキ「あんたも女だったらよかったのさ。んべ~~ッ」
ゴンザ「う...」
エボシ「ハハハハハハハ...」
トキ「くくっ」
アシタカ「くっ...」
サン「...」
アシタカ「!」
アシタカ「ぐっ」
アシタカ「...」
モロ「つらいか...そこからとびおりればかんたんにけりがつうぞ。体力がもどればアザもあばれだす」
アシタカ「わたしは何日もねむっていたようだな。夢うつつにあの子に世話になったのをおぼえている」
モロ「おまえがひと声でもうめき声をあげればかみ殺してやったものを...惜しいことをした」
アシタカ「美しい森だ。乙事主はまだ動いていないのか...」
モロ「穴にもどれ小僧!おまえには聞こえまい。猪どもに喰い荒される森の悲鳴が...わたしはここでくちていく身体と森の悲鳴に耳をかたむけながらあの女を待っている。...あいつの頭をかみくだく瞬間を夢見ながら...」
アシタカ「モロ...森と人間が争わずにすむ道はないのか?ほんとにもうとめられないのか?」
モロ「人間どもがあつまっている、きゃつらの火がじきにここにとどくだろう」
アシタカ「サンをどうする気だ。あの子も道づれにするつもりか!?」
モロ「いかにも人間らしい手前勝手な考えだな。サンはわが一族の娘だ。森と生き森が死ぬときはともにほろびる」
アシタカ「あの子を解きはなて!あの子は人間だぞ!」
モロ「だまれ、小僧!おまえにあの娘の不幸がいやせるのか。森をおかした人間がわが牙をのがれるためになげてよこした赤子がサンだ...!人間にもなれず山犬にもなりきれぬ哀れで醜い可愛い我が娘だ!おまえにサンをすくえるか!?」
アシタカ「わからぬ...だが共に生きることはできる!」
モロ「ファッファッどうやって生きるのだ。サンと共に人間と戦うというのか」
アシタカ「ちがう!それでは憎しみをふやすだけだ」
モロ「小僧...もうおまえにできることはなにもない。おまえはじきにアザに喰い殺される身だ。夜明けとともにここを立ち去れ!」
サン「...歩けたか?」
アシタカ「ありがとう。サンとシシ神さまのおかげだ」
サン「...」
アシタカ「ヤックル!心配かけたな。
」
アシタカ「う...!?痛...足がすっかりなまってしまった」
アシタカ「しずかすぎる。コダマたちもいない...」
アシタカ「タタラ場のにおいがかすかに風にまじっている。案内ごくろう!ひとつたのみがある...サンにこれをわたしてくれ!いこう...」
サン「ひどいにおい...鼻がもげそう」
モロ「ただの煙じゃない。わたしたちの鼻をきかなくしようとしているのさ」
サン「...あの女がいる!こっちに気づいている...」
モロ「みえすいた罠をはったものだ」
サン「わな...?」
モロ「猪どもをいきりたたせて森からおびきだそうとしているのだよ。よほどのしかけがあるのだろう」
サン「おしえなきゃ!猪たちは動きはじめてる。みんなやられてしまう」
モロ「乙事主とてばかではない...すべてわかっていても猪たちは正面から攻撃したいのさ...最後の一頭になっても突進してふみ破る!」
サン「木をきりはじめた...」
モロ「あれもさそいだ」
サン「かあさん、ここでお別れです。わたし乙事主さまの目になりにいきます。あの煙にこまっているはずだから。
モロ「それでいいよ...おまえにはあの若者と生きる道もあるのだが...」
サン「人間はきらい!」
サン「アシタカがわたしに...綺麗」
モロ「おまえたちはサンとおいき!わたしはシシ神のそばにいよう」
サン「いこう!」
サン「モロ一族もともにたたかう!乙事主さまはどこか!?ありがとう!」
アシタカ「タタラ場からだ!」
アシタカ「いこう!」
侍「何者かぁ!?」
アシタカ「侍だ!」
侍「とまれェ!」
アシタカ「おしとおる!」
侍「こいやァ!」
侍「!」
侍たち「こりゃあたまげた!」
侍たち「とめたぞ!やるのォ!矢のむだだ!やめとけ!」
町の女「早く早く!」
トキ「ほんとだ。あの人だよ」
町の女「幽霊じゃないよね?」
トキ「アシタカさまーっ!」
アシタカ「おトキさんかー!みんな無事かー!?」
トキ「見てのとおりさ男たちの留守をねらって侍どもがおしよせてきやがった!」
町の女「下はやられちまった」
トキ「女ばかりとあまく見やがって...エボシ殿は?」
トキ「動ける男はみんなつれてシシ神退治にいっちまってる。こうかこまれては知らせようがなくてさ」
アシタカ「シシ神退治...やはりさっきの音は...」
甲六「ダンナーあずかってましたぜーっ!」
トキ「なんで鞍とミノも持ってこなかったのさ!」
甲六「だって...」
トキ「この役立たず!」
アシタカ「甲六、ありがとう!エボシ殿をよびにいく!それまでもつか...!?」
トキ「いざとなったらとけた鉄をぶっかけてやるさ!」
町の女「アシタカさま、おねがいします!エボシさまにはやく!」
町の男「はずしたか...」
町の男「船が来ますぞ、おはやく!エボシさまおたのみます!わたしらもたたかいますゆえ!」
アシタカ「かならずもどる!」
トキ「たのむよーっ!」
町の女「お気をつけて...」
甲六「!」
ある侍「でたぞーッいっきーー」
アシタカ「追手がかかった!たのむぞ、ヤックル!」
アシタカ「ああ...」
アシタカ「生きものの焼けるにおいだ...」
アシタカ「ヤックル!」
侍たち「こいやぁー」
アシタカ「アシタカがヤックルの身で矢を抜いてる」
侍たち「うおおおおおおお!」
アシタカ「!」
ある侍「おらららららー」
ある侍「!」
アシタカ「来るな!」
アシタカ「ヤックル、傷を見せろ!」すまないここでまっててくれ!かならずもどる。
アシタカ「だめだ、まってろ!
アシタカ「がんばれもうすこしだ」
兵士「何者か!?」
兵士「ここは修羅の庭。よそ者はすぐ立ち去れい!」
アシタカ「この死者たちの世話になった者だ。いそぎ伝えたいことがある。エボシ殿に会いたい」
兵士「エボシはここにはいない。伝えよう、用むきを話せ!」
アシタカ「本人に話す。エボシ殿はどこか!?」
町の男「だんなー!生きとったんですか!むごいことになったな。まだ何人もうまってるんでさ」
町の男「ひでえなんてもんじゃねぇ」
アシタカ「タタラ場が侍におそわれた」
町の男「ええっ!?」
アシタカ「女たちが上の曲輪にたてこもってがんはっている。いまならまだまにあう」
町の男「えれぇことになった...」
町の男「アサノのやつらだ...留守をねらいやがった」
アシタカ「エボシ殿はここにはいないのか!?」
町の男「へぇ...シシ神殺しに森へ...」
アシタカ「すぐびもどせ!まにあわなくなるぞ」
兵士「用むきがすんだら即刻たち去れ」
兵士「みな仕事にもどれ!」
町の男「おい、ほっとく気かよ!」
町の男「ちょっと待ってくだせえ」
町の男「あいつらタタラ場を見殺しにする気だぞ」
町の男「帰りを待ってたりしちゃ手おくれになっちまう」
町の男「すぐ使いをだせ!」
兵士「森はひろくて深い。使いのだしようがないのだ」
町の男「ウンをつくなよ!」
兵士「のろしでもなんでもあんたちの得意だろうが!」
町の男「エボシさまはやつらにおどらされてるんだ」
アシタカ「攻めよせた猪の中に山犬はいなかったか?」
町の男「えっ?」
アシタカ「サン...いやもののけ姫は?」
町の男「さぁわからねぇ...まっくろになっておしよせてきたから...」
アシタカ「...」
町の男「いました...お...おれたちがいちばん前にいたから...」
アシタカ「それで...」
町の男「わからねぇ!とつぜんなんにもわからなくなっちまって...唐傘のやつら、おれたちをエサに猪をおびきよせ...地面ごとふっとばしやがったんでさ。上からも地雷火をなげやがった...」
アシタカ「...」
アシタカ「はっ」
山犬「ガウヴウ~ッ」
アシタカ「...!」
町の男「んん...?」
アシタカ「サンはどうした!?くっ...」
山犬「グルルル...」
アシタカ「おちつけ!おまえを助けたい」
町の男「山犬だ!山犬が生きてるぞーっ!だ...だんななにを...」
アシタカ「ウウーッ」
町の男「だんな!」
兵士「どけい!小僧...なにをしている!?」
アシタカ「この者に案内をたのむのだ。わたしがエボシを呼びにいく!」
兵士「さては魔性のたぐいか!どけッ!」
アシタカ「シシ神の首とタタラ場とどちらがたいせつなのだ!?」
町の男「毒針だ!」
アシタカ「あっ!」
町の男「や...やめろ!」
兵士「!」
町の男「みんな力をだせ!テコをつかえ!」
町の男たち「でたぞーっ!」
アシタカ「へい!みんなは沢をくだって湖の近くにかくれていてくれ!」
町の男「お気をつけて...石火矢衆もやつらの仲間です」
アシタカ「あずかってくれ!最後の矢が折れてしまった」
アシタカ「おまえはみんなといきな。ヤックルをたのむ!
アシタカ「サンのところへ!そこにエボシもいる」
ジコ坊「ジバシリどもにおくれるな。今日こそけりをつけるのだ」
狩人「ジコ坊さま」
ジコ坊「オッ。様子はどうだった?」
狩人「深手をおった乙事主はもののけ姫とさらに森の奥へ向かっております」
ジコ坊「やはりシシ神に助けをもとめる気だ。ぴったりはりつけよ!人と見やぶられてはシシ神はでてこめぞ」
狩人「言われるまでもねぇ...」
エボシ「やつの顔にぬったのは猪の血か?」
ジコ坊「へへ...ジバシリのわざだ。おぞましいものよ」
サン「がんばって!もうじきシシ神さまのお池だから」
サン「ああっ!」
サン「なにかくる!乙事主さまようすがおかしいの...」
乙事主「...」
サン「もうちょっとだからがんばって!」
山犬「とてもいやなものがくる」
サン「なんだろう?血のにおいで鼻がきかない」
サン「猩猩たち...」
猩たち「おまえたちのせいだ。おまえたちのせいでこの森おわりだ」
サン「なにをいう!森のために戦った者へのこれが猩猩の礼義か!」
猩たち「おまえたち破滅つれてきた!生きものでも人間でもない者つれてきた!」
サン「生きものでも人間でもないもの...?」
猩たち「きたーっ!森のおわりだ!」
サン「!」
山犬「ヴヴ~ッ」
サン「戦士たちが...」
乙事主「もどってきた!」
サン「ハッ」
乙事主「もどってきた!黄泉の国から戦士たちが帰ってきた」
サン「おまえは母さんにこのことを知らせて!人間の狙いはシシ神さまだ。母さんが生きていれば知恵をかしてくれる」
サン「おいき!山犬の血をとだえさせてはだめ!いい子...」
サン「最初の者を殺す!森じゅうにおまえたちの正体を知らせてやる!」
山犬「オオオオオーン」
サン「...アシタカが...」
乙事主「ブギイイ!」
サン「おのれ!」
乙事主「あついぞ!からだが火のようだ...」
サン「あっ!ダメーッ!乙事主さまタタリ神なんかにならないで!乙事主さま...!アッ!」
アシタカ「こたえた!わかるか?」
山犬「サンがあぶない!」
アシタカ「いこう!」
サン「ウ...!...!あつい...」
サン「アァッ!いやだ...」
サン「タタリ神になんかなりたくない!乙事主さま!」
山犬「おい!のれっ!」
アシタカ「あっ!」
石火矢衆たち「山犬だーッ!」
石火矢衆「ワァッ!」
石火矢衆「!」
アシタカ「エボシ!」
ジコ坊「おおッ」
アシタカ「くそっ!先にいけ!」
アシタカ「エボし、話を聞けーッ!」
エボシ「アシタカかァーっ!?」
アシタカ「タタラ場が侍におそわれている。シシ神殺しをやめてすぐもどれ!女たちが戦っている。男たちも山をくだった。みなそなたの帰りを待っている」
エボシ「その話信ずる証拠は?」
アシタカ「ない!できるならタタラ場にとどまり戦いたかった」
エボシ「シシ神殺しをやめて侍殺しをやれと言うのか」
アシタカ「ちがう!森とタタラ場双方生きる道はないのか!?」
石火矢衆「エボシさま、もどりましょう」
ジコ坊「あいつ...どっちの味方なのだ?」
エボシ「女たちにはできるだけの備えをさせてある。自分の身は自分で守れと...池だ!シシ神は近いぞ」
ジコ坊「いよいよ正念場だ。油断するな。
ジバシリ「あの女いなくとも...」
ジコ坊「神殺しはこわいぞ。あいつにやってもらわにゃ...」
アシタカ「...」
アシタカ「モロっ死んだのか...サン、どこだー!サーン!」
サン「アシタカ!」
アシタカ「...!」
アシタカ「乙事主...」
イノシシたち「去れ、ハッ!」
アシタカ「ここで争うとシシ神はでてこぬぞ。乙事主よ、しずまりたまえ!乙事主、山犬の姫をかえしてくれ。サンはどこだ。サン!きこえるか。わたしだ!アシタカだ!」
アシタカ「サン!くっ!」
狩人1「ワァッ」
狩人2「あいつをしずめろ!」
狩人たち「殺せ!やつを射殺せ!」
山犬たち「ガウウガウガウ」
狩人たち「うわっ~」
アシタカ「サン!」
サン「アシタカ!」
モロ「やれやれ、あの女のためにのこしておいたさいごの力なのに」
狩人たち「結界をはれ!」
山犬「おまえたち手出しをするんじゃないよ。タタリなんぞもらうもんじゃない」
タタリ神になった乙事主「ぐぇー!」
山犬「もう言葉までなくしたか...」
ジコ坊「よくやった。もういいぞ。けが人の手当をしてやれ。いやいやおそろしいながめよ。でた...」
モロ「わたしの娘をかえせ!
モロ「アシタカ!おまえにサンが救えるか!?
アシタカ「ハッ。シシ神...」
アシタカ「ああ!」
アシタカ「エボシ!うつな!」
エボシ「首をとばさねばだめか...」
ジコ坊「石火矢がきかぬ」
アシタカ「そなたの敵はほかにいるはずだ!」
アシタカ「サン!死ぬなァ!」
ジコ坊「なんとシシ神は生命を吸いとるのか。...むっ!?いかんディダラボッチになるぞ!」
エボシ「みなよく見とどけよ!神殺しがいかなるものなのか。シシ神は死をもつかさどる神だ!おびえておくれをとるな」
アシタカ「...!?やめろお!」
アシタカ「エボシ!」
エボシ「クソッ、化け物め!」
アシタカ「くっ!」
石火矢衆「やったぁ」
サン「ぐっ」
ジコ坊「首おけをいそげ!」
アシタカとサン「...」
ジコ坊「わぁ!」
石火矢衆「ぐわ~」
兵士「うっ」
エボシ「ジコ坊、首おけをもってこい!かつぎ手がやられた!」
ジコ坊「はやくはやく」
エボシ「シシ神の体にふれるな!生命を吸いとられるぞ!受けとれ!約束の首だ!」
モロ「ばくっ!」
石火矢衆「エボシさま!
エボシ「モロめ!首だけで動きよった...」
ジコ坊「やばいぞ、いそげー」
兵士「ジコ坊さま!」
ジコ坊「逃げろ!」
アシタカ「島へ逃げろ!」
石火矢衆「わしはおよげんのだ!」
アシタカ「水の底を歩ける」
サン「そいつをよこせ!やつ裂きにしてやる」
アシタカ「モロが仇をうった。もう罰はうけている。手をかせ」
ゴンザ「エボシさま」
エボシ「よけいな情けは...」
アシタカ「おトキさんたちにつれて帰ると約束した」
アシタカ「首をさがしている...ここもあぶない、サン。力をかしてくれ」
サン「いやだ!おまえも人間の味方だ!その女をつれてさっさといっちまえ!」
サン「くるな!人間なんか大キライだ!」
アシタカ「わたしは人間だ。そなたも...人間だ」
サン「だまれェ!わたしは山犬だ!」
アシタカ「サン」
サン「よるな!」
アシタカ「すまない。なんとかとめようとしたんだが...」
サン「もう終わりだ。なにもかも。森は死んだ...」
アシタカ「まだ終わらない。わたしたちが生きているのだから。力をかしておくれ」
兵士「まて~手伝え!」
ジコ坊「どいつもこいつもまったく...いかんいかん!...!首が動いとる...」
ジコ坊「こいつが呼んどるんだ!」
町の人「ありがとう。とれたよ、トキ」
トキ「やけに静かだね。夜明けをまつつもりだ」
町の人「あの若者はエボシさまに知らせてくれただろうか?」
トキ「アシタカさまはきっとやってくれるよ。もうそのへんに来てるかもしれないよ。あーあ、だらしない顔しちまって」
町の人「いまのうちさ寝かしといてやりなよ」
町の女「なんだろう気味が悪いね」
侍たち「ひけェ、馬をひけぇ。こらー乱(みだ)れるな」
町の女「持ち場をはなれるんじゃないよ」
町の女「どうしよう。こっちへ来るよ」
町の人「だめだ。逃げよう」
トキ「タタラ場を守るんだ。エボシさまと約束したんだから...」
町の人たち「あの人だ!」
町の人「アシタカさまだ!」
町の人たち「みんな逃げろー」
アシタカ「シシ神が首をとりもどそうと追ってきたんだ。あのドロドロにさわると死ぬぞ!水の中へいけ。ドロドロがおそくなる。男たちとエボシは対岸をこっちへ向かっている。わたしたちは首をとりもどしてシシ神にかえす」
サン「アシタカ!」
アシタカ「いそげ!」
トキ「さわぐんじゃない!」
町の人「トキ、逃げよう」
町の女「はい!」
町の女「みんなを湖へ!」
町の女「落ちついてケガ人や病人に手をかすんだよ」
町の女「そっちへいっちゃだめだよ」
甲六「ああ...大屋根が...」
甲六「もうだめだ!タタラ場が燃えちまったらなにもかもおしまいだ」
トキ「生きてりゃなんとかなる!もっと深い所へ」
ジコ坊「いた、あそこ!」
サン「おいき!」
アシタカ「その首、まてェ!」
ジコ坊「おぬしも生きとったかよかった」
アシタカ「首をシシ神にかえします。置いてはやく逃げなさい」
ジコ坊「いまさらとりかえしはつかん。陽が出ればすべて終わる」
ジコ坊「見ろ...生命を吸ってふくらみすぎたのろまな死神だ。陽にあたればやつは消えちまう」
兵士「ジコ坊さま、追いつかれます、早く...」
ジコ坊「天地の間にあるすべてのものを欲するは人の業というものだ...」
アシタカ「あなたを殺したくはない!」
ジコ坊「いやぁ、まいったなァ。そうこわい顔を...するな!」
兵士「くっ」
ジコ坊「走れ!」
ジコ坊「おうっ」
ジコ坊「囲まれたぁ~ああ~いかん」
ジコ坊「朝陽よ、いでよぉ」
ある兵士「わけを開けろ」
ジコ坊「わからんやつだな、もう手をくれた」
サン「アシタカ、人間に話したってむだだ!」
アシタカ「人の手でかえしたい」
ジコ坊「ええい!どうなっても知らんぞ」
ジコ坊「わっ!」
サン「...」
アシタカ「シシ神よ」
町の女たち「動かなくなったぞ...」
町の女たち「男たちだ!」
町の女たち「エボシさまー」
町の人「ええい、さわぐな傷にさわる!」
町の人たち「ああー...たおれる、たおれる」
町の人たち「つかまれ!はなすな」
甲六「すげぇ...シシ神は花さかじじいだったんだぁ...」
アシタカ「サン...サン。見てごらん」
サン「よみがえってもここはもうシシ神の森じゃない! シシ神さまは死んでしまった」
アシタカ「シシ神さまは死にはないよ。生命そのものだから...生と死とふたつとも持っているもの...わたしに生きろといってくれた」
サン「アシタカは好きだ。でも人間をゆるすことはできない」
アシタカ「それでもいい。サンは森でわたしはタタラ場でくらそう。共に生きよう。会いにくいよ。ヤックルに乗って」
エボシ「ざまぁない。わたしが山犬の背で運ばれ生きのこってしまった。礼を言おう、誰かアシタカを迎えに行っておくれ。みんなはじめからやり直しだ。ここをいい村にしよう」
ジコ坊「いやぁーまいった、まいった。バカには勝てん」