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KANGE's log

映画「ロケットマン」

2019.09.03 14:53

エルトンらしい、ふざけているようにしか見えない衣装を着たまま、カウンセリングサークルに参加して、自分の生い立ちを語りだすと、物語が始まります。

時折、このカウンセリングのシーンに戻ってくるのですが、徐々にエルトンは奇抜な衣装を脱ぎ捨てていきます。つまり、本当の自分と向き合うってことですね。 エルトン自身が制作に参加しているので、自伝的な作品とも言えます。

どうしても、「ボヘミアン・ラプソディ」と比較したくなりますが、「ボヘミアン・ラプソディ」がライブ・エイドのシーンをクライマックスに持ってきて、外に向かって爆発的に盛り上がる作品であったのに対して、本作は、ずっと内に内に向かっていく作品。まったく方向性の違う映画でした。

それでも、時折、ロケットが打ち上げられたり、水底で演奏したり、ちょっと過剰な演出があって、妙な軽さを感じます。エンドロールでも笑いを誘うネタを入れてきます。まあ、「いろいろあったけど、今となっては昇華できているので、映画を作ることができました。さあ、笑ってください」ということなのでしょう。

また、ボヘミアン・ラプソディが音楽映画であるのに対して、本作はミュージカル映画。遊園地のシーンなんかは「これぞミュージカル!」って感じでした。しかも、タロン・エガートン本人が歌っている! エルトン・ジョンの歌を演じるという、とてつもない高さのハードルを、しっかりと超えていってます。特に「I'm Still Standing」が、すごく良かったです。後から知ったのですが、アニメ「SING」でも歌っていたのですね。もはや自分の曲になってきているのではないでしょうか。ビジュアルもそうですが、無理に本人に似せようとしていないところが、いいですね。

当然、エルトン・ジョンの楽曲が使われているわけですが、幼い頃から振り返っていますので、曲と時代はマッチしていません。その時代には存在していない曲を歌ったりします。 それでも、彼の人生に歌がハマっていくということは、彼の楽曲がまさに彼自身を表現していたから、ということなのでしょう。しかも、彼の楽曲は、彼自身が作詞したものではありません。本作にも登場しますが、相棒のバーニーが作詞して、エルトンが作曲するというコンビで作られた曲。彼らの関係性がいかに強く深いものであったかが、本作でも描かれています。

特に、彼の代表作の一つ「Your Song」が作られていく過程は、本作で最も印象的なシーンでした。これを見ると邦題の「僕の歌は君の歌」は、愛情と信頼に溢れていて、しかもとてつもなく切ない、秀逸な邦題であると改めて思いました。 

人気が出て、莫大なお金が懐に入るようになった一方で、両親からも恋人からも本当に愛されているという実感のない彼は、酒、ドラッグ、その他もろもろに溺れていく。これはちょっと「お決まりの物語」が過ぎるのでは、と感じました。そんな単純な図式でいいのかな? エルトン本人が制作に参加している以上、「僕のクリエイティビティの源は、愛されることへの欲求です」と述べているようなものなので、それを否定しても仕方がないのですが。

後に父親に会いに行った際に、新しい妻との間の子どもをさっと抱き上げる父の姿を、エルトンが車中から眺めてしまうところは、さりげないけど絶望を感じさせるには十分です。こういうシーンが挟まると、「いい映画だな」と思わされます。 

ところで、タロン・エガートンは「キングスマン/ゴールデンサークル」で、エルトン・ジョン本人と共演しているわけですが、この時には、エルトン役をやることは決まっていたのですかね? どんな話をしたのか、とても気になります。