玉蘭の咲くころ~rotten version(注:rotten→腐った、腐敗した)
2016.04.04 02:34
小鉄に上着を掛けられた狭霧は、何も言わずに、上着の前を合わせるかのように引っ張った。
怒ったようなその表情を見て小鉄は少し心配になって聞いた。
「何か怒っているのか?」
「・・・別に。怒ってなんかいない」
小鉄と眼を合わさずに、少しふてくされたかのように狭霧は言った。ほんのりと赤くなったその表情に、小鉄は自然と引き付けられた。
「・・・狭霧」
名前を呼ばれて、狭霧は少し顔を上げた。小鉄は軽く身体をかがめた。
小鉄が離れたとき、狭霧は何が起こったのか解らない顔をして固まっていた。やがて、事態を把握すると、自分の口に握った右手の甲を当てて後ろに飛び退った。
「こてっ、こてっ、こてっ、おまっ、おまっ、おまっ、お前、今、何をっ」
狭霧の反応に小鉄は戸惑って
「何って・・・キスを」
「だから、何でっ」
「何でって、そういう雰囲気かと思って・・・」
「そーゆー雰囲気だからってキスするか?ありえないだろー、フツー」
「いや、だから、その・・・」
家の中にいた長柄が表の騒ぎに気が付いた。窓から庭にいる二人を見てつぶやいた。
「小鉄さまがいらしてたのか・・・しかし、あんなところで、何を言い争われているんだろう・・・」
・・・春はまだ、遠かった。