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城田実さんコラム 第42回 5年後の世代交代にスコープ (Vol.99 2019年4月22日号メルマガより転載 )

2019.04.22 01:51


 大統領選挙は大方の予想通りジョコウィ候補が再選を果たすことが確実になったようだ。現職の続投となったので安心感はある。インフラ整備と規制緩和の推進でインドネシア経済を強化してきた政府の基本政策が第2段階に入り、選挙戦でも指摘された政策の是正や新たな国際環境への対応などの課題に取り組みながらジョコウィ政権10年のミッション完遂に向かうことになる。

 今年の大統領選挙は、同じ候補の争いだった前回と比べても非常に激しい戦いだったと多くの関係者が述べている。議会議員選挙との同日選挙だったことや、選挙期間が約7カ月という長期戦だったという事情もあったかもしれない。にせ情報や非難中傷が異常に氾濫したことも激しさを印象付けた。そのあおりを食ったかのように、主要メディアでは国会議員選挙への注目が拍子抜けするほど小さかった。前回選挙では、ジョコウィ新政権が少数与党として発足したために政府と議会の関係が政権発足時の最大関心事だったことを考えると、やや意外でもあった。

 国会議員選挙では大統領候補との密接な関係を有権者に印象付けた政党による得票の増加が注目され、主要4政党では闘争民主党とグリンドラ党が得票を伸ばした。国会議員選挙が先に行われ、その結果が判明した後に大統領選挙が行われていた前回選挙と比べて、同日選挙の影響で大統領候補との関係が政党の得票率に影響したと言われている。

 このため大統領候補の擁立に当たって主導権を握れなかった中小政党には不満が残った可能性がある。国会議員の20%以上を有する支持政党(または政党連合)の公認を受けるなどの候補条件を緩和すれば、中小政党でも候補擁立が容易になる。大統領候補あるいは副大統領候補を擁立できるか否かで政党の得票率に実質的な影響があるとすると、中小政党の主張にも理があるようにもみえる。

 大統領候補が2回続けて全く同じ組み合わせになり、第3の候補も出ないということに違和感を感じた有権者も少なくなかった。「国会議員20%の縛り」がなければ、有権者にとってももっと広い選択肢が用意されたはずだという意見もある。この縛りは候補者の多様性や大統領候補と副大統領候補の組み合わせの可能性をいちじるしく狭めているという議論もある。今後、法改正の議論が出てくる可能性があり、その結果次第では5年後を見据えた政局全体へ影響が広がることも考えられる。

 5年後までスコープを広げると政党の世代交代という大きな変動も視野に入る。現在国会に議席を持っている10政党のうち、イスラム系政党に区分される4政党を除いた、いわゆる世俗政党6政党の中で、ゴルカル党以外は結党時の党首がそのまま「オーナー党首」のような存在になっている(民主党は厳密には異なるが、事実上同じカテゴリー)。

 改めて党首名と年齢を列挙すれば、闘争民主党メガワティ氏(5年後の総選挙時点で77歳)、グリンドラ党プラボウォ氏(同73歳)、民主党ユドヨノ氏(74歳)、ナスデム党パロ氏(73歳)、ハヌラ党ウィラント氏(77歳)となる。インドネシアの平均寿命71歳を勘案すると、各党とも今後の5年間は政党の存続をも含めた非常に重要な時期に入る。独裁的なオーナー社長が退任するようなものかもしれない。ジョコウィ大統領の再続投は法規上あり得ないので、政党内での世代交代が政局全体に与える影響も大きいであろう。

 今回の選挙では大統領候補の存在の大きさが各政党に認識されたが、直接選挙で選ばれた過去2人の大統領、ユドヨノ氏とジョコウィ氏の例から、大統領候補者としては個人的な魅力が不可欠という認識も広く共有されている。政党党首は将来の大統領候補という期待が(上記の法改正が実現して)広がれば、政党内の世代交代プロセスに「国民の直接の評価に耐えうる人物」という要素が強く認識されるようになるであろう。

 強引な政治力(と資金力)でゴルカル党首に就任したノファント氏が汚職で失脚した結果、大統領選で常に中心的な役割を果たしてきたゴルカル党が早々に正副大統領候補の擁立を断念した今回の例もある。世代交代ということで国民が期待するのは、汚職や癒着といった古い政治スタイルから脱却し、国民の新しいニーズに迅速に対応できる能力である、といくつかの調査機関の専門家は指摘している。国民の期待が新しい世代交代を後押しすることになるだろうか。

 政党指導者の世代交代という観点では、残念な事件が選挙戦終盤に起きた。開発統一党のロミ党首が汚職容疑で逮捕された。ロミ党首は45歳で、現職の政党党首の中の最年少であった。政治討論会などでも明晰な論理展開で存在感を示すなど、期待される若手政治家の一人だったと言われる。本格的な世代交代に入ろうとする政党にとって、ロミ党首逮捕劇が時期的にも格好な他山の石となれば、ジョコウィ政権の第2期はスハルト政権崩壊後の「改革の時代」が新しい地平を開く時代になるような気もする。

 あるいは世代交代後もやはり「懲りない面々」が登場して旧態依然の状態が続くのだろうか。2013年からだけでも汚職で逮捕された政党党首がなんと4人、今回で5人目だと言われると、その懸念が現実化しそうな心配もある。インドネシアの近隣地域でも大きく発展する国が増える中で、インドネシアはもう同じ間違いを繰り返している暇はないと多くのインドネシア人が語っている。日本から偉そうに発言できる立場には全くないが、インドネシアにはもっとダイナミックに発展する国になることを期待したい。(了)