中国とどう向き合うべきか①
はじめに 世界に及ぼす災禍
・中国が抱えている問題は、その領土拡張主義や南シナ海の軍事拠点化、ミサイル開発やサイバー攻撃などの軍事的脅威、PM2.5など国境を越える環境汚染、資源エネルギーの無駄遣い、人民元の国際化など経済覇権の追求、資源確保のためのアフリカ・南米での植民地化政策、人権活動家の抑圧、コピー商品など、数え上げればきりがない。しかしいずれも世界に累を及ぼすリスクとして中国の存在は浮かび上がっている。
・天安門事件以降、言われ続けた中国崩壊論は、いっこうに現実化することはなかった。しかし、高度成長路線が維持できなくなり、経済の先行き不透明感が強まっているなかで、またぞろ中国崩壊論が持ち上がり、今回については、「本当にヤバイのではないか」という現実味を帯びてきている。
中国が抱える課題、中国が目指す戦略目標などを明らかにし、そうした中国とわれわれはどう向き合っていったらいいのかを考える。
1) どうなる?中国というリスク
・中国経済が今後どうなるのか、という先行き不透明感は、世界経済にも大きな打撃を与えている。中国経済の状況は、いまや世界的な「株安」の震源地となっているし、中国発の金融・通貨不安も世界に広がっている。
・ヘッジファンドを仕切る投資家ジョージ・ソロスは、ことし1月、スイス・ダボス会議の席上、「中国経済のハードランディングは不可避だ。これは予測ではなく、すでに目の当たりにしている事態だ」と述べた。香港最大の財閥で不動産王の李嘉誠は、中国で不動産開発し所有していた大規模ビルなど、すべての不動産を売却し、中国からすべての投資資金を引上げた。このほかにも外国資本の多くが同じように中国逃避を進めている。
・かつて「世界の工場」と呼ばれ、多くの海外企業が中国に進出したのは、「安い賃金、豊富な労働力、安い人民元」という条件が揃っていたためだ。しかし今、そのすべてが失われ、中国に工場を作って生産するメリットは何もなくなった。
・一方、鉄鋼やセメント生産など、中国の企業が無計画な設備投資を進めた結果、多くの過剰設備を抱え、大量の在庫が有り余っている。こうした余剰在庫を採算度外視の安値で輸出するものだから、世界中の鉄の値段が下がり、中国は世界にデフレを輸出する元凶となっている。
・中国のGDP成長率は当初目標の7%に対して、ことしは6.9%だったという。中国の経済統計は信用できないと言われて久しい。確かに輸出入量、電力消費量、鉄道貨物輸送量が軒並み減少に転じているのに、GDP成長率がプラス6.9%もあるというのは信じられない。エコノミストの中には、本当はマイナス成長ではないか?と疑う声もある。
・中国人観光客の海外での「爆買い」が話題になっている。爆買いの対象は、家電や化粧品だけではない。マンション、不動産や骨董品・絵画にまで広がっている。確かに一部の富裕層は、どうすればこんなに稼げるのかと思うような大金を手にし、われわれ日本人には考えられないような金の使い方をしているが、実は彼らの「爆買い」は、人民元が高いうちに手持ちの資金を資産価値の高い不動産や骨董品・貴金属に移し変えること、つまり資産の移転あるいはマネーロンダリング(資金洗浄)が目的だという見方もある。
・こうした経済の停滞、破綻はなぜ起きたのか。天安門事件後、人々の関心が、民主化や体制批判に向かうのを避けるため、政治・イデオロギー的な引き締めを厳しく行う一方で、人々の目を金儲けに向かわせ、金儲けのためなら何をやってもいいとお墨付きを与えた。そうした経済拡大路線、経済成長優先政策のゆがみ・ひずみが、ここにきて噴出してきたためだといえる。
・鄧小平は「先に豊かになれるものから豊かになる」という「先富論」を唱えたが、この「先富論」は、先に豊かになった人が、後から遅れてやってくる人にも利益を回し貧しさから引き上げてやる、という趣旨でもあった。しかし実際は、先に豊かになった人はどんどん豊かになり先を行く一方で、発展の恩恵を受けられずに取り残された人々はずっと貧しいままで、格差は拡大し続けている。
・共産党組織のなかで権力を手にした幹部やその一族こそ、先に豊かになった人々の代表で、彼らは特権化・貴族化したエリート層として「権貴階級」と呼ばれる。たとえば国営企業が民営化、株式会社化された際に、共産党幹部の間で、工場の資産や利権、株式などを山分けして、いわば私物化することが平然と行われた。特権を利用することで、利益誘導や利益の分配はやりたい放題、彼らの周りにはそのおこぼれを求める連中が集まり、不正や腐敗が蔓延した。
・権力エリート層には自ずと利権と利益が集まる構造があり、富の偏在が進んだ。富の偏在は地域的にも進み、先に豊かになった沿岸部に富は集中し、発展に乗り遅れた内陸部は貧困に取り残されたままで、地域格差が進んでいる。
・2012年の古い統計では、「上位1%の富裕層が国内のすべての資産の3割を独占し、下位25%の人々が手にしているのは資産の1%のみ」という数字もある。権力エリート層と社会の底辺に暮らす人々の間には、一生かかっても乗りこえられないギャップが横たわる。社会主義とは名ばかりで、毛沢東時代のように皆がともに貧しく平等だった時代を懐かしむ人も多く、現在の共産党政権の腐敗・汚職に怨嗟の声が上がっている。
・共産党政権の腐敗・汚職は、中国国内に限った問題ではなく、腐敗が海外にも輸出されている。汚職幹部が不正に得た資産とともに海外へ逃亡し、あるいは妻子だけを海外に移民させて不動産投資で資産を移転するケースもある。(去年、汚職で逮捕された令計画・元中央弁工庁主任の妻は京都に豪邸2軒を保有)。こうした腐敗の輸出で、中国が保有する外貨は大量に流出している。為替市場で人民元を売っているのは、実は、海外の投機家ではなく、汚職で金を稼いだ中国の富裕層だともいわれる。
・中国が抱える経済的な課題として、今年の全人代で論議されたのは、ゾンビ企業と呼ばれる赤字の国営企業の問題。あるいはキョンシー企業とも呼ばれるゾンビ企業、とは、すでに経営破たんしているのに無理やり存続・延命させられている国営企業のこと。赤字の垂れ流しで、本来なら倒産させて淘汰すべきなのに、600万人とも言われる大量の失業者が出ることを怖れて着手できなかった。先の全人代で李克強首相は、ゾンビ企業を整理すると約束したが、「総論賛成・各論反対」で、地方政府の抵抗が予想され、実行は困難が伴う。
・地方政府といえば、中央政府の方針に逆らう抵抗勢力でもある。彼らには、GDP国内総生産の数字をごまかし、大きな成果を中央政府に報告して自分たちの成績をアピールするための、いわば無から有を生み出す「錬金術」がある。農民から土地を無理やり収奪し、そこに工業団地や住宅団地を造成して民間に売り出す、そうすることによって開発資金と不動産利益をGDPに計上する。
・中国では、公有制の土地は、みんなのものであると同時に誰のものでもないから、権力を握った者によって恣意的に左右できる。しかし、農民から土地を奪うことは彼らの生活手段を奪うことでもある。土地の強制的な収用をめぐっては各地で住民の反対運動が起き、当局側と対立する騒動が頻発している。それよりも問題なのは、地方政府による勝手な土地の乱開発は、不動産バブルを起こし、無計画な不動産開発は、誰も住まない大規模住宅団地、まさに「鬼城」=ゴーストタウンと化した街を誕生させていることだ。資源の無駄遣いと不良債権化という結果しか生まれていない。
・中国が抱えるもうひとつの経済的な課題は、日本より早いテンポで超高齢化・少子化が進み、生産年齢人口と呼ばれる15歳から59歳までの層が、すでに2012年には減少に転じたことだ。労働人口が増えない限り、生産も市場も規模の拡大は望めず、経済は縮小する。そのため習近平政権は、これまでの高度経済成長路線から「安定成長」政策に路線を変更し、この政策を「新常態」(ニューノーマル)と名づけている。経済の拡大・成長が頭打ちとなり、縮小に向かう中で、中国経済をいかにソフトランディングさせるか、投資や輸出中心の経済から、国内消費を喚起しサービス業を発展させるなどの構造改革が迫られている。