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ナッジ・ユニット連絡会議に聴講参加しました。

2019.09.14 03:00

2019年9月10日火曜に永田町で開催された環境省主催第11回日本版ナッジ・ユニット連絡会議にUX Yokohama代表森山が聴講参加しました。同会合は基本的に公務員と研究者の会合ですが、一般市民も抽選に申し込めば聴講参加できます

ナッジとは人の無意識に働きかけて行動変容を促すテクニックのことです。日本版ナッジ・ユニットとは、環境省の政策勉強会で、地球温暖化活動の促進のためにナッジを応用することを目的に2017年に結成されました。なお同会合はイギリス政府のナッジ・ユニットを真似ているため日本版ナッジ・ユニットと呼ばれています。

第11回会議では報告2件と資料配布1件がありました。

イエローチョーク作戦

まず宇治市役所より「イエローチョーク作戦」の活動報告がありました。イエローチョーク作戦とは、犬の糞害を抑止するため、市民ボランティアが街を周り、路上に放置された糞に黄色いチョークで印をつけて飼い主に警告するという活動です。

イエローチョーク作戦は「犬は同じ場所で糞をする」「飼い主は必ず犬と一緒に毎日散歩する」「人間は自分が監視されていると感じると過剰に道徳的に振る舞う」「ボランティアの意欲は作業負担が大きすぎると減る」といった人間(及び犬)の習性を利用した作戦であり、ナッジの定義を満たしています。報告では同作戦は非常に高い効果があったと結論され、防犯活動にも応用できるのではないかと考察されていました。

筋肉体操の前向きワード

2件目の報告として、近畿大学谷本准教授より「筋肉体操の前向きワード」についての解説がありました。谷本准教授はNHK教育番組「みんなで筋肉体操」の筋トレ指導担当で、同番組の名物である前向きすぎる声かけ「筋肉は裏切らない」「あと5秒しかできません」等を考案している方でもあります。

谷本教授はまず「声かけの大前提は、科学的な裏付けのある筋トレであること」と発言しました。科学的な裏付けがあるからこそ、苦痛に耐えた分だけ成果が得られると確信することができます。声かけはあくまでも確信を思い出させているだけに過ぎないのです。

同番組の視聴者は筋トレに興味のある初心者なので、視聴者に筋トレを楽しいと感じさせるための工夫として前向きすぎる声かけが生まれました。上級者は筋トレによってランナーズハイと同じ状態に陥り筋トレ自体を楽しいと脳が錯覚するので声かけ不要だそうです。同番組では声かけ以外にも「科学的な裏付けの説明」「出演者たちの楽しそうな雰囲気」など細かな配慮がされているとのことです。谷本准教授は、高齢者の生活の質向上を目的とした筋トレ番組もやってみたいと語っていました。

考慮すべき論点とB-A-S-I-C

資料配布だけの報告として「ナッジ等の行動インサイトの活用に当たり考慮すべき論点について(第1回〜第10回)」と題する45ページの資料(89枚のプレゼンスライド資料の集約印刷)が配布されました。資料はいずれ環境省より公開される予定ですのでここでは詳細説明は割愛しますが、資料の内容は概ね

ので構成されています。

BASICとは Behaviour(行動)-Analysis(分析)-Strategy(戦略)-Intervention(介入)-Change(変化) の略で、人間の行動インサイトを考慮した政策を立案する際のデザインプロセスを意味しています。

勘の良い人はすでにお気づきでしょうが、BASICは「人間中心設計プロセス」(UXデザインが採用しているプロセス)そのものです。人間中心設計プロセスでは製品設計の際に考慮すべきユーザーの置かれた状況やユーザーの身体的/心理的特性を「利用文脈」と呼んでいますが、BASICでは人間に普遍的な心理的特性である「バイアス」を考慮して政策立案をするよう提唱しています。


ナッジは広告業界の経験則として伝えられてきたテクニックを科学的に検証し普遍的なテクニックとしたもので、広告がそうであるのと同様、悪用が可能です。悪意をもって行われるナッジのことは「スラッジ」と呼ぶそうです。ナッジを悪用する悪者に騙されないよう、国民一人ひとりがナッジの理論を知っておくべきだと考えます。(森山)