「Louis parmi les spectres」Fanny Britt Isabelle Arsenault
10代の頃の思春期がどれだけ大切かなんてことも、もうだんだん思い出さなくなって来てしまっている気がします。
イザベル・アルスノー。
カナダで活動するのこのイラストレーターは、子どもでもない、大人でもない、そんな揺れ動く年齢の心を、いつも美しく繊細に表現して、自分にもこうした心を持っていた時期があって、そしてそれを胸の奥に持っておくことがとても大切なことなのだということを、思い出させてくれます。
「Louis parmi les spectres」
これは絵本ではなくて、カテゴリーで言えばコミック作品なのでしょうか。
お話はFanny Britt、イラストをイザベル・アルスノーが手掛けています。
11歳の男の子、ルイのお話。
別居しているアルコール中毒の父親、幼い弟、友人のボリス、そして淡い恋心を抱いている可愛らしい眼鏡の女の子、ビリーのこと。
ルイの周りで起きる日常の、ちょっとした不幸な出来事、そして幸せな出来事に彼の心の陰影は深くなったり、反対に照らされたり。
アルスノーの描く絵はグレーが基調で、色はかなり抑えた使い方がされています。
ルイの心に映る、どうにも晴らすことの出来ない、薄い膜がかかったそのままの風景のようです。
10代の頃は多くの人が、そうしたものを抱えていたのではないでしょうか。けれどいつの間にか、それは晴れているのですけれど。
ルイの心も、様々な出来事がありつつも、この本の最後には、明るく輝く黄色で埋め尽くされたページで終わっていきます。
それは恋心を抱くビリーに向けた、優しい優しい気持ちの中から溢れたものなのでした。
ページをめくるだけで涙が零れそうになるのは、そうしたものが、自分にはもう取り戻せないものだと感じているからなのか、それとも、そうした事があったことを思い出させてもらった喜びからなのか、わかりませんけれど、この本を読んでいるときには自分は、何かとても美しいものに触れている感覚があるのです。
イザベル・アルスノーが描く、この儚く脆い少年の心に、ぜひ触れてみてください。
本書は未翻訳のもので、こちらはフランス語原書版ですが、比較的優しい表現が多いのでフランス語初級から中級程度でも読めるかと思います。フランス語の勉強にもちょうど良いですよ。
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