声を出して 21
おばさんが探してくれたお店はどれも高級な物が多くて、とてもしがない料理人の娘には着られる物ではなかった。
気に入った物はどれも高くて、スンジョ君に聞いても無駄だとは思っている。
「これはいかがですか?」
「素敵過ぎて、私にはとても似合わないかも・・・・・・」
値段を聞かなくても判っていた。 普通の洋服と金額は比べられる物でもないから。
「お相手の方に試着してから見てもらいませんか?」
「そ・・・・そうですね・・・・」
幾つも選んだ中で試着するドレスは一番気に入っているデザインだった。
シンプルなのに品があって、少し大人っぽくていつもの私とは違った感じがした。
「お式の時は髪をアップにしますから、とても大人っぽくなりますが、お年が若くていらっしゃるのでかえって華やぎますよ。」
スンジョ君は、きっとレースをふんだんに使ったものよりも、こっちの方が好きかもしれない。
お店のスタッフは、ドレスに合せて大粒のパールのイヤリングとネックレスを付けてくれた。
「手袋もお客様はお肌の色が白くて象牙のようなので、ドレスに合せてシルクサテンのロングの方がいいと思いますよ。」
真っ白ではなく、少し黄色掛ったパールホワイトのドレスに合せて手袋もはめると、涙がジンワリと滲んで来た。
「お気に召さなかったですか?」
「いえ・・ここに来るまで実感が湧かなかったのですけど、試着したら・・・・・・・」
お店のスタッフはハニの目に滲んでいる涙をそっと拭いて、そういうものですよと優しく声を掛けた。
「婚約者の方に見ていただきましょうか?」
婚約者と言われてハニはハッとした。
結婚宣言を親たちの前でしたけど、ちゃんとした婚約指輪を貰うどころか婚約式もしていない。
スンジョ君だって私だって、まさか結婚宣言をして2週間で結婚するとは思っていなかったから、口約束だけの婚約者だ。
スタッフにエスコートされて、スンジョの待っている部屋のドアを開けると、また涙が流れそうになって来た。
「いかがですか?とても綺麗でしょ?当日は花嫁さんのお化粧をするのでもっと素敵になりますよ。」
スタッフが大袈裟なほどにハニがドレスを着て綺麗になったのかと話しても、スンジョはニコリともしなかった。
「似合わないかな・・・・・」
「いいんじゃない?オレにはどんなドレスがいいのか判らない。」
スタッフの顔から笑顔が消えたのは、さすがに鈍感なハニでも判った。
スンジョの性格をよく知っているから、それはスンジョにとって自分には必要ではないからと言う意味だと言う事。
「すみません・・・・・ドレス選びに時間が掛ったので、彼が疲れたみたいで・・・・・・」
「そうですね。よくある事ですから、大丈夫ですよ。」
顔が引きつっている事はなかったが、ハニの気持ちは少し面白くなかった。
一応予約をしたが、2~3日で納金をしないとキャンセルになってしまうが、とても今のスンジョと一緒に再度来店する事が難しいような気がした。