声を出して 23
苦手だ・・・・
買い物に時間をかける女性の商品選別作業は、出来れば今回だけにしてもらいたい。
ドレスなんて、どれを着たって代わり映えするわけでもないし、結婚指輪なんて刻印さえ施せば露店で売っている指輪だってかまわないだろう。
たった一日だけの結婚式に、こんな面倒な事を二度としたくない。
「ねぇ、この指輪がいいね。」
「高い!まだ学生の身分でこんな高い物は不相応だ。」
「お二人ともお若いですし・・・・・こちらの指輪は、最近人気のデザイナーが出した新作で・・・・」
「わぁ~この人の作品は雑誌でしか見た事がないけど、実際に間近で見ると違うね。」
「さぁ~」
気の無い返事と態度に、さすがのハニも顔色が変わって来た。
「んもぅ~ドレスも決まらないし、指輪も文句ばかり言って・・・・」
「オレには判らないから、ハニがいいと思った物に決めればいいだろう。」
さすがにこの言い方は、スタッフのいる前では拙いと思った。
思ったがもう取り戻す事が出来ないから、ハニの立場がないだろう。
「ハニがいいと思ったのでいいと言うのは、オレはこういったものはよく判らないし、女のお前が雑誌とかを見て知っているからだ。」
それなら・・と言ってハニが選んだのは、小さなダイヤが埋め込まれた物だった。
女のハニがはめるのなら問題ないが、さすがに男のオレがはめるには抵抗があった。
「それは光り過ぎだ。」
「私がいいと言ったのでいいと言ったじゃない!」
「結婚指輪なんてなくたって、入籍をしたらそれでいいだろう。」
「ダメよ。結婚指輪は、結婚したと言う証だから。特にあなたは・・・・はめた方が・・・・」
「結婚指輪なんて、ただの足枷だろう。」
ちょっと声が大きかった。 いや、ちょっとどころではない。
静かな店内で、普通の声で会話をしている人はいても、少し二人が苛立った感じで話しているカップルはスンジョとハニしかいなかった。
その店にいるカップルは、みんな顔を近づけてアイコンタクトだけで話しているような感じだった。
「ちょっと、どこに行くの・・・あ・・・すみません。また来ます・・・スンジョ君ったら。」
ハニが何度もオレの名前を呼んで追いかけて来ても、誰が見ても喧嘩をしたカップルにしか見えないだろう。
いくらオレが顔に表情が出なくても歩きかたを見れば冷静には見えないだろうし、目に涙を浮かべて追いかけてくるハニを見れば一目瞭然。
「それじゃぁ・・スンジョ君が着るスーツを・・先に決めない?」
「あるので間に合わせる。」
「あれは、礼服じゃないし・・・」
もうだめだ。
言い出したら止まらないふたりだから、今日の買い物は決裂だ。
「それなら・・・それなら写真だけでも・・・・・」
「写真が嫌いなことくらい知っているだろう。こんな往来の激しい所で言い争う気はない。帰るぞ。」
足早に駐車場に歩いて行くスンジョの後をハニはトボトボと付いて行くだけだった。