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玲子のカルペディエム

秘密の大将

2017.03.04 00:05


これが大将です




優しい方で、大根をたくさんもらったこともあります




今日もおばあちゃんからご飯をもらった大将




御殿場に引っ越してから、みんみんの散歩には時間の許す限り、わざわざ車で市内某所に出かけることにしています。住まいの近くは車の往来が激しくなり、都会と違って歩道が完備されていないので、落ち着いて散歩すら楽しめなくなってしまっているからです。

その場所の一角に川が流れています。お世辞にもきれいな川ではなく、プラスチックのゴミ類が葦に引っかかっていて見苦しく、とても残念です。ところが、散歩をし始めてすぐ、その川に写真のような立派な鯉が生息していることを知りました。わたしはひそかに「大将」と呼んでいます。

大将のことは、この集落の顔見知りの人々以外には話さないことにしています。このままずっと、静かに穏やかに生きつづけて欲しいからです。堰の上で釣りをしている親子の姿にドキリとしたこともあります。残念ながら、今のような荒んだご時世では、変な興味を抱く人たちがいないとも限りません。だから「秘密の大将」なんです。

大将は鮮やかなオレンジ色の立派な姿をした鯉です。近所の人のあいだでは有名で、聞いたところによると、最初は10センチにも満たない小さな金魚のようなものだったそうです。上流にある幼稚園が放したのではないかと語る人もいました。2枚目の写真の背景に写っている堰の上流に5、6匹ほどで群れていたそうですが、おそらく仲間はサギに捕まってしまったり、流されたりしたのでしょう。大将は何年間もずっとひとりぼっちのまま大きくなったそうです。

大雨の翌日や台風が去ったあとなど、大将のことが心配で、姿を確認せずにはいられません。そう感じているのはわたしだけではなく、この集落で大将を知る人たちはみんな、それとなく姿を見にここへ立ち寄るようです。散歩のときに出会うと、「今日も元気だったよ」が挨拶代わりです。大雨で増水したときなどは、どうやら葦の茂みの根元あたりに身を潜めてやり過ごしているらしく、葦の陰の暗いあたりにキラリとオレンジ色の尾だけが光って見えることがあります。それを見ると、本当にほっとします。

大将が棲む場所のすぐ前に農家があり、そこのおばあちゃんがたいそう優しい方で、大将が小さい頃から毎日のようにエサを投げてきたそうです。この日もおばあちゃんと一緒になりました。腰が曲がっちゃって歩行器を押しながら川っぺりへ来たおばあちゃんは、ビニール袋からご飯を取り出し、「ほうれ」と声をかけながら大将に向かって落としました。一膳分はゆうにありました。

「パンのほうが好きみたいなんだけど、パンは流れてっちゃうんだよ」

なるほど。池とは違うものね。大将がおばあちゃんにもらったご飯にすぐに食いつきました。
心なしか、尻尾を振っているように見えました。

大将には、これからもずっと元気でいて欲しいです。この先、川の浚渫工事のような無理な開発が進んだりしませんように。神様、どうか大将をお守りください。どうか、優しいおばあちゃんと大将がいつまでもこのまま仲良しで暮らしつづけられますように。どうか、ずっとこのままでありますように。どうかどうか、そっとしておいてください。