Ristolante Via Sakra
だいぶ前になりますが、7月に再び沼津港近くのRistolante Via Sakraに行ってきました。実家がある富士山の麓では7月下旬がお盆なので、この時期に帰省して両親をこのお店に連れて行くのを年一回のイベントにしたいと考えていました。風情のある佇まいの素敵な場所で、両親とゆっくりと洗練されたイタリア料理を味わう。ささやかですが、私にとってはこの上ない贅沢でした。幸せな時間でした。
昨年ここを訪れたときにも、この門の写真を撮りました。この門をくぐるとき、異空間に足を踏み入れるような特別な感慨があります。某石けん会社の社長のお住まいだったという瀟洒な純和風住宅をイタリア料理店にしたというのは、実に画期的なアイデアだと思います。靴を脱ぐと、昔の日本の家のにおいがします。古い、磨いた木のにおい。懐かしいにおいです。玄関がちょっと薄暗いところも、昔の日本の家っぽいです。
今回は3人だけだったので、このテーブルで食事しました。
障子の代わりにはめられたスクリーンは紙を切り抜いたもので、モダンな空間を演出しています。それから、窓。前に来たときも心惹かれた、昔のままのソーダ硝子の窓です。かつて祖父母が住んでいた茅葺き屋根の家にもこういう窓がありました。たぶん2、3歳の頃だったと思いますが、その窓にしがみつくようにして立ち、そそくさと出かけて行く両親のうしろ姿を眺めていたことが妙に記憶に残っています。まだ若かった両親が私を祖父母に預けて映画に見に行ったときのことらしいのですが、親が去っていく姿を幼かった自分がどれだけ心細い思いで見つめていたか、不思議とよく覚えています。ソーダ硝子の少し歪みの出る表面には温かみがあり、それを通して眺める景色は、子どもの頃に見た親のうしろ姿の悲しい記憶の角を少し丸くしてくれるような気がします。
前回同様、両親の年齢を考えて、コースは魚料理2品の少し軽めのものにしてもらいました。
今回は特にこの金目鯛が最高でした。母の好物なので、これが出て来たときは嬉しくなりました。
デザートはスモモのスライスとバニラのアイスクリームを添えた、スモモのタルト。甘酸っぱさとバニラのアイスクリームがぴったりで、夏の季節感いっぱいでした。
両親が健在で、一緒にこうした時間を持てることを心から幸運だと思っています。
その幸運を神様に感謝しています。
でも、この幸せには限りがある。それを痛感したのは、母がコースの料理を食べ切ることができず、途中で中座してお手洗いで吐いてしまったときでした。足が悪く、心臓も丈夫ではない母には、真夏の猛暑の中、外出させることはもう負担が大き過ぎるのかもしれません。食べ慣れないイタリア料理は、いくら美味しいと言葉に出したとしても、老いた胃にはいささか重かったのかもしれません。昨年は大丈夫だった。だから今年も大丈夫……とは断言できないところまで来ている。今年はそれを悲しく学んだ夏になってしまいました。「年一回のイベントにしたかった」と過去形なのは、来年の夏も両親を連れて来ることができるかどうか、わからないからです。夏でなければ良いのかな。たとえば、富士山の麓が冷え込む冬に、温暖な沼津へ連れ出すのなら、もっと喜んでもらえるかな。そういう季節に休みをとればいいのかな……イタリア料理を食べに行くだけなのに、大げさに悩んでしまいます。
とはいえ、まだまだ両親ともに元気です。障害を抱えることになってしまった母も「自分でできることはやる」と決めて、杖をつきながら炊事や洗濯を続けてくれています。
幼い頃に見た両親のうしろ姿とは違う歩き方ですが、今でもふたりは仲良く一緒に歩いています。