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【🌸ブログで読む『ただいま大須商店街』②-前編-】父と娘とお饅頭

2020.12.25 13:10




🍃🌸前回のブログで読む『ただいま大須商店街①』🍃🌸


今回お届けする【ブログで読む『ただいま大須商店街』②】は…

この、①に続く物語。。





27年ぶりに…
老舗和菓子「まつだや」の一人娘・松田久美子が、大須商店街に帰って来た。


ところが…

覚悟を決めて帰ってきたのに、父・正の姿を間近に見た久美子は逃げ出してしまう。


その久美子が、9歳になる一人息子・優太の手を握りしめ、

再び「まつだや」の前に立ったところから、お話しを始めましょう。。





暖簾の前で、やっぱり立ち尽くす久美子。
不安そうに、久美子を見上げる優太。

(すぅ~…)

久美子は、思い切り息を吸い込んだ。


(はぁ~…  )

深呼吸し、久美子は勢いをつけて踏み出した。


暖簾を開け…

(うん…)と優太に頷く久美子。


目の前には見慣れたショーケースが広がっている。




「!?」










奥から漆塗りの箱に並べられた「どら焼き」…「田舎饅頭」…。










続いて手前には、木箱に並べられた「上用饅頭」に「忍者まんじゅう」。









上段だけに並べられた菓子たち。


驚く、久美子。

その視線は見慣れない、一番手前の「忍者まんじゅう」というプレートの文字と

お饅頭の真ん中に押された『手裏剣』の焼き印で止まった。








そしてまた…

すべての和菓子を見つめる久美子。

と、その時だったー



「ハロ~!ニンハオ~!」



聞き覚えのある、少し嗄れた大きな声…

2人の前に全身赤ずくめの頭巾を被った大きな男が現れた。









「忍者だぞ~!」


真っ先に優太に向かって声を掛ける。
頭巾のせいで顔が良く見えないけれど、その瞳は優しく笑っていた。


動揺した優太は、キュッと唇に力が入った。










そうしてようやく、

店主は優太を連れている女性に視線を合わせ、見る見るその目は険しくなった。
頭巾の奥のその瞳で、父・正だとはっきり分かった久美子。


驚き、見つめ合う二人。


正は慌てて、頭巾をとる

(はぁ…)

大きく息を吐いた久美子を、優太が見上げる。





そしてー
そのまま誰も、何も言わなかった。。








母・節子さんの遺影にお線香をあげる久美子。


若くして亡くなったことを物語る…
節子さんの瑞々しい笑顔。









静に目を閉じ、手を合わせた久美子をじっと見つめる優太。
優太には久美子の複雑な思いは分からない…。

ひょっとすると、
お仏壇に手を合わせるのも始めてのことだったのかもしれない…。


チラチラと横目で久美子を窺い、同じように手を合わせる優太。



その頃ー








正さんは、薄いピンクの花模様があしらわれた器に、饅頭を取り分けていた。
手に取ったまんじゅうを見つめていると、久美子が家を出て行った時のことが浮かんできた。




久美子「私、出て行くから!」


正「何を言っとるんだ!うちは先祖代々、この店は家族みんなで守って来たんだ!
お前が守らんでどうする!」









久美子「知らない!まんじゅうなんて大嫌いっ!」


吐き捨てるように、乱暴に正さんに言葉を投げつけると
久美子は階段を駆け下りた。











正「・・・」











我に返り…

正さんは手にしたおまんじゅうを皿の上に丁寧に置いた。そして…

「忍者まんじゅう」が並べられた箱を静かにショーケースに戻しました。




一方…。

二階では、久美子が節子さんの写真に手を合わせ続けている。

久美子の想いを汲み取ったように

お線香の煙と、蝋燭の灯りがゆらゆらと揺れる。。


やがて久美子は、静かに、目を開けた。


そして…
そんな久美子も遠い昔のことを思い返していた。








久美子「お母さん…!お母さん…

嫌だ… 嫌だ…!お母さん…!お母さん…」


生きている証を、完全に失ってしまった母の身体に取り縋って泣く久美子。


久美子「お母さん…!お母さん・・・」










思い出し…

苦しそうに、写真を見つめる久美子。








と、そこに…

正さんの足音が聞こえ、久美子の顔にサッと緊張が走った。


まるで何かに引き摺られるように…

重く、ゆっくりとした動きで食台に向かう、久美子と優太。


正さんは、優太の前には大きなマグカップを、久美子の前には湯のみを置いた。


その間中ずっと…

俯いたまま顔をあげられない久美子。


続いて正さんは、優太の前に忍者まんじゅうを置き、そのままじっとその顔を見つめた…。

視線を感じ、正さんを見つめ返す優太。









正「(久美子に)何で帰って来た…!」

久美子「・・・」

正「…27年だぞ!」


絞り出すような、正さんの声。





久美子「・・・」

正「27年…」

久美子「・・・」

正「どの面下げて、帰って来た…!」








ぐっと堪える、久美子。


久美子「・・・」

正「・・・」


何も答えない久美子から視線を外す、正さん…。

視線を感じ、正さんはその傍らにいる優太の存在を思い出した。



緊張して、カチコチに固まっている優太。








見つめる正さん。









2人のそんな様子に気づいた久美子がやっとその重い口を開いた。


久美子「優太です。9歳になります…」








正さんの前には、久美子に出すはずの忍者まんじゅうが置かれたまま…。


正「結婚したのか…?」

久美子「・・・」

正「・・・」

久美子「別れました…」


俯く、久美子。


正「お前って奴は…!!」








首を竦める、久美子…

身動ぎ一つしない優太。けれど決して、正さんから目を逸らさない。


気づいた正さん…


正「(優しく)はっはっはっ…!ごめん!ごめん!」


優太「・・・」


正「まんじゅう、嫌いか~?」


首を大きく横に振る、優太。


正「ほっほっほっ(笑) 

そうか?良かった、良かった…」









目を細める、正さん。
固い表情のままの、優太。


正「(思い出して)ああ~!」


胸元からお手製の手裏剣を出す。


正「これをあげよう~!手裏剣…(笑)」


優太「・・・」


唇を噛む、優太。


正「どうぞ…。忍!忍!はっはっはっ(笑)」


あやつり人形のように固い動きのまま…

手裏剣を手に取った優太はそのまま… 俯いてしまった。 








あらためて久美子を見つめる正さん。


久美子「(意を決して)あの…」


久美子を見つめる優太。


久美子「しばらくの間、こちらに住まわせて下さい!」


両手をついて頭を下げる久美子。


正「・・・」










久美子「わがままを言ってるのは分かっています。ですが…。仕事が見つかるまでの間だけ…!どうか… お願いします…!」









正「・・・」


男の声「正さ~ん?正さん!!」


階下から男の人の声が聞こえてきた。

聞き覚えのある声…。


「居るんでしょ~?」


正さんは優太を見つめ…
そして、久美子を見た。










正「少しの…間…だけだぞ…。」

久美子「・・・」

正「・・・」

男の声「正さん?正さ~ん!!」


重い腰を、やっとあげた正さん。

階段を降りて行く正さんの後ろ姿を見送る久美子。


束の間…身体の力を抜く、優太がゆっくりと向き直る。

不安は拭えない…








久美子「(優太に)大丈夫…!」











優太の背中を優しく撫でる久美子に、優太は小さく頷き返した。


あたたかい久美子の笑顔は

そのまま節子さんの笑顔と重なった…