声を出して 28
「おじさん、夕方には戻れるように運転しますから。」
「急がんでいいよ。近くに知っている酪農家がいるから、そこの人に駅まで送ってもらうから。」
「そうですか・・・・」
ハニは酪農家のヤンさんを懐かしく思い出した。
「ヤンさん元気かな・・・・」
「ヤンさん?」
スンジョはハニから初めて聞く名前に、プチ嫉妬を感じた。
「スンジョ君と違って、すごく優しい私よりも一つ年上の男の子のお父さんなの。」
「悪かったな、オレよりも優しくて。なんならそいつと結婚すればいいだろう。」
拗ねた感じのスンジョの物の言い方に、ハニは少し嬉しくなった。
いつも冷静沈着で完璧人間のスンジョの、ほんの一瞬魅せたその表情を、いつか何かあった時に使ってみようかと思った。
「ははは・・・・ハニ、あの子は女の子だぞ。」
「えっ!女の子?だって髪は短かったし、いつもズボンを穿いていて真っ黒で・・・立ってオシッ・・・していたじゃない。」
「ハニもな・・・」
「や・・や・・スンジョ君の前で言わないでよ・・・私が立って男の子みたいにオシ・・・・はしないわよ。」
「あれは、あの子もハニもトイレが怖いから立ってしたいと言っていたんだよ。スンジョ君も一度会って行かないか?」
嫌がるハニだったが、スンジョもまたいつかここに来た時に世話になるからと思い、ヤンさんに会って見る事にした 。
ここまで来ても、ハニはまだスンジョがどこに向かっているか知りたくて仕方がなかった。
「ねぇ・・・・結局どこに行くの?ヤンさんの家に行くんでしょ?」
「ハニ、運転しているスンジョ君の邪魔をするんじゃない。お前はどこまでバカで親不孝娘なんだ。」
「バカかもしれないけど、親不孝はしたとは思って・・・・」
ハニは助手席から見える景色に、見覚えがある事にようやく気が付いた。
その道は、最低でも年に一度、父と一緒に通っていた道。
ギドンにとっても、ハニにとってもとても大切な人がいる場所に続く道だった。
「ママのお墓に行くの?」
ギドンもスンジョも何も言わなかった。