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二日目の朝。
朝日に染まる涸沢カールを見るために早めに起きたが、東の空に連なる雲があり、期待した景色は見れなかった。
ドライカレーとパンで朝食。
今日はここ、涸沢カールからさらに上へ、目的の奥穂高岳まで登る。落石の危険があるため、登山者のほぼ全員がヘルメット着用。モンベルにて出発前日に購入。
出発は6時半。
涸沢カールに建つもう一つの山小屋、「涸沢小屋」の脇の登山道を行く。
途中、たまたま同じようなスピードで登る登山者の方と出会い、会話をしながら登る。
一気に高度を上げるのであっという間に眼下にはテント場が見えてくる。
昨日の疲れを引きづりながら一時間も登ると「ザイテングラート」と呼ばれる上りへ出る。
そこからさらに1時間登ると、「穂高岳山荘」へ到着する。
1時間とはいえ、5分登り続けるだけでかなりしんどい斜面だ。
どのようにここ、標高3000mの場所を開拓し、この山小屋を作り上げたのか不思議だ。休憩場所は石畳で綺麗に整地されている。
しばしの休憩を経て、目指す奥穂高岳へと向かう。
小屋を振り返ると反対側の「涸沢岳」が見える。
小屋の背中側には「笠ヶ岳」。
ここからは石のグリップ力、怪我の予防のためにグローブを手にはめる。これも出発前日の夜に、セキチューにて購入。準備が実に遅い。
すれ違いができないほど岩山の登山道は狭いので、声を掛け合い、交互に歩く。穂高岳山荘を出発して約50分。念願の奥穂高岳山頂に到着。
奥穂高はオレのような万年素人登山者にとって、雑誌やテレビでしか見れない場所だった。
特に高所が苦手なオレにとっては岩山は、覚悟と勇気が必要なのだ。
奥穂高からさらに行くと「ジャンダルム」と呼ばれる岩場が待っているが、こちらは岩場をよじ登る登山道であり、危険なので眺めるだけ。それを超えていくと西穂高岳へと続く。
よく見るとジャンダルムの頂上には数人の人が見えた。
行ってはみたい。けれど人一倍足がすくむオレだからな・・・。
よし、下山。登頂できたことで気持ちに余裕もでき、危険を感じることもなく穂高岳山荘まで下ってきた。
穂高岳山荘の中を少し見学。
3000メートルにこのような頑丈で綺麗な建物があるとは信じがたい。
このまま好天が続くようだ。登山日和。
受付。
売店。
談話室。
宿泊して、夜にここでぼんやりとしてみたい。
山の書籍も豊富。
今度は、新田次郎の「孤高の人」を読んでみようと思う。
休憩後、奥穂高岳とは反対側に位置する「涸沢岳」にも登る。
こちらは20分ほどで山頂へ。
反対側からやってきた韓国人パーティに写真を頼まれ、オレもお願いした。
そして再び奥穂高山荘へともどり、のんびりと休憩した後、テントへと下山を開始した。
徐々にテント場が見えてきた。
無事にテントまで戻ってきたはいいが晴れて暑い。
到着した昨日は雷雨で、今から思えば気温も下がり、体を休めることができた。しかし今日は下界のように暑い。白米とカレーで昼飯を用意したはいいが、テント内はビニールハウス化しているし、外に出れば日差しが強く、どうにも暑さをしのげない。
オレは、テントの入り口ギリギリで日陰を確保しつつ、外の風も浴びながら昼食を摂った。
夜、火照った体と心を冷やすために山小屋の談話室に行って、本を読むことにした。どんな本が置いてあるのか、山小屋の本棚を覗くのがオレの楽しみの一つでもある。
置いてある本は当然ながら山関係の本ばかりで、どれも図書館では容易に出会えないような古い本ばかり。本好きにはたまらない。
最近では、書店に並ぶ新刊には興味を惹かれなくなってしまい、読むのはもっぱら数年から数十年前に刊行された本ばかり。時代の移ろいとと共に作家たちの表現も変化しているのか、古風な言い回しの方がオレはどうも好きなようだ。
しばらくして、テントへ戻ろうと小屋を出る。
テラスでは数人の登山者が星を眺めたり、無数のテントの光輝く夜景を見つめていた。
オレはテラスの片隅で寝転がり、空を眺めながら明日、無事に下山し帰宅できることを祈った。
翌朝。
今度こそ涸沢カールに振り注ぐ朝日を見ようと早起きする。けれども、頭上は晴れているが東の空、山々の稜線に雲が重なっているようで突き刺すような光は見れなかった。
たまたま、昨日、奥穂高岳へ行く時に話した方がいて、写真を撮ってもらう。
二泊三日のテント泊も下山の時となる。
今回はとにかくテントの場所が良かった。他の登山者が密集する箇所を離れ、物静かで雨風を防ぎ易く、何よりイビキが聞こえないのでよく眠れた。
さて朝食を摂り、テントを撤収。
ここからまた上高地へと5時間の下山。
帰りは途中の山小屋にてのんびり休憩。半分、観光気分だ。
あまりの体の火照りにコーヒーソフトを買う。
上高地を切り開いた「嘉門次(かもんじ)」さんの小屋は現在も軽食と宿泊を行っている。
上高地の平地まで下山してくると、スニーカー履いた一般観光客のほうが当然多い。
バカでかい登山リュックを背負い、ヘルメットをぶら下げ、登山靴でストックを持って歩いていると、彼らとの違いに、まるで自分が別の惑星から来たかのような気さえする。
昔、まだ登山をしていない頃、どこかの駅で同じようにバカでかいリュックを背負い、ごつい登山靴に登山の服を着て、電車を待っている人を見かけたことがある。
かっこいいなと思った。 冒険をしている雰囲気をそこから感じ取った。
オレもそんな格好で冒険がしてみたいなと思った。憧れた。
それから何年が過ぎたのか、オレもその人のようになった。
憧れの人は、いつも少し前を歩く理想の自分。
その背中をずっと追い続けていきたいものだ。
では上高地、そして奥穂高、また来ることがあればその時はよろしく。
下山後、車を停めた沢渡バスターミナルに到着後のトイレにて。