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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

我ここに立つ3-トマス・モアのユートピア

2019.10.03 02:50

1516年、現代でも言葉が残る書が出版された、「ユートピア」である。著者のトマス・モアは、この着想をエラスムスの「痴愚神礼讃」が発表された11年にはもっていたとされるが、彼は自由なエラスムスと違い、イングランド国家官僚であり、発表するのはかなり躊躇したという。

しかしそれでも発表したのは、エラスムスと同様、贅沢になって堕落した社会への憤りのようだ。モアは、ヴェスプッチの「新世界」にも触発され、新世界も引用しながら「どこにもない国」のことを夢物語として描いたが、想定しているのはプラトンの「国家」に書かれた理想政治である。

後にマルクスが「資本論」で取り上げる有名な「羊が人間を食い殺している」という「囲い込み」による農民の土地取り上げは第一部で触れられ、モアが怒っていることがわかる。モアはこれに対して土地共有、共産制度を描くのである。。

モアはこの書で、貴族や特権聖職を否定、各層から国の指導者を選出し、国のために働く500人ほどの学者、聖職者、官僚は想定している。また宗教の自由や死刑の廃止、一日6時間労働。思想だけではなく、法律官僚として理想を具体化した。ユートピアは今日に至っても影響を及ぼしているが、この書で離婚をOKしたことは微妙な影響をモアに与えた。

下左はユートピア下右は囲い込みで村を出る村人