もうハムストリングスの肉離れはしたくない・・・効果的な予防法とは?(2-3) ~エクササイズのポイント~
ここまで,どのようにすればハムストリングス各筋を強化できるのか?についてお話しました.
エクササイズの適切に選択することや姿勢を変えることが重要であると述べましたが,トレーニング中においていくつかの点に留意することで傷害予防やパフォーマンスの向上をより効果的に達成することができます.
【トレーニング時の留意点】
ここまで,どのようにすればハムストリングス各筋を強化できるのか?についてお話しました.
エクササイズを適切に選択することや姿勢を変えることが重要であると述べましたが,傷害を予防するにはトレーニング中において,いくつかの点に留意する必要があります.
➀ 伸張性収縮を強調する
筋の収縮様式には
筋が縮みながら力を発揮する短縮性収縮 (例:懸垂時,上体を上げる局面)
筋が伸ばされながら力を発揮する伸張性収縮 (例:懸垂時,上体を下げる局面)
関節の角度を変えないまま,力を発揮する等尺性収縮の3つが存在します.
このなかでも伸張性収縮を行うことは多くのメリットがあります.
①- 1) 傷害の予防に効果的
Askling et al. (2013 & 2014) は伸張性収縮を多く取り入れたプログラムと取り入れていないプログラムを比較し,前者の方が肉離れからの競技復帰を早めることを示しました.
このことから同著者は,筋をより伸張させる姿勢で伸張性収縮を強調することは,伸張性の筋力を増加させ,肉離れの予防に極めて効果的であると結論付けています.
また,Timmins et al. (2015) は筋の長さが短い人ほど肉離れの発生リスクが高く,伸張性収縮を伴うトレーニングによってこれらが増加し肉離れを予防できる可能性があると報告しています.
これらの報告から,伸張性収縮を伴うエクササイズは伸張性筋力や筋長を増加させ,
肉離れの予防に大きく貢献すると言えます.
特に最近では,Nordic hamstring,Stiff-leg deadlift,Hip-extensionは肉離れ予防に効果的であると言われています.
①- 2) 速筋線維を優先的に動員し,筋の肥大を促す
私たちの筋線維は
疲れやすいけど大きな力を発揮できる速筋線維
大きな力は発揮できないけど疲れにくい遅筋線維の2つが存在します.
トレーニングで徐々に力を発揮する時,
サイズの原理というものに基づいて遅筋線維→速筋線維の順で力発揮に参加します.
しかし,伸張性収縮の場合はこの原理を無視して速筋線維から動員されます.
速筋線維は遅筋線維よりも筋が肥大しやすいので (Schoenfeld et al., 2010),伸張性収縮を伴うトレーニングを行うことで,筋肥大をより促すことができます.
日頃のトレーニングを振り返って,バーベルや上体をおろす局面で脱力していませんか?
脱力するのではなく,ゆっくりと下すことで伸張性収縮を強調することができ,より効果的に肉離れの予防や筋肥大を誘発できるかもしれません!
➁ 受傷-復帰にかけて段階的に負荷を上げていく(等尺→短縮→伸張)
肉離れを予防するために伸張性収縮のみを用いればよいのか?というと・・・そうではありません.
収縮様式によって筋の受けるダメージは異なるため,肉離れの回復の程度に合わせて適切な
収縮様式を選択する必要があります.
筋が受ける損傷の程度は,
伸張性,短縮性,等尺性の順で大きいと言われています (Clarkson & Tremblay, 1998)
もし,十分に完治しないままダメージの大きい伸張性の収縮を行うと,
肉離れの回復を遅延させ再発させてしまうかもしれません.
そのため,受傷後は回復の経過を見ながら等尺性→短縮性→伸張性と負荷を漸増していくよう,注意しなければなりません.
【ハムストリングス肉離れのまとめ】
4回のコラムを通して,肉離れのメカニズムや要因,予防方法についてお伝えしました.
肉離れを予防するには以下の流れが重要です.
➀ 肉離れのメカニズムや要因を理解すること
➁ なぜ受傷したか,理由を明確にすること
➂ 理由に応じて,適切な対処を行うこと
(トレーニングエクササイズによる筋力の増強,ランニングフォームの修正,疲労のモニタリングなど)
④実際に傷害が減少したか振り返ること
自分がいま,この流れの中のどこにいるのか見つめ直してみてください.
そして,わからない部分があれば本や論文から知識を吸収し,自己の感覚と照らし合わせてみてください.きっとヒントが見つかるはずです.
また,これから秋シーズンが終わると冬期トレーニングがやってきます.
エクササイズを行う時,考えてみてください.
「自分はどの筋をどんな目的で強化したいのか?」
「その筋を強化するためには,どの種目をどのような姿勢で実施すべきか?」
日々の練習の中で自問自答することで来シーズンの目標へ,グッと近づくことができるかもしれません.
その際に,私のコラムが少しでもお役に立てれば幸いです.
秋シーズンの皆さまの活躍心から期待しております!
川間も,
HU〇TER × HU〇TERの次号が連載されるまでに,次の記事を書けるよう頑張ります・・・
【参考文献 (2-1, 2-2, 2-3回分)】
・Askling CM, Tengvar M, Thorstensson A : Acute hamstring injuries in Swedish elite football : a prospective randomised controlled clinical trial comparing two rehabilitation protocols. Br J Sports Med, 2013.
・Askling CM, Tengvar M, Tarassova O, Thorstensson A : Acute hamstring injuries in Swedish elite sprinters and jumpers : a prospective randomised controlled clinical trial comparing two rehabilitation protocols. Br J Sports Med, 48(7): 532-9, 2014.
・Askling, C. M., Tengvar, M., Saartok, T., & Thorstensson, A. Acute first-time hamstring strains during slow-speed stretching: clinical, magnetic resonance imaging, and recovery characteristics. The American journal of sports medicine, 35 (10), 1716-1724, 2007.
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・上野薫, 前濱良太, 国正陽子, 牧野晃宗, 佐野加奈絵, 貴嶋孝太, & 石川昌紀. 陸上短距離選手におけるハムストリングス各筋内の筋横断面積の形態分布の特徴と競技力との関係. 体力科学, 67 (6), 383-391, 2018.
・Ono, T., Higashihara, A., & Fukubayashi, T. Hamstring functions during hip-extension exercise assessed with electromyography and magnetic resonance imaging. Research in sports medicine, 19 (1), 42-52, 2010.
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・Schoenfeld, B. J. The mechanisms of muscle hypertrophy and their application to resistance training. The Journal of Strength & Conditioning Research, 24 (10), 2857-2872, 2010.
・Clarkson, P. M., & Tremblay, I. S. A. B. E. L. L. E. Exercise-induced muscle damage, repair, and adaptation in humans. Journal of Applied Physiology, 65 (1), 1-6, 1998.