理想の採用を実現させる先導者
【ゲスト】ジャンプ株式会社 辻隆斗さん
【インタビュアー】株式会社ビースタイル 代表取締役社長 三原邦彦
【ライター】 荒川雅子
辻隆斗さんは、ソフトバンク株式会社で営業を経験後、ソフトバンク・テクノロジーで総務・経営企画として、新規事業立ち上げを推進。その後、ソフトバンク・ファイナンスで6年間、新卒・中途採用のディレクションから社員研修、人事評価制度の構築まで、人事関連業務を幅広く手掛けられました。2008年からはジャンプ株式会社にて人事・組織コンサルタントとしてご活躍されています。
今回は、経営者が抱える人事・採用の課題解決に尽力されている同氏と、当社社長の三原が対談しました。辻さんの経歴や新卒採用にかける思い、そして課題への具体的なソリューションをお伺いしました。
大手の内定を蹴り、孫正義社長を追いソフトバンクに入社へ
三原
まずは、ご経歴をお聞かせください。
辻
新卒でソフトバンクに入社しました。当時は社長の孫正義さん自らが会社説明会に出ていたので、孫さんに会うために大手ITセキュリティ会社の最終面接を蹴って、ソフトバンクの説明会に参加したことを覚えています。
でもまだ携帯電話キャリアも始めてない時代で、ソフトバンクと言っても誰も知りませんでした。
三原
そういう時代だったんですね。入社後は営業をされていたんですか?
辻
はい。情報処理技術者の資格を取っていたので、エンジニアをやる気満々だったんですが、営業に配属になって。人事に「何かの間違いじゃないですか?」と聞いたら、「いや、君は営業でしょ」と言われました(笑)
それで実際に営業をやってみたら、結構楽しかったんですよね。それで、「人事ってすごいな。人を肩書やデータで判断しないんだ」と思いました。
三原
ある程度営業をやられて、そこから、経営企画的なポジションに異動になったんですか?
辻
そうです。そこが自分のターニングポイントだと思っています。
その時は、とにかく新規事業を作って、大きくして、IPOをして、いくつもチャレンジしていました。
人が足りなければ連れてくる、物が足りなければ部屋やファシリティを用意する、お金が足りなければ調達してくるというように、とにかく事業立ち上げのバックアップ支援を全てやりました。
三原
すごいですね。目まぐるしく動く経営課題に合わせて、とにかく動く!ということですね。
辻
はい、完成度よりもスピードを重視している風土でしたので、とにかく走りながら考えるの毎日でした。
それが組織の強さでもありましたけど、ついていけずに途中で脱落してしまう人も多かったです。
その時に、総務とか経営企画とか一通りやりましたが、やっぱりキーは人事だと思いました。
SBIグループで培った人事の経験
三原
初めて担当された人事の仕事は何だったんですか?
辻
金融部門(現SBIホールディングス)に移ってからですね。
SBIグループで創業者の北尾吉孝さんと仕事をしていました。
その時は、M&Aでどんどん拡大していた時なので、とにかく採用をやっていました。その時は、まだ新卒採用はやっていなくて、中途社員と派遣社員の採用でした。
三原
年間採用人数はどれくらいだったんですか?
辻
年間100人程でしょうか。
月に100人くらい、夜もずっと面接していました。
途中から新卒採用も始めていて、年に50人くらい採用していました。
三原
なるほど。新卒50人採るのは大変ですよね。説明会だけでもかなりの数…。
人事評価制度はやらずに、基本的には採用をやられていたんですか?
辻
いえ、評価制度もやりました。
採用って、入口でしかないじゃないですか。どんなに優秀な人を取っても、配属先でうまくいかなくて辞めてしまったらアウトなわけで。結局、研修だけで人は育たなくて、現場の人たちが世話を焼いてくれるから育っていくんです。
三原
配属先は重要ですよね。
メンタルをやられるかもしれないし。
辻
そうなんです。でも、いざ現場の人に新人教育をお願いしたら、「どうせ時間を割いて教育しても、自分の給料も業績も上がらない。その上良い人材に育ったらライバルになってしまうし、良いこと一個もないんですけど!」となってしまう。なぜそうなるかというと、それを評価する制度がなかったんです。それで、新人教育がきちんと評価される制度を作らないと人は育たないと思い、北尾さんに相談して、研修と評価制度の構築もやることになったわけです。
三原
なるほど、おもしろいですね。
辻
大変でしたけどね(笑)
「この会社は面白そう」と思ってもらう仕掛けを組み立てる
三原
それで、どうしてソフトバンクを辞めようと思ったんですか?
辻
その頃、新卒の大量採用に違和感を覚えていたんです。
いかに沢山学生を連れてきて、採用するか。なんと言うか、モノを大量に移動させる、物販的な感じがどうしても違和感だったんです。
最後に社長と学生に『一緒に頑張ろう!』『お願いします!』と気持ちの繋がった握手をしてほしいじゃないですか。その理想からあまりにも遠い感じがしたんです。
それで、この理想を実現したいと思い、いろんな人に相談をしていたところ、現・ジャンプ株式会社の社長が、当時広告代理店にいたんですが、たくさん仕掛けを提案してくれたんです。
その結果、それがすごくうまくいって、めちゃくちゃ良い人を採用できて、北尾さんもその新卒を気にいって、ちゃんと活躍していて。その時に「新卒採用って、こういうことだよな」と思いました。
でも世の中には、良い人に出会えなかったり、知名度がなくて人が来なかったり、採用に困っている会社がたくさんあります。それで、ジャンプの社長と「これを世の中のためにやろう」と約束し、しばらくしてから声掛けいただいたので、ジャンプを立ち上げることになりました。
三原
どういうところが新卒採用の課題だと思ったんですか?
辻
学生が会社を知る方法は、不特定多数に向けて発信されたWebページか説明会です。こちらがどれだけ情熱的に説明しても1対1ではない。最終面接では社長と1対1で対話できますが、全員を会わせることはできません。社長と学生の気持ちを繋ぐためには、我々がしっかり盛り上げていかないといけないわけです。
三原
学生の気持ちが途切れないように、動機形成し続けないといけないんですね。
辻
デートと同じです。とにかく最終面接まで気持ちが途切れないように盛り上げて、また会いたいと思ってもらえるようにしなければならない。そのために、毎回「この会社はいいな」と思ってもらえるような体験をしてもらったり、コミュニケーションをとったりするんです。
三原
具体的には、どんなことやったんですか?
辻
仕事体感ワークやビジコンのようなことはやっていました。あと、バリバリ活躍しているエース級の人のきらきらした姿を見せる。
そのとき、その人がすごいということを伝えるだけではなくて、その人がやってきたビジネスが世の中にどんな影響をもたらしているかをデータで見せた上で、「大手はこんな感じで、僕たちは今にも抜かそうとしています。ここで、君たちの力が必要なんです」と言ってもらうんです。
三原
辻さんは学生の動機形成をするのが好きだったんですね。
辻
燃えましたね。
ネームバリューのある会社から内定が出たら、放っておくと逃げてしまいます。だから、こっちはネームバリューがない分、接近戦でやるしかない。でも会ったら絶対につかみに行きます。
三原
何故そんなに燃えられたんですか?
辻
営業の顧客獲得と似ているからだと思います。
採用の成功は、入社をさせることじゃないと思うんですよ。その人が入社して、仕事がつらくても辞めずに頑張ってくれる。そして育って活躍してくれて、何年か後に「辻さん、俺この会社でよかったですよ」と言ってもらう。そのとき初めて成功と言えるのかなと。自分が採用した人たちには、そう言わせたいなと思います。
経営者から寄せられる人事の課題
三原
ジャンプに寄せられる課題で一番多いのは何ですか?
辻
やはり、採用に関する課題です。
三原
採用に関する課題を解決するときは、どう進めているんですか?
辻
一つは、求める人材像の共通認識化。
求める人物像を考えるとき、「〇〇力」といっても、頭に浮かべるものが人によって異なるので、ズレがないように共通認識化します。「あの部署の●●さんが、この場面でこういうことをしていた。これを〇〇力と呼ぼう」というように、できるだけ詳細に固めます。
二つ目に、会社の目指す先の明確化。
この会社が何のために存在して、どこに向かおうとしているかを固めた上で、そこに共感してくれる人を採用します。方法は人それぞれで良いとしても、最終的にどこを目指すのかがブレないようにすることは重要です。
三原
会社の中で実際に取り組んでいる事自体が採用のコンテンツになりますもんね。
辻
そうですね。ジャンプでもコンテンツ化の支援をするためにクリエイティブディレクターがいる組織にしています。
三原
実際、どういう企業からのご依頼が多いですか?
辻
ベンチャーよりも、踊り場に差し掛かっている会社が多いです。
もちろん「採用ができない」という相談もあるのですが、それよりも「辞めない人を採りたい」という課題を持たれている会社が多いです。
三原
採用して終わりではなくて、採用した後の問題も大きいですもんね。
今、企業に求められる採用ソリューション
三原
働き方改革が叫ばれる時代ですが、最近の面接や評価の仕方はどうですか?
辻
いまだに圧迫面接をやっているところがあることに驚いています。
三原
そういう企業には、どんなソリューションをするんですか?
辻
面接官トレーニングとアセスメント設計を提案することが多いです。
面接官トレーニングでは、面接官に必要な見抜く力と口説く力の両方を付けさせます。
まず見抜く力をつけるために、求める人物像から評定項目を抽出して、一次から最終までの各面接で見る項目を振り分けて、それらを見抜くための質問を考えます。
それでも、面接官によって面接のできる・できないに差が出たり、判断基準がブレたりするので、しばらくしたらミーティングをして、一人ひとりがどう面接しているかをフィードバックして、目線を合わせていきます。見抜く力は、とにかくこれの繰り返しです。
次に、口説く力は、面接官とリクルーターが常に伝えることを共有しないと身についていきません。そのため、ミーティングで反応がよかったトーク内容を共有します。
三原
なるほど。アセスメント設計のほうは?
辻
最近多いのは、ストレス耐性やメンタルチェックですね。でもストレス耐性ってストレスをどれだけ我慢できるかという話ですが、ストレス回避性というか、ストレスの直撃を受けないようにうまく立ち回れるかどうかだと思うんです。そう考えると、ストレス耐性だけではなくて、ストレス回避性も見た方がいいのではないでしょうか。
人は強制的にやらされると嫌になりますが、中にはやっていくうちにゲーム感覚で楽しむ人もいます。楽しければストレスは溜まらないんですよね。
三原
そう考えると、これからの採用では「うちの会社を楽しめる人」というコンピテンシーが重要なのかもしれませんね。
辻
そうですね。あとは、何をやっても楽しみを見いだせることですね。
三原
例えば、辻さんは人に動機を与えることが好きじゃないですか。何かに燃えられる動機って、人それぞれあると思うんです。それを見抜いて、会社に合うか合わないかを判断するほうが正しいのかもしれないですよね。
辻
すごいそう思います。
三原
最後に、企業が優秀な人を採用するためには、どういう対策が必要ですか?
辻
何をもって優秀とするのかにもよりますけど、その人に期待していることを、その人の燃えるポイントに刺して、「うちのこういうところで活躍してほしい!」と具体的に言えるといいと思います。
三原
学生さんに、こちらが期待をしていることをきちんと伝えるということですね。お金以上に、何を得られるのかが明確であることが、実は一番大事なのかもしれませんね。
辻
お金以外の部分で、どう自分らしさを発揮させてくれて、どう成長できるのか。自分にとってのお得感ですよね。
三原
なるほど、よくわかりました!
楽しかったです。ありがとうございました。
【経歴】
ソフトバンク株式会社(法人営業)
・法人営業を担当
ソフトバンク・テクノロジー株式会社
・経営企画として管理部全般業務に従事
・採用企画から、オフィス移転、上場関連業務(株式公開やIR等)など幅広い業務に従事
ソフトバンク・ファイナンス株式会社(現 SBI ホールディングス株式会社)
・年間100名以上の新卒、中途、派遣社員の採用企画及び実務を担当
・その他、社員研修、人事評価制度の構築など人事関連業務を幅広く手掛ける
ジャンプ株式会社
・ 現取締役/人事、組織コンサルティング全般に従事