【ライブレポート】indigo la Endとゲスの極み乙女。の『馳せ合い』に見た、5年間の進化と次の5年に向かう明るい未来
リアルサウンド
2019.10.4
https://realsound.jp/2019/10/post-425525.html
2014年4月2日、川谷絵音(Vo/Gt)率いるindigo la Endとゲスの極み乙女。は、同時メジャーデビューを果たした。そして今年9月15日、デビュー5周年を記念し、2マンライブ『馳せ合い』が新木場STUDIO COASTで開催された。会場には川谷絵音使用ギターの展示やファンクラブブース、フォトスポットなども設置されお祝いムードを盛り立てる。さらに、デビューアルバムであるindigo la End『あの街レコード』とゲスの極み乙女。『みんなノーマル』の曲が披露されることも予告されており、高倍率のチケットを手に入れたファンは、特別なことが起こる予感と共に開演を待っていた。
冒頭、川谷から10分ほどのビデオメッセージが放映された。川谷は両バンドについて、ここ1年くらいは「2つあるから今がある」という考えに到ったが、ゲスの極み乙女。が急に売れ始めた頃はindigo la Endの活動に気まずさもあったという。また、両バンドのためにも、川谷の活動範囲を増やし続けることに意味があると感じていると話した。実際、ジェニーハイによって世間が川谷絵音という人間を再評価し、それが2バンドの評価にも繋がっているとした。「今日はこれからの2バンドの明るい未来を想像しながら見て欲しい」と締めくくり、公演は幕を開けた。
最初に登場したのはindigo la End。1曲目は『あの街レコード』の1曲目でもある「夜明けの街でサヨナラを」だ。川谷と後鳥亮介(Ba)が佐藤栄太郎(Dr)のドラムに近寄って煽る場面もあり、仲の良い雰囲気が伝わる。そのままアルバムの曲順通り「名もなきハッピーエンド」へ。後鳥がお決まりの〈ハッピーエンドはあなたの終電次第さ〉で客席を指差す動作も、心なしかいつもより勢いがある。「今日結構長めにやるんで、最後まで楽しんで帰ってください」と川谷が声をかけて始まったのは「billion billion」。ここまでの3曲が収録されている『あの街レコード』のリリース当時、佐藤と後鳥はまだバンドに加入していなかった。しかし、同じ旋律でもベースは後鳥らしい滑らかな響きをもち、間奏のパワフルなドラムはまさに佐藤だから出せる音だ。川谷が「結構久しぶりの曲をやります」と言って始まったのは「染まるまで」。夕焼けのような照明の中、言葉がすっと耳に入ってくる。川谷はインタビューで「昔の曲はギターがかなりメロディアス」と語ったように、長田カーティス(Gt)が奏でるギターは、まさに歌っているかのよう。特に〈最後はこんな風にして〜〉からの堰を切ったようなリフが素晴らしかった。続く「ダビングシーン」は、デビュー当時の演奏との違いを特に感じた一曲。ドラムに合わせ、言葉が跳ねるような歌い方は現メンバー以前にはなかったように思う。新しさを感じると同時に、小規模のライブハウスに立っていた頃に戻ったような、不思議な心地がした。
「次の曲は、突然自分の前からいなくなった人がいて、それでindigo la End が出来たような、一番ストレートに書いた大切な曲」と紹介し歌ったのは「アリスは突然に」。〈「許せる?」って 聞かれた後すぐに いなくなった〉というアリスとの物語。〈僕らはそう 私もそう アリスもそう 疑っていたんだ〉と、川谷とささみお(Cho)・えつこ(Cho/Key)が交互にコーラスする場面に、indigo la Endは昔から変わらずコーラスを大切にする曲作りをしていることを感じた。
続くMCで川谷は、2バンドは最近それぞれの世界観ができてきたところであり、「昔の曲をやると違う感じに聞こえる」と話した。その後初披露したのは新曲「小粋なバイバイ」。イントロからシティポップの雰囲気が漂い、デビューアルバムからの流れで聞くと、メロディ、曲展開、演奏全てが進化していることを目の当たりにする。新しさを取り入れながら、indigo la Endらしいバンドサウンドやコーラスとうまくミックスさせている。続けて、青の照明に丸の形のライトが回る中、新曲「結び様」へ。やわらかいベース、包み込むようなコーラスで〈好きにならなきゃよかった〉と歌われ、聴くたびに深みのある一曲だ。新曲二曲共に、自分たちが出している音に「確信」のようなものを感じ、次回作『濡れゆく私小説』がさらに楽しみになった。残り2曲というところで、カラフルなライトの中「夏夜のマジック」へ。今夏のフェスでも多く披露され、TikTokでも話題になるなど、名実共に代表曲となったことを象徴するような、堂々たるステージングだった。
最後の曲はワンマンなら絶対やらないが「このメンバーでやったらどうなるんだろう」という想いで選んだというインディーズ時代の楽曲、「渚にて幻」。彼らは2016年に同じくSTUDIO COASTで、「渚にて幻 (long ver.)」を披露したのだが、その時の演奏は約9分にわたり髪を振り乱しながらパワフルにプレイする、エモーショナルなものだった。しかし今回は、CD音源に近く、落ち着いて奏でている印象だった。まさにこの落ち着きや、バンドへの自信のようなものが、「『藍色ミュージック』からしてきた新しい方向への挑戦が実を結んだ」と語る『濡れゆく私小説』の制作を終えた、今の彼らの等身大の心境そのもののように感じた。
続いてゲスの極み乙女。の登場、かと思いきや、上手の二階席から「ハンバーグだよ!」の声が。見ると、赤いハットをかぶった「ハンバーグ師匠(スピードワゴン・井戸田潤)」が登場。年始の『ダウンタウンDX』で、2人とも今年の運勢が48位中1位ということで意気投合し生まれたというハンバーグ師匠のテーマソングを突如初披露した。イントロのジューという音は、川谷が自宅でハンバーグを実際に焼いた音だという。ギターは川谷、ドラムは佐藤、ベースは休日課長という「肉厚」の布陣と聞き、客席からは悲鳴も上がった。
さてその後、黄色の派手な衣装に身を包んだ川谷を筆頭に、ゲスの極み乙女。メンバーが登場。冒頭からそれぞれソロを披露し、盛り上がりが最高潮を迎えたところで、「パラレルスペック」へ。冒頭からまとまりのあるバンドサウンドに、一気に会場のムードが「ゲス色」に。そのままアルバムの曲順通りに「サカナの心」「市民野郎」を披露。川谷のラップの心地よさがindigoとの対比でより際立つ。ゲスの楽曲は音数も展開も多く、一見散漫になりそうなものだが、ベースとドラムがしっかりと下支えしていて聴き応えがある。「ノーマルアタマ」は川谷が手数の多いギターをこなしながら歌うハイレベルな一曲。この曲を初めて聞いた時「こんな曲は彼らしか出来ない」と衝撃を受けたことを思い出した。その後、〈woo-hoo〉の掛け声が印象的な「song3」に続き「ユレルカレル」へ。この曲はまさに「ゲスのいいとこ取り」。ラップに感情を乗せる川谷らしい歌い方、〈ゆれるゆれる〉のエモーショナルなメロディ、アップテンポなサビ、川谷とほないこか(Dr)の台詞のような掛け合いなどが贅沢に詰め込まれており、会場も聴き入っていた。アルバム『みんなノーマル』6曲をこうして一気に聞くと、ゲスの極み乙女。はメンバーに変更がないこともあるだろうが、良い意味で昔と変わらず、初期からの自分たちのスタイルを貫いていると感じた。
続くMCではいつものゲスの極み乙女。らしく、雑談のような会話を展開。 先日川谷が「TT兄弟を知らない」というと非国民かのようにメンバーに非難されたという。また川谷が休日課長(Ba)に「Twitterで彼女ほしいって呟きすぎ」と突っ込む等、ダラダラと会話が続く。いつもMCが長いと怒るほな・いこかだが、今回も「もういいよ!その話!」と耐えかね、ちゃんMARI(Key)とTT兄弟を踊りだし、笑いを誘っていた。
そんなMCの後、「初めてやる曲やります。めっちゃ緊張してるんですよ」と始めたのは「透明な嵐」。音源からハイレベルな曲だと感じていたが、演奏技術の高さに改めて驚かされる。特にほな・いこかのドラムは、音の止め方が綺麗で、オーケストラの指揮者のようにバンド全体を引き締めている。それでいて軽やかで切ない。ドラムに繊細な感情を乗せられる数少ないドラマーだと思う。続いて披露された「オトナチック」は彼らの全盛期をつくった曲の一つであるが、〈大人じゃないからさ 無理をしてまで笑えなくてさ〉というサビは、多くの「オトナ」が共感しうる歌詞。最近の楽曲はindigo la Endの楽曲にも通じるエモーショナルなテイストに少し寄った傾向があるが、バンド名が「ゲス」であり、サウンドも遊んでいるのに、歌詞が社会風刺的な曲というのは、彼らの代名詞として復興させても良いと思った。
最後の一曲を前に、川谷は休日課長に「次の曲エクササイズしながら弾いて?」と無茶ぶりし、会場のミラーボールがまわる中「キラーボール」へ。ちゃんMARIの幻想的なピアノソロパートで、課長はベースを置き、バレエのように回転したり、投げキスまで飛ばしていた。曲中で川谷が「indigoもゲスの極み乙女。も大好きです!」と叫んでいたのも印象的だった。
アンコールでは新しい衣装で登場し、「秘めない私」へ。最後の「ドレスを脱げ」を前に、課長がindigo la Endメンバーを呼び込むと、全員ギターが弾けるということでギターを肩にかけて3人が登場。課長が「ドレスを?」とコールすると、「脱げ」とフロアがレスポンスするのがお決まりだが、この日は後鳥がイケボで、長田がキメ顔で、佐藤がクールに「脱げ」とレスポンスし、会場は歓喜に沸いた。途中ハンバーグ師匠も登場し川谷とユニゾンするなど、大団円で終演を迎えた。
筆者は『馳せ合い』を見て、同じく『あの街レコード』から多くの曲を演奏し、またドラムのオオタユウスケの脱退直前に行われた恵比寿リキッドルームでのindigo la Endのワンマンを思い出した。その時川谷は「indigo la Endとゲスの極み乙女。は、どっちも家族みたいなもんだから。こんな言い方もアレだけど、俺がちゃんと曲を作って、メシを食わせないとって思ってる」と、語っていた。デビュー5周年を迎え、彼の決意は身を結んでいるばかりか、今はその先を見据えている。川谷はMCで、「5年やってきたけど、残りの5年のほうが楽しみ」と語った。様々な活動を両立する川谷にとって、5周年は通過点にしか過ぎないのだろう。次の5年で、両バンドの景色は確実に変わっていると思う。その日が今から楽しみだ。
(文=深海アオミ/写真=鳥居洋介)
■セットリスト
<indigo la End>
夜明けの街でサヨナラを
名もなきハッピーエンド
billion billion
染まるまで
ダビングシーン
アリスは突然に
小粋なバイバイ
結び様
夏夜のマジック
渚にて幻
<ゲスの極み乙女。>
パラレルスペック
サカナの心
市民野郎
ノーマルアタマ
song3
ユレルカレル
透明な嵐
無垢な季節
オトナチック
星降る夜に花束を
キラーボール
—アンコール—
秘めない私
ハツミ
ドレスを脱げ