Zrシナリオ≪BITTER SPRING≫
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BITTER SPRING
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今まで見たこともないくらいガサツで嫌な男だ。
誰のことって?
今、訳あって一緒につるんでる男のことだ。
神に支える者のクセに女好きで、隙さえあれば所構わずナンパして、節操がない。
(ちょっと知り合いに似てる気がするのは気のせいだ。)
急に義手の両腕で抱き締めて来やがることもある。金属の義手は冷たいし、髪が隙間に引っ掛かったりしてマジで最悪。
(いい忘れたけど、俺は女!間違われるけど、女だからな!( ‘ᾥ’ ))
その義手のセクハラ神父が、昨日からソワソワと、なんとなくイラついてるのが見てとれた。夜も眠れなかったのか今朝はでかいあくびを連発してた。
「今日は個人的な用で寄るところがある。」
そう言って見せられたのは病院の住所。
どう見てもいつもと様子が違う。俺が「看護婦に知り合いでもいるのか?」と、半分嫌味を言ってみたら、「まぁ、そんなところ」と、素っ気ない返事をした。
女好きで、すぐ嘘をついて俺をからかう癖に、自分の事となると嘘つくのがヘタクソすぎるんだよ。
バカだな。コイツ。
でも、アイツのことだ。一人じゃ心細かったんだろう。
粗末なついたてを挟んだ向こうにアイツは向かった。
ベッドには誰かがいる。回りは看護婦や医者や患者だらけ。騒がしいが二人の会話は筒抜けだった。
「Zrくん…?…………なの?」
幼い子供に問いかけるような優しい話し方。
それから少し間を空けて。弱々しく、か細いアイツの声がした。
「おねえさん……。」
姉弟…という訳ではなさそうだ。
何か複雑な関係らしい。
沈黙の長さでわかる。
(俺だったら、耐えられない。)
ついたての隙間からチラッと相手の顔が見えてしまった。
一瞬ドキッとするほど、深刻に病魔に犯されていた。
顔をなくしてしまった女性とアイツは見つめあっていた。
女性の方が耐えかねて、視線を外した。
気まずい沈黙。
「立派になったね。何だか信じられないわ。」
めずらしくアイツが言葉をさがしていると、彼女が謝り出した。
「ごめんね。こんな……。怖いでしょう?私の顔……。」
「いいえ!いいえ!そんな……!」
アイツのバカでかい声で周りの視線が二人のほうに集中した。
「ごめん。大きな声を出して…。」
何かを思い出すような間。そして、一言。
「貴女は何も変わってません。貴女は………。ずっと私の……!」
「Zrくん。」
言葉を遮られた。
「私……貴方がいなくなってすぐに起きた内乱で兵士に襲われて、ね。15歳で出産したの。」
「…………。」
「そのまま赤ちゃんを背負って少年兵として全線に送られた。敵に見つかるって理由ですぐに赤ちゃんは殺されたわ。3ヶ月だったかな……。」
「……。」
「このままじゃいつ殺されるかわからないからそこから逃げたけれど行くところがなくて墓地で暮らしてた。でも、食べる為に何かしなくちゃいけなくて……女の私にできることなんて、兵士達に、……媚びるしか…。」
だんだんと涙声になり、言葉を詰まらせながらの独白。
「おねえさん。もう、いいですよ……。」
「だから…ね。……私は、貴方が思っているような人じゃないのよ。」
「それでも!」と、アイツは金属の義手を差しのべる。
「それでも、貴女は私の永遠の憧れです。」
握ろうとした手はそっと避けられた。
「……。」
感染予防だとわかっていたとしても、見ていていたたまれない気持ちでいっぱいになった。
行き場を無くした義手は、空中で拳をつくる。
宙でアイツの拳が震えていた。
「あの日…家を出てから。ずっと貴女の事が気がかりでした。忘れようとしても、忘れられなかった。」
「……やめて」
「子供の頃の事だって、言いたいんでしょう?」
「Zrくん…」
「色々と遠回りはしたけど、今はそれなりにちゃんとした職にもついたし、貴女を迎えられるだけの男になれたはず。」
「ねぇ……。」
「貴女を想う気持ちに嘘偽りはありません。」
「Zrくんっ!」
「昔から!ずっと貴女を愛しています!」
「やめてって言ってるでしょ!!」
彼女から大粒の涙が、変形した顔に沿ってゆらゆらと流れた。
「今そんなこと言われも、とても惨めな気持ちになるの。………察して。」
「………………。」
調子のいいおしゃべりなアイツが。
やたら明るくてうるさいアイツが。
黙ったまま何もいわなかった。
「……ごめんなさい。」
そう言うと、そのままアイツは立ち上がって、丁寧な一礼をしてコッチに帰ってきた。
俺の顔も見ずに「行くぞ」と、足早にバイクに向かって行く。
その間、別に聞いてもいないのに、ペラペラとよくしゃべった。
あの女の人は、子供の時に近くに住んでいたひとで、教団に入る前からずっと足取りを追っていたんだとか。
手紙でのやり取りを経て、今日17年ぶりの再開をこぎつけた、とか。
そして、病名を聞いて何の仕事してたかわかった。
(だからといって、どうもこうもないけど。)
「泣いてるのか?」
「泣いてねぇよ!………眼から…汗が出てるだけだ。」
「ああ、そう。男って眼から汗がでるんだな。覚えとくよ。」
「覚えといてソンはないだろうな。でも、人にいうと頭おかしいと思われるぞ。」
ー涙とうそは邪魔。
ー言葉は飾り。
ー肉体は器。
ー彼方の指を思い出そうとする。
あの女の人が、窓からこっちを見ていた。
わずかにカーテンをあけて、両手義手の神父を。
名残惜しそうに。
普段、しゃべりっぱなしのコイツだが、視線に気づかなかったふりをして、黙りこんでいた。
こういう時の嘘はヘタクソ。
このバカは本心を隠せない。
「普段からそんなんなら、かっこいいのにな。」
「何だその、いつもはかっこ良くないみたいな物言いは!」
「はいはい!わるかったよ!」
軽口叩いてはいるが明らかに落ち込んでいた。情けないやつだ。
「なんだ…その。たかが17年だろ?また逢いにくればいいじゃん」
「たかがって……私13歳だったのに今30だぞ?そもそもお嬢さんまだ16歳じゃねぇか!その言い方ババァみてぇだな。」
「うるせぇよ!精神年齢小学生!」
「……ロリババァ。」
「ああ!?」
バイクのエンジンがかかる。
置いて行かれまいと(マジでコイツならやりかねない。)急いでサイドカーに乗り込む。
「帰り、なに食べたい?」
「プリン喰いたい」
「じゃあ馴染みの店につれてってやろう。」
バカだな。
もう振り返ってもあの女(ひと)は居ないよ。
お前のそういうところが残念なんだよ。
バカの運転するバイクは、俺を乗せて病院を後にした。
▼△▼△▼△▼△▼△おわり