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陽は中天を過ぎて 2nd season

心あらなも

2019.10.06 00:22


昼過ぎまで残っていた雨はお稽古の間にあがり、雲が幾重にも重なってはいるけれどなにか澄んでいるような、そんな風合いの空だった。

八潮駅のホームの北端からはしばらく前まで、筑波山を見晴るかすことができた。今はちょうどその眺めを遮る位置にマンションが建っている。

癖でいつものように北側の階段を登り、なにげなく見やると、その邪魔なマンションの右側に青い影があるような気がした。

…山?

よくよく見ようと、ホームの端まで行って目を凝らす。

見えた。

筑波山だ。

あいにく雲で女体山は隠れていたけれど、鉢を伏せたような男体山の山影が見えた。


昔、留学生の男の子に、もし国を離れることがあるとしたら、その最後の日にどこに行きますか? と聞かれたことがある。

彼がどこに行くと言ったかは忘れてしまったし、自分がなんと答えたかも思い出せない。

しかし今の自分ならそれは、筑波山の見えるところ、なのかもしれない。

小さい頃は毎夏、茨城の母の実家で過ごした。駅まで迎えにきてくれた伯父の車に乗って鬼怒川を渡る時に見える、筑波山の大きくてなだらかな山容。心に深く刻まれたその姿は幼い頃の思い出とないまぜになって、あの山を見るときの感慨はもはや切ない、と言った方がいいくらいだ。

嬉しいのでも、高揚するのでもない、ただただ胸が締め付けられる。


それにしても窮屈至極な景色だ。

マンションと線路の柱に挟まれて、あげく雲がかかっている。

額田王の顰にならえば

筑波峰をしかも隠すか雲だにも

といったところだろうか。

けれども、山がまったく見えなくなったわけではないことがわかっただけでもよかった。

ほんとうに。