声を出して 35
ボラの店に戻ると、客は数人だけになっていた。
「お帰りぃ~。母さん、ハニちゃんが彼氏と戻って来たよ。入って入って・・・・・」
昔と変わらないボラの元気で良く通る声は、転んでよく泣いていたハニを慰めてくれたあの時と同じだった。
「まぁまぁ・・・ハニちゃん、綺麗になって・・えっと、婚約者さん?」
「はい、ハニと結婚することになりましたペク・スンジョです。」
ヤンさんの奥さんが、スンジョ君の事を婚約者と言われた時、何だか急に現実味を感じた。
おばさんにはよくお母さんの代わりに美味しい物を食べさせてもらって、ここから家に帰る時におばさんの子供になりたいと言って、おばさんの野良仕事で汚れた服にしがみ付いて泣いた。
「母さん、ハニの彼氏は極上品でしょ?」
相変らず見た目と違って口の悪いボラだけど、それでもハニはボラが好きだった。
「ボラは、口が悪い・・・・恥かしいじゃないかハニちゃんの婚約者に。ホントにねぇ・・・・ボラは大学に入って親の目が行き届かないもんだからねぇ・・・・・・」
「母さん、あの時は・・あの時の事は言わない約束だよ。」
美人で元気が良くてスタイルも良くて・・・・ジウンという子供の母親だと思えないくらいにスタイルが言い。
そんなボラとは対照的におばさんは、コロコロと太っていて、子供の時は大きな体だと思っていたけど、21歳になった私から見たら随分と小柄な人だなと感じた。
あの柔らかな膝の上を、ボラと取り合ったのはもう随分と昔だった。
ボラとおばさんの計らいで、店ではなく母屋の日当たりの良い部屋に通してくれた。
ボラの淹れたコーヒーを美味しそうに飲むスンジョの顔を見て、ハニは大好きだったスンジョの妻になる日がもうすぐだと思い、嬉しくて仕方がなかった。
「ふふ・・・ふふふ・・・・」
「何だよ、気持ち悪い笑い方をするな。」
「コーヒー、美味しい?」
「あぁ・・」
「私の淹れたコーヒーとボラの淹れたコーヒーとどっちが美味しい?」
「似ているな?」
「似ている?」
「コーヒーの淹れ方・・・・」
「ヤンさんに教えてもらったから、コーヒーの淹れ方・・・・・そんな事じゃなくて、私の淹れたコーヒーとどっちが美味しいか言ってよ!」
「さぁな・・・」
スンジョはそう言うとニヤッと笑った。
そんな事でもスンジョは本当の事を、ハニには言いたくなかった。
同じ淹れ方同じ味でも、スンジョにはハニの淹れたコーヒーが一番好きだったから。