真土山〜橋本市と万葉
2019.10.11 12:49
吉野川が紀ノ川と名を変える、和歌山県の東端の橋本。ここには、万葉集で8首もの歌に詠まれた真土山があります。市の玄関口、JR・南海橋本駅には、この街に縁の深いの漫画家・楳図かずおさんの「まことちゃん」と並んで、万葉歌碑が建っています。
この歌碑は2000年に、第8回橋本万葉まつりを記念して建てられたといいます。犬養孝さんの遺墨で、短い文章とともに真土山をうたった歌が彫られています。
白栲(しろたえ)に にほふ信土(まつち)の 山川に わが馬なづむ 家恋ふらしも 作者未詳
真土山を流れる川を渡ろうとしたら、私の乗った馬が躊躇している。きっと家では、妻が私のことを恋しく思ってくれてるんだ。
橋本駅からJR和歌山線で2つ目、五條市との市境の手前にある隅田駅の駅前にも、万葉歌碑があります。
真土山 夕越え行きて 廬前(いほさき)の 角太(すみだ)川原に ひとりかも寝む 弁基
真土山を夕方越えて、廬前の角太川原で、独り寝をすることだよ。ひとり旅の寂しさ、切なさを歌っているのでしょうか。歌の左注には「弁基は春日蔵首老の法師名也」とあり、作者が僧であったことを示唆しています。あるいは行基のような遊行僧だったのか。続日本紀によると、のち還俗して春日倉首の姓を賜り、春日倉首老の名で7首が万葉集に入っています。
隅田駅からは万葉の里真土のハイキングコースが整備され、真土をよんだ万葉歌碑はもちろん、地元の人たちによって道標なども整備されています。ゆっくり歩いても1時間余りで巡れる「万葉の里」で、歌碑巡りを楽しむことにしましょう。