Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

台風一過

2019.10.21 22:00

激しい風と雨が、窓を叩く音が聞こえる。


「明日は晴れるな」


布団の中でその音を聞きながら、明日のことを考えた。


私の中には「快晴」への経験から基づく確信があった。


明日は明日で仕事がある。


明日の仕事は屋外で行う予定だった。


かんかん照りの中での仕事も辛いが、雨の中の仕事はもっと辛い。


ましてや今は10月。


晴れて暑くなることを予想しながらも、その暑さの程度はまだ我慢できるもの。


雨の中で働くよりも、青空の下で働いた方がずっと快適だ。


身支度のために朝早く起きなければならない。


目覚まし時計は日の出前にセットされている。


仕事中に睡眠不足にならないためにも、私はいつもより早く布団に入ったのだ。


ごうごうと外では風が唸っている。


寝る前に見たニュースでは各地に台風への警戒をしきりに呼びかけていた。


それでも私は明日の快晴を思いながら眠りについた。


翌日目を覚ます。


布団の中で耳をそばだて、窓の外の音を聞く。


窓の外はしんと静まっている。


昨日あれだけ雨音が鳴り響いていたのに。


体を起こし、カーテンを開けた。


部屋は東向き。


天上には紺碧の空が広がり、地平線の彼方は金色に輝いていた。


朝日が昇る気配があった。


ぼんやりと見える木の影は、大きく揺れている。


台風の名残の強い風が、まだ吹いているのだろう。


それでも空には雲ひとつなかった。


「無事に台風が行ったか」


昨夜どこか他人事のようにニュースを見ていたのに、その空を見て我が事のように安堵する。


仕事に向かう準備をしなければならない。


私は食事をし、顔を洗い、着替えてメイクをした。


窓から差し込む光が、強い金色に変わっていく。


空も次第に明るくなり、透き通るような青空が広がった。


身支度を整え、家を出ると、一陣の風が私を包む。


仕事のために整えた髪を乱していく。


雨が降ったからだろうか。


冷たいその風は塵を含んでいないかのように清浄だった。


ひんやりとしたその風には、少し冬の厳しさも含まれている。


どこか汚れを拒絶するかのような風でもあった。


その風で私の思考はさらに冴え渡る。


雲ひとつない空。


風と同じように、空も細かい塵すら浮いていないかのよう。


汚れのない空はどこか繊細で、手をのばして触れればひびがはいるのではないかと疑うほど。


それでも眩しく輝く太陽は、その空が決して弱いわけではないことを証明している。


10月の朝。


台風一過の快晴。


高潔な空と風。


今日一日この天気が続く。


きっと風も吹き続けるのだろう。


私は自分の仕事に向かって出発した。








毎週水曜日朝7時ごろに2〜3分で読める短編小説をメールマガジンにて配信しています。