台風一過
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激しい風と雨が、窓を叩く音が聞こえる。
「明日は晴れるな」
布団の中でその音を聞きながら、明日のことを考えた。
私の中には「快晴」への経験から基づく確信があった。
明日は明日で仕事がある。
明日の仕事は屋外で行う予定だった。
かんかん照りの中での仕事も辛いが、雨の中の仕事はもっと辛い。
ましてや今は10月。
晴れて暑くなることを予想しながらも、その暑さの程度はまだ我慢できるもの。
雨の中で働くよりも、青空の下で働いた方がずっと快適だ。
身支度のために朝早く起きなければならない。
目覚まし時計は日の出前にセットされている。
仕事中に睡眠不足にならないためにも、私はいつもより早く布団に入ったのだ。
ごうごうと外では風が唸っている。
寝る前に見たニュースでは各地に台風への警戒をしきりに呼びかけていた。
それでも私は明日の快晴を思いながら眠りについた。
翌日目を覚ます。
布団の中で耳をそばだて、窓の外の音を聞く。
窓の外はしんと静まっている。
昨日あれだけ雨音が鳴り響いていたのに。
体を起こし、カーテンを開けた。
部屋は東向き。
天上には紺碧の空が広がり、地平線の彼方は金色に輝いていた。
朝日が昇る気配があった。
ぼんやりと見える木の影は、大きく揺れている。
台風の名残の強い風が、まだ吹いているのだろう。
それでも空には雲ひとつなかった。
「無事に台風が行ったか」
昨夜どこか他人事のようにニュースを見ていたのに、その空を見て我が事のように安堵する。
仕事に向かう準備をしなければならない。
私は食事をし、顔を洗い、着替えてメイクをした。
窓から差し込む光が、強い金色に変わっていく。
空も次第に明るくなり、透き通るような青空が広がった。
身支度を整え、家を出ると、一陣の風が私を包む。
仕事のために整えた髪を乱していく。
雨が降ったからだろうか。
冷たいその風は塵を含んでいないかのように清浄だった。
ひんやりとしたその風には、少し冬の厳しさも含まれている。
どこか汚れを拒絶するかのような風でもあった。
その風で私の思考はさらに冴え渡る。
雲ひとつない空。
風と同じように、空も細かい塵すら浮いていないかのよう。
汚れのない空はどこか繊細で、手をのばして触れればひびがはいるのではないかと疑うほど。
それでも眩しく輝く太陽は、その空が決して弱いわけではないことを証明している。
10月の朝。
台風一過の快晴。
高潔な空と風。
今日一日この天気が続く。
きっと風も吹き続けるのだろう。
私は自分の仕事に向かって出発した。
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