【堺ファンダンゴ移転記念インタビュー】ファンダンゴ店長・村上隆彦×加藤鶴一『新・ファンダンゴができるまで』
エンドロールと幕開け
―移転した堺ファンダンゴには十三の時の入口の扉や階段があるのを見て嬉しくなりました。
加藤:皆ゆうてくれるね。あの階段は皆びっくりするなあ。
村上:十三から持ってきたものと天井が高くて古い倉庫感と、この匂いみたいなのがファンダンゴらしいって皆ゆってくれますね。
―十三のときも天井が高かったと思いますが音の鳴りも似てるんでしょうか。
村上:こっちの方がもっと高くて正方形なんで、ホールのステージみたいな響き方しますね。
加藤:元々が倉庫やから。船の道具を作る倉庫で、上の扉から荷物を出してトラックで運んどった感じ。そのまま使ってるから面白いんやなあ。
―それに柱もあるんですね。
村上:あっちゃったんです。(笑)十三を引き継いだような。大きい古い建物はどうしても柱があるみたいで。
加藤:見にくいなあ。(笑) 似てるよねえ、柱のあった場所も。
―十三での最終営業日のエンドロールにはたくさんの方が来られたそうですね。
村上:あの時は僕らもびっくりしました。32年間続けてきてくれた賜物だと思います。
―最終的に2日間で何人ぐらい来られたんですか?
村上:1200人弱ですかね。
加藤:嬉しいことやなあ。寂しがってくれて。
村上:ちっちゃい子供連れとか、音が鳴ってたら入りにくいって人が家族で来てくれて。土曜日も絡んでたんで旅行ついでにとか。ゆっくり顔出してもらえて嬉しかったっすね。
【エンドロールの風景】
新・ファンダンゴ
―新しく店長になられた村上さんは以前からファンダンゴとしてツアーを回っておられますが、ファンダンゴから出てツアーをする理由にはどういう部分があるんでしょうか?
村上:各地のバンドに来てもらってばっかやなと思ってて。元々加藤さんの時代から東京や名古屋でイベントはあったので、他の街に行ったときの空気感を繋げたいという気持ちもあって始めましたね。ライブハウス単位でやってるところがあんま無いなっていうのもあったし。最初のツアーがいい意味で慣れ合いが無い空気で始められて、そこから色んな街にその空気感を持っていきたいなと思ってやってます。あと、旅行も好きなんで。
―いいですね。
村上:それも安心して任せられるスタッフもいるからですし。せっかく週末出れるんやったら、来てもらったバンドがおる街に行こうとか、自分が好きな街に行こうとか思い始めて続けてますね。
―スタッフの方達も全員こちらに移られたんですか?
加藤:そうですね、ほぼほぼ皆。堺の新しい子も来てくれたらいいけどな。募集しようかなって思ってて。でも、なかなかライブハウスで働きたがる子はおらんな。特に男の子がおらへん。
―バンドをしている男の方とか多いのかと思ってたんですが。
村上:ここの営業ある日はファンダンゴ優先でみたいな条件があったりするんで、忙しいバンドは難しいんかな。活動時間がバンドマンと一緒になるんで。リハーサル前にっていう仕事も無いし。全然他のライブハウスではバンドマンでって人もいますけどね。
―この場所を加藤さんが見つけたきっかけは何だったんですか?
加藤:家が近所でちょこちょこ遊びに来てたんですよ。面白いとこやなあと思ってて、色んなとこ見たけどやっぱりこういう感じがいいなあと思って。他は全然しっくりけえへんかって。で、堺の地元の友達がroute26の大家さんに話してくれて、コロコロっと話が転がってこんな感じになりました。
村上:レイアウトの話でも、元あった階段とかもどんどんとりましょう!って言ってもらって、工事もやりたいようにやって下さいって言ってくれて。すごいやり易いですね。ビルとかやと後から入るときに一番ネックになる音の問題も、全然楽勝っす、もっと出してくださいって。
加藤:上に住んでて、音が聴こえんと寂しいすわって。漏れてるぐらいがいいんすよって。
村上:あ、おるなって安心できるからって(笑)。
―すごい素敵です。(笑)
加藤:そういう環境もでかいなあ。気が楽にできるっていうか、おおらかっていうか。
村上:がやがやした街やったら目立たないですけど、静かな場所に行くとライブハウスって一番苦情の対象になっちゃうんで。その点、横のお店も前のお店もどんどん騒ごう、この一帯が面白くなったら嬉しいって言ってくれて。すごい居心地いいですね。
加藤:新しい文化がこの辺から出てきたらさらに面白くなるなあって、なりそうな予感はするんやけどね。
村上:周りの店もいい人やし。横の繋がりがジャンル関係なく密接なんです。音を鳴らして騒いでることに対して、お互いがリスペクトし合ってるところもすごいし。そういう堺にしかない面白いものを色んな人に見てほしい。あと、外からもアーティスト呼びたいですね。外国の方も好きそうなんでこのロケーション。
加藤:関西空港近いしな。
村上:魚市場とか、安い天ぷらもあるんで。駅から来た左手の橋渡ったら魚市場があって、夜中になったら開くんですよ。朝までやってる飲み屋さんもずらーって開いてそこもむちゃくちゃ面白いんです。早い時間は早い時間で、魚市場のもうちょっと東側にも飲み屋さんがいっぱいあって。
―一日遊べますね。
村上:何やったら護岸散歩したらいいし。奥のカフェでヨットクルージングみたいなプランもあって、湾をぐるーっと回れるらしいんです。だから何かイベントあったら、旅行がてら行こうってなるといいなって思いますね。電車で10分あったら難波もいけるし、そっからまた10分で梅田ですし。
―アクセスがすごくいいですよね。駅からも近いですし。
村上:何だかんだいいんですよね。十三の歩いて絶対通らなあかん艶やかな街なみも・・・あれはあれでいいんですけど、こっちはもうちょっと下町というか。港町のいい雰囲気があって。
―早めに来て、海見て黄昏れてもいいですよね。
加藤:夕陽がほんますごいから、あそこは。
村上:もうすぐ目の前の工事も終わるんで、もっと見えるようになりますね。
景色をつくる人たち
―加藤さんが移転先をこの場所にしたいって話したとき、すでに村上さんはここになるって思ってたって話をお聞きして。
村上:思ってましたね。すぐ分かりますもん(笑)。
―(笑)
村上:僕は最初は十三へのこだわりが強くて頑なに十三で探してたんですけど、加藤さんから「route26の話があって・・・」って説明されたとき、そん時の話し方が何かもうね、子供がおもちゃ買ったみたいな。
加藤:ははは(笑)
村上:「今度見にいけへんか」って言ったタイミングで、あー俺、堺住むんかぁって思ったぐらいの嬉しさのテンションでしたね。でも見さしてもらって、ああ、いいなって僕自身も思ったんで。
加藤:ほんまに、俺ここしか考えられへんくて。どう言おうかな、どう説明しようかな思って、勇気出してゆうたら「決めてますやん!行きましょうよ」って言うてくれたん。だから、ものすごい、めちゃめちゃ嬉しかった。ここでやりたいって、ずっと思ってたから。
村上:まだ、route26の話が出る前に二人で飲んでて、場所のこだわりより作り手ちゃうかなって話をしたんです。どういう人らが作るかって。加藤さんしかり、僕しかり、支えてくれてる今のファンダンゴのチームが動けば、どこでもファンダンゴになるんやなっていうのは思いますね。結局、どこかへ行く理由は人なんで。
―なるほど。
村上:ツアーでずっと色んなとこに行ってきて、そこで、地で頑張ってる人を僕は好きになってきたんで。それやったら自分達でそう思ってもらえる街にすればいい、ファンダンゴが来て堺面白くなったよって言ってもらえたら良しって思えるようになってからは、僕自身も気が楽というか。後は自分らが楽しんで一部分になっていきたいなって思いましたね。
―以前のメールインタビューのときに、加藤さんも音楽よりも人を見るって話をされていたのでお二人とも同じように人を見ておられるんだなぁと思いました。
加藤:そうやね、人、やなあ。もうずっと、村上は俺が作ってきたもの見てくれてるから、しっかりそれは引き継いでくれてると思う。だから、新しいとこではお前が頭になってやれって。できるやろうと。まだまだ成長してくれるやろうし、それはそれで楽しみやから。
村上:元々うるさい音楽が好きやったんですけど、しっとりした音楽とかブルースとか自分が音楽を好きになったきっかけとは真逆のジャンルでも、こだわりを持って音楽やってる人が好きにもなりましたね。色んなきっかけがあって、ワーワー騒いで音うるさければ好きみたいな感じやったのが、人重視になりました。やっぱり、それはライブに反映されるんで。自信を持ってやってる人は、輝いて見えるし。そういう部分はファンダンゴで10年働かせてもらって見れましたね。
―ファンダンゴは皆さんが信頼し合ってる感じがあって、その雰囲気がそのまま保たれて、また新しいものを作っていくっていうところが楽しみですね。
加藤:信頼はしてるね。だから、お互い動けるんやと思う。皆も責任もって自分でちゃんとしたものを作らな、俺らに失礼やと思って頑張ってるし。だからある意味楽というか。色んなアイデアが気軽に言えるしね。新しいもの作るためには、どんどん新しいことやっていかなあかんから。
村上:でも各々が全力で遊んでくれてるからやと思うんですよ。色んなライブ会場があるんですけど、決まりきったマニュアルのところもあるし、逆にここはマニュアルがないからお客さん楽しませたらOKみたいな。それは照明やっててもやし、音響もそうやし、バーカウンターもそうやし、受付もそうやし。トップが一番に遊んで飲んでるんで。
加藤:それはもう、皆しっかりしてくるわ。
―(笑)
加藤:俺途中で酔うてきたら、仕事せえへんようになるから。私がやらなあかんってカバーしてくれて強くなってくるんやと思う。
村上:加藤さん倒れてるんですけど・・・みたいな(笑)。
―ははは(笑)
村上:そうなったらそこで自分でどうしたらいいんやろって考えて。でもあえてそういう姿を見せてくれてるんで(笑)。
加藤:しっかりせんとなあ。
どこにもない色の景色を
―ブッキングはお二人でどんな風にやっておられるんですか?
村上:バラバラです。分かりやすく言うと、完全にアーティストやイベンターさんがこの一日を使わせてくださいっていう日と、僕らサイドが来てほしい人と一緒にやらせたいバンドを集めて行うイベントの2種類なんですけど。例えば、バンドからこの日程で来るから誰かと一緒にやりたいって言われて対バンを考えるイベントもブッキングイベントになるし。一から全部のバンド作る日もあるんで。
加藤:基本、村上がやりたいことは村上がやる、この日は俺がやるみたいな。それで、何かええ対バンないかなって意見聞いたりして一緒に作ることもあるし。でも基本は村上やったら村上の一日、俺は俺って感じで組んでるね。
―構想通りの組み合わせを実現させようと思ったら簡単ではないと思うんですが、上手くはまるものですか?
村上:それもタイミングです。例えば絶対にこのスリーマンをやりたいって時は、その説明を3バンドにして丸かどうかを確認しますね。お互いにいいねってなったら、この辺りでっていうスケジュールを投げます。そこで無理でも、2バンドがいける場合はもっと面白いスリーマンはないかって模索して別の形で実現したり。逆に僕達が好きなアーティストが来る日程で3バンドでって決めて、候補の中から声をかけ続けてスケジュールがはまるバンドを打診していくパターンもあって。1日1日バラバラですね。
加藤:バシーンって決まったらすごい嬉しいけど、なかなかやっぱり上手い事ね。でもそっから新しいものが生まれていったりすることもあるし。ま、簡単じゃないよね。
―ライブハウスで見る音楽の面白さって何だと思いますか?
村上:人の本気をこんなに間近で見れる場所はないかな、と。ライブハウスは自分のスタイルで見れるし、好きな場所で好きな距離感で。近づけばもっと楽しめるし、柱の後ろで全体を体感したいっていう人もおるし、ギターが好きでこの人が鳴らすこれが好きって味わい方もあるし。そこがすごい一番魅力的に感じますね。あとは演者さんとお酒飲んで喋る時に、自分なりのプライドとか音楽や楽器に対する熱の話を聞くのが楽しいですね。自分自身が音楽好きなんで。そこは裏方というか、ライブハウスサイドで働いてて良かったなって思うところですね。
―加藤さんはいかがですか?
加藤:やっぱり俺は、色んな人が集まってくるのが面白いな。今まで見たことないような新しいものに出会えるとこやし。例えば、ガーリックボーイズやったらガーリックボーイズがきっかけで集まってくる人でも、こんなに色んな人が来るのかっていうとこは面白いよね。そういう力ってすごいなって。
村上:お客さんの表情も面白いですね。イベントによっては前で見守ることもあるんですけど、そん時にアーティストと同じ方向を向くんで、笑顔で手挙げてはしゃいでる人とか、泣いてる人とか、歌に対する感情もそれぞれで。どういう曲でそうなるかも、センチメンタルな曲やったり、めちゃめちゃハッピーな曲やったりバラバラなんで。楽しんでる模様を前からでも後ろからでも見るんが楽しいですね。
―なかなか向こうの景色って見れないですよね。
村上:見れないですね。すごいいいですよ。今年の4月頃に、16、7歳ぐらいの子が2列目あたりで押し潰されかけながら手挙げて、人前でこんな笑ったり叫べるかってゆうぐらいはしゃいでて。その顔にハッとさせられて。目の前にアーティストがいて仕事をするって当たり前のようになってるんですけど、昔俺もやってたかもなっていう新鮮さがラスト月間はちょこちょこあって。そん時、めちゃくちゃ泣きそうになりました。音楽ってこうあるべきやなって。ライブハウスってこういうもんやなってものをどんどん学びますね、景色見て。
―音楽のエネルギーは受け止める側もパワーがいるんじゃないかなと思います。
加藤:それはあるね。すごいエネルギーやから。一人ひとり怖いぐらいの。本気できてるからね。こっちもそれに応えられるように、仕事をせなあかんやろうし。負けそうになるもんな。それが面白いんやけどね。負けへんぐらいのエネルギーをもうしばらく持っとかなあかんな。
―すごい仕事ですよね、毎日。
加藤:だから楽しいんやな。
村上:捉え方によっては、ほんと毎日夏休みみたいな。人も好きやし、音楽も好きやし。頭悩ますスケジュールのこと以外は(笑)。目の前は毎日楽しいです。
―最後に、これから新しいファンダンゴをどんな風に作っていきたいと考えておられますか?
村上:僕自身には無くて、来てくれた人が作っていくんかなって思いますね。僕が元々のファンダンゴに最初に持ってたのは怖いライブハウスっていうイメージだったんですけど、人によってはあったかいイベントが多いって思う人もおるし。だから、各々が自由に楽しめるライブハウスではありつつ、個性的ではありたいですね。どこにもない、いいロケーションいい街の中に移動させてもらったんで。音楽やライブイベントだけじゃなく、自由なパフォーマンスやアートや色んな分野の人が集える場所にもなったらいいなって思いますね。そん時はまた、色んなパワーをぶつけて色作ってほしいなって。
加藤:ほんまに出来てくるんやと思うなあ。十三もそうやったもんね。こうでなければならないとか無かったもん。闇雲にやってたらああいう形になってしもうたって感じで。さっきゆったみたいに、アーティストやお客さんが作ってくれたもんかも分からんな。だからここがどうなるか楽しみやね。長いこと続けていけるようにね。30年は続けよう。
村上:目標は十三以上に。せっかく動いてやっていく形を選んだんで。
加藤:他にない色っていうのをどんどん出して。もう7割方は他にない空気出来てるもんね。あとは、色んな人が集ってくれるように俺らが日々頑張らんと。
村上:どんどん面白くやっていけるように。
―すごく楽しみにしています。30年続けてください。
加藤:楽しみにしといてください。
村上:頑張ります。
[ Special Interview : Takahiko Murakami × Turuichi Kato ]
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どこにもない色を塗る。
自分達の色を。自分達の手で。
素晴らしいエンドロールで十三の歴史に幕を下ろしたファンダンゴは、堺からまた新しく始まった。
どうしてファンダンゴというライブハウスにこんなにも惹かれるのだろう。
知りたくて足を運ぶその場所には、また会いたいと思う人達が変わらずに働いていた。
懐かしい面影と新しい匂いが混ざるその場所は、紛れもなくファンダンゴだった。
あの日の続きを見たいと思ったステージには、絵画のように美しく言い知れない景色が広がっていた。
ファンダンゴで働くその人たちがいることこそが、その理由。
彼らが作る場所だから面白い。
彼らが作る景色だから心に響く。
音楽を愛する人たちの熱を受け止め、熱を返し、見たことのない景色をつくりだす。
場所が変わっても変わらない。彼らにしか出せない色で新しいものを描いていく。
新しいファンダンゴは、楽しい予感で溢れかえっていた。
ここから何が始まっていくのだろう?
ファンダンゴが堺に移ることは必然だったのか?
その答えは一生分からなくてもいい。
これから先も探し続けて、
鮮やかな色で新しい歴史を塗り替えていく、
彼らがつくる景色の移り変わりを見続けていこう。
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