Interview:ラルフ"アルビ"アルバース(FIDDLER’S GREEN) 2019.10.4@赤羽ReNY alpha
来年、結成30周年を迎えるスピード・フォークの雄、FIDDLER'S GREEN。ドイツから極上のアイリッシュ・パンクを届けてくれる彼等が、去る10月初旬に再来日を果たした! 現バンド・ラインナップは、ラルフ“アルビ”アルバース(vo,g,mandolin)、パット・プルツィヴァラ(g,vo)、ライナー・シュルツ(b)、フランク・ヨース(ds)、トビアス・ハインドル(vln)、シュテファン・クルーク(acc,bodhran)で、これは'06年から不動。東京公演の開始前/リハーサル後、その中からツイン・ヴォーカルの一翼を担うアルビを掴まえ、会場バックステージにてインタビューを行なった!
インタビュー・文・写真:奥村裕司
通訳:Uncleowen
──'17年以来の来日ですが、ツアー開始を前にした今の心境は?
ラルフ“アルビ”アルバース(以下アルビ):早くファンのみんなと再会して、ライヴをやりたいよ。初来日公演ではガッツリ盛り上げてくれて、本当に最高だったからね!
──前回のジャパン・ツアーは、ファンにとってもバンドにとっても正に待望だったと思います。あの熱狂の来日公演を経て、バンドに何か変化はありましたか?
アルビ:変化と言えるようなことはなかったけど、とにかくファンには感謝している。俺達は来年、(バンド結成から)30周年を迎えるんだ。ここまでやってこれたことを本当に誇りに思うよ。そして同時に、俺達の音楽を聴いて、楽しんでくれるファン、ずっと支えてくれた人達には感謝しかない。おかげでドイツ本国でも、ヨーロッパでも、そして恐らく日本でも成功出来たんだからね。とにかく今は最高の気分だ。本当に最高だよ!
──FIDDLER'S GREENは時々、アコースティック・ライヴ・ツアーも行なっていますが、いつか日本でもやれるとイイですね?
アルビ:そうだな。“Acoustic Pub Crawl”ツアーというんだけど、是非とも日本でもやりたいね。これまではドイツ国内だけだったけど、アンプラグドのツアーはもう何年もやり続けている。来年は30周年のアニヴァーサリー・イヤーということで、何か新しい形でこの“Acoustic Pub Crawl”ツアーがやれないか…とも考えていてさ。ショウを2部構成にして、第1部をアコースティックにするというアイディアもある。それが日本でも出来るとイイんだけど。
──今年リリースの最新作『HEYDAY』は、これまでで最もポップな仕上がりだと思いました。これは自然とそうなったのですか? それとも、何らかの狙いがあって…?
アルビ:いや、特に意図はしていなかったよ。新しいアルバムがどんな仕上がりになるのか
──それはいつだって、俺達にも分からない。今回のレコーディングも、前作『DEVIL'S DOZEN』('16)で初めて使ったスタジオ(Principal Studio)でまるまる行なったんだ。だから、スタジオの様子はよ〜く分かっていたし、プロデューサー(フィンセント・ゾルク&イェルク・ウンブライト)もよく知っていて……って、それはそうと──ポップに感じた?
──はい。もしかすると、ポップだとは言われたくないのかもしれませんが、ポップでキャッチーなのは、決して悪いことではないと思いますよ。聴き易い楽曲が揃っていて、さらにファンの間口も広がるのでは?
アルビ:そうだな。確かに聴き易いアルバムではあるよ。アルバムの内容って毎回、制作時にどんな経験をしたか、そして、どんな人達とレコーディングしたかによって変わってくるんだ。『DEVIL'S DOZEN』のことは今でも大好きだよ。そんな最高のアルバムを制作した仲間(スタッフ)とまたタッグが組めたんだから、とにかく全ての作業がやり易かった。『DEVIL'S DOZEN』でも長い時間を共にした仲間達とまた音楽を作り上げることが出来たことで、きっとハッピーな気分になり、そのムードが『HEYDAY』に出ているのかもしれないな。
ファン層をさらに広げたいというのは、実はレコーディングに臨むに当たり、最初に目標としたことだった。もっと多くの人達にFIDDLER'S GREENの音楽が届くように──正にそういったアルバムを目指したのさ。でも、パンクの姿勢は曲げたくなかった。だから、ウマい具合に(パンクとポップの)中間を行く作品になったんじゃないかな。それで結果的に、ポップにも聴こえた…と。
──いずれにしても、音楽がキャッチーなのは素晴らしいことです。
アルビ:そうだね。ありがとう。
──今作でも、本格的なPVを幾つか制作していますが、やはりヴィデオはプロモーション・ツールとして重要だと考えていますか?
アルビ:やらなきゃいけないことだと思っているよ。映像を作ることが、今ではライヴに向けての一番のプロモーションになるからね。新しいアルバムを出したら、ファンはみんなヴィデオを楽しみにして待つ。勿論、撮影にはお金も必要だけど──俺達の撮影って、わりと短い方なんだ。いつも、PV1本の撮影は1日でやってしまう。だから、実際にはそんなに予算を掛けていないんだよ。
──中には、ミュージシャンが演技することに否定的なバンドもいますが、FIDDLER'S GREENはストーリー仕立てのPVが多いですね?
アルビ:うん。前からやってるよ。「The More The Merrier」('13年『WINNERS & BOOZERS』収録)の時は、西部劇を持ち込んだしね。でも、俺達は特にリハをやったりはしないんだ。ごくたまに、バンドの方からストーリーを持ち込むこともあるけど、殆どの撮影はやっつけ本番で、その場の指示や雰囲気で動いている。まぁ、俺達は演技だってやりコナしちゃうからね。実際、イイ線いってると思うんだけど(笑)。
──改めて訊きますが、いつも曲作りはどのようにして行なっているのですか?
アルビ:メンバー各自が作ったフレーズなりアイディアを持ち寄って、みんなでそれを聴き、組み合わせたり、広げていったりしながら曲を仕上げていくんだ。そうすることで、単なるフレーズやコーラスの断片だけだったモノに、色々な変化を加えていくのさ。みんなでジャムりながら…というのも昔はやっていたけど、今もうやっていない。
俺達が使っているスタジオはド田舎にあって、周りには何もないから、曲作りに集中する環境としては最高だよ。何か良いアイディアが浮かんだら、すぐスタジオに集合するんだけど、一旦スタジオへ入ると、3〜4日はそこから出られなくなるから、すぐに(楽曲が)完成する。本当に何もないところだからね(笑)。
──アルビもパットも主にギターで曲を書くそうですが、鍵盤を使うこともありますか?
アルビ:『DEVIL'S DOZEN』でカヴァーした(STYXの)「Boat On The River」を憶えているかい? 何か別のアイディアが試したくて、この曲ではピアノを使っているよ。ある時、プロデューサーが「イントロに何か欲しいなぁ」と言うから、俺が「ピアノを弾いてみようか」と言ったんだ。そして、「これはどう?」とやってみたところ、「素晴らしい!」ということになったのさ。
でも、それぐらいかな…。レコーディングでピアノを使ったのって。ライヴでは使ったことがあるけどね。パットもピアノが弾けるから、「Boat On The River」をライヴでやる時は、彼がイントロをプレイする。前作のツアーでは毎回やっていたよ。ピアノを持ち運ぶツアーって、俺達にとって初めてのことだったけど、ライヴにはサプライズも必要だからな!
──『WINNERS & BOOZERS』の限定盤には、ピアノ・アレンジのボーナス・ディスクが付いていましたね?
アルビ:あれは友人のピアニスト、イサベル・ロドリゲス・エルナンデスが弾いてくれたんだ。俺達は毎回、ライヴ盤を付けたり、DVDを付けたり、アコースティック盤を付けたり…と、何かスペシャルな特典盤に取り組んでいる。それであの時は、「ピアノ・ヴァージョンはどう?」という話になって、彼女に電話をかけて頼みこんで実現したのさ。
──そのイサベルをライヴに呼んだことは?
アルビ:1回だけだけど、あったよ。俺達が毎年やってる古城フェス(“Shamrock Castle”)があるだろ? あそこでは毎回、普段やらない曲をプレイしたり、何かしらサプライズを用意する。時間はたっぷりあるからね。で、『WINNERS & BOOZERS』をリリースした年に、彼女をゲストとして呼んだのさ。3曲ぐらい演奏してもらったかな? 俺達のステージの間に、ピアノのみでね!
──その“Shamrock Castle”の出演バンドは、どのようにして決めているのですか?
アルビ:俺達は年間の殆どをツアーに費やしているから、色んなところで沢山のバンドと共演する。フェスに出た時も、サポート・アクトとしてプレイする時も含めると、本当に多くの人達と出逢うんだ。それに、常に観客は新しいバンドとの出会いを求めてもいる。そこで、「どのバンドを俺達のフェスで紹介しようか?」「どのバンドがサポートしてくれるかな?」と、いつも考えているのさ。
俺達がライヴを観て気に入って、「あのバンドを出そう」となることもあれば、バンドの方から「俺達を出演させてくれ!」と言ってくることもある。そうして売り込んできたバンドは全て、音源をちゃんと聴いて、しっかり話し合って選んでいるよ。ただ、俺達の好みのバンドだというのは当然として、ある程度成功しているバンドを選ぶことになる。もう3年連続でソールドアウトしているフェスだからね。
──日本のバンドにも出演のチャンスがありますか?
アルビ:そうだな。まずはUncleowenにメールを送ってきたまえ。その際、YouTubeのリンクも忘れるなよ! 実際に音を聴いてみないことにはどうしようもないからね。
──“Shamrock Castle”の観客数を教えてください。
アルビ:2000人だよ。とても小さな場所なんで、それ以上はキャパ・オーヴァーになってしまう。もっと大きなフェスにすることも出来るけど、今の状況が好きなんだ。お客さんもみんな喜んでいるし、このくらいがちょうどイイ。あまり巨大にするつもりはないね。もし、“Wacken Open Air”(※8万人規模の巨大メタル・フェス)みたいにデカくなったら、俺達だけじゃコントロール出来なくなる。だから今の規模で、よく知った仲間とゆったり開催していきたいと思っているよ。
──いつか日本でも、お城を借りて開催出来るとイイですね?
アルビ:どうせなら、城を建てちゃいなよ! “Shamrock Castle”を日本にも作ってしまうんだ。(お城の)写真は送るから(笑)。
──日本のお城でやるのはダメですか?
アルビ:日本にも城があるのかい?
──勿論! ドイツの城とは見た目とか全く違いますけど。
アルビ:そうか! このあと、名古屋、大阪とツアーをやって、その後にオフがあるよね? 見に行けるかな?
──是非、大阪城に行ってみてください。
アルビ:ああ、是非そうしたいね!
──日本の歴史に興味があったりしますか?
アルビ:まだ日本に来るのは2回目だからね…。でも、興味を持ち始めているよ。毎回、色々なことに感動してもいるし。もっと調べてみなきゃ。
──日本をツアーした経験から曲が生まれるかもしれませんね?
アルビ:今のところはまだないけど、沢山インスピレーションをもらってはいるよ。そうだな…。日本での印象を曲にするのもイイかもしれない。ありがとう、良いヒントになったよ!(笑)
──寿司の曲が出来たりして?
アルビ:イイね! スシ・ソングか!!(笑)
──日本以外のアジア諸国でプレイしたことは?
アルビ:いや…そもそも、日本に来るまでは、ライヴ/ツアーでヨーロッパを出たことがなかったんだ。'98年にアメリカでレコーディングを行なったことはあったけど、ライヴをやることはなかったし。アジア圏にやって来たこと自体、(前回の)日本公演が最初だったんだよ。
──アイルランドでプレイしたことはありますか?
アルビ:前に小さなパブ・ツアーをやったことはあったよ。'07年だったかな…? でも正直言って、あそこには何もなかった。勿論、トラディショナルな文化や音楽はあるし、年寄りの良いミュージシャンはいるんだけど、今の俺たちには必要ないかな。ツアー先でも自分のビールは自腹で買わなきゃだし、メシだって自力で店を探さなきゃならない。キツいよあの国は(苦笑)。
──ところで、パットが加入した時の経緯を、詳しく教えて欲しいのですが、彼とはどのようにして知り合ったのですか?
アルビ:前のギタリスト兼シンガー(ペーター“パトス”ミュラー)がバンドを去った時、オーディションを行なったんだ。色んなミュージシャンがやって来たよ。そんな中、最後に来たのがパットだったんだ。ただ、俺達はそれ以前からお互いを知っていてね。だから、彼こそがニュー・メンバーだと、その時もう確信していたよ。彼がやって来た時点で、もう決まりだったのさ。
──パットをオーディションに誘ったのですか?
アルビ:実を言うと、俺個人としてはそんなに面識がなかった。でも、スタッフがよく知っていて、オーディションに呼ぼうということになったんだ。
──前回インタビューした時、パット自身はギタリストのオーディションだと聞いていたのに、ヴォーカルもやれと言われて焦ったというようなことを言っていましたね?
アルビ:そうそう。確かに、ギタリストのオーディションということで彼を呼んだんだったな。
──でも、彼が歌えることはあらかじめ分かっていたんですね?
アルビ:ああ。だから、オーディションでも何曲か歌ってもらったんだ。俺は詳しく知らなかったんだけど、どうやらパットは元々ベーシストだったらしい。ただ、ギターも上手だし、歌も上手かった。沢山のコードを知っていたし、ハーモニーも理解しているし、音楽を専攻していたこともあったようだ。結果、彼はバンドにとってとても良い新しい風を運び込んでくれたよ。
──FIDDLER'S GREEN加入前は、言わば無名のミュージシャンだったのでしょうか?
アルビ:カヴァー・バンドでプレイしていたらしい。それで生計を立てていたんだ。でも、それじゃ満足出来なかったんだろう。ミュージシャンだったら誰しもが、自分自身の音楽──自分で作った曲と向き合い、世に出したいと思うものさ。それはパットだって同じだ。ところが、カヴァー・バンドではそうした機会に恵まれることがない。そんな彼は、実際とても素晴らしいミュージシャンだったよ。そしてこのバンドに加わり、最初に書いた曲が「Folk's Not Dead」('07年『DRIVE ME MAD!』収録)だったのさ!
──前任ギタリストとは今でも交流がありますか?
アルビ:好きなギタリストではあるから、ライヴを観に行くことはあるよ。でも、プライヴェートでは会っていないな。
──ちょっと気の早い質問かもしれませんが、『HEYDAY』に続くアルバムの準備はもう始めていますか?
アルビ:いや、まだ何も始まっていないよ。メンバーのうち何人かは、自宅で曲作りを始めてはいるけどね。今はまだ『HEYDAY』のプロモーションが山ほど残っているし、ツアーもしばらく続くし、次のアルバムについてメンバー全員で話すまでには到っていない。
ただ、年明けの('20年)1月にはスタジオ入りしようと思っている。恐らく、次の作品は数曲入りのEPになると思うんだ。『HEYDAY』から漏れた曲が3曲ほどあるからね。それらに関して、何かしら世に出す機会を窺っているところさ。まぁ、まだ何も決まっていないし、この先どうなるのか、俺達にも分からないけどね。
──楽しみにしています!
アルビ:俺達もね! とにかく、また日本に呼んでもらえて本当に嬉しいよ。みんなありがとう!!
●『HEYDAY』
オリジナル・スタジオ作としては通算14作目。前作『DEVIL'S DOZEN』から、さらにキャッチーな作風が推し進められ、イイ意味でポップな傾向が強まっている。但し、イケイケの疾走チューンも当然ながら健在で、聴けばビールで乾杯したくなること請け合い。尚、収録曲の中には、同郷のMR.IRISH BASTARDのシンガー、クリス・レノンの名前がクレジットされているが、それについてアルビは次のように説明している。
「クリスは俺達のレコーディング・スタジオの近くに住んでいてね。1曲だけどうしても歌詞が思い浮かばなくて困っていたら、ちょうどスタジオへ遊びに来たんだ。彼はアイリッシュのハーフだし、その曲を聴いてもらって、(歌詞について)相談してみたら、“よし、やってみよう”と言ってくれて、それから2〜3日後に歌詞をメールしてきてくれたんだ。凄く(楽曲に)フィットしたよ!」