湯桶読みと重箱読み
1 漢字の読み方
以前にも話したが、平安時代以降、日常生活に定着している漢字やお経などの仏教関連の漢字は呉音で、それ以外は漢音で読むしきたりになった。
https://minamoto-kubosensei.amebaownd.com/posts/6270310?categoryIds=2024148
他方で、長い年月を経るうちに、熟語の中には、音読みと訓読みがゴチャゴチャに混在して定着してしまったものが多数ある。これには、①湯桶(ゆトウ)読みと②重箱読みの2種類がある。
2 湯桶読み
湯桶読みとは、「湯桶」を「ゆおけ」ではなく「ゆトウ」と言うように、漢字2文字以上でできた熟語で、上の漢字を訓読みし、下の漢字を音読みすることをいう。
ex.1湯桶読みが定着している日常用語
相棒(あいボウ)、朝晩(あさバン)、兄貴(あにキ)、稲作(いなサク)、見本(みホン)、野宿(のジュク)、雨具(あまグ)、夕刊(ゆうカン)、夕飯(ゆうハン)、夕刻(ゆうコク)、初陣(ういジン)、下絵(したエ )、油絵(あぶらエ )、大勢(おおゼイ)、言分(いいブン)、豚肉(ぶたニク)、太字(ふとジ)、細字(ほそジ)、目線(めセン)、高台(たかダイ)、切土(きりド)、盛土(もりド)、手帳(てチョウ)、薪能(たきぎノウ )、遅番(おそバン)、粗利(あらリ)、血肉(ちニク)、湯茶(ゆチャ)、相性(あいショウ)、小判(こバン)、梅酒(うめシュ)、片面(かたメン)、仮免(かりメン)、値段(ねダン)、場所(ばショ)、屋台(やタイ)、枠外(わくガイ)、枠内(わくナイ)
ex.2湯桶読みが定着している法律用語
家賃(やチン)、身分(みブン)、手数(てスウ)、敷金(しきキン)、株式(かぶシキ)、株券(かぶケン)、消印(けしイン)、頭金(あたまキン)、請書(うけショ)、係員(かかりイン)、株価(かぶカ)、更地(さらチ)、敷地(しきチ)、端数(はスウ)、前金(まえキン)、屋号(やゴウ)、貸金(かしキン)、根抵当(ねテイトウ)
3 重箱読み
これに対して、重箱読みとは、「重箱」を「かさねばこ」ではなく「ジュウばこ」と言うように、漢字2文字以上でできた熟語で、上の漢字を音読みし、下の漢字を訓読みすることをいう。
ex.1重箱読みが定着している日常用語
本屋(ホンや)、本棚(ホンだな)、一羽(イチわ)、碁石(ゴいし)、台所(ダイどころ)、毎年(マイとし)、毎月(マイつき)、音読み(オンよみ)、訓読み(クンよみ)、客間(キャクま)、新顔(シンがお)、反物(タンもの)、団子(ダンご)、賃上げ(チンあげ)、番組(バンぐみ)、豚汁(トンじる)、桟橋(サンばし)、雑木(ゾウき)、蝶番(チョウつがい)、残高(ザンだか)、工場(コウば)、額縁(ガクぶち)、献立(コンだて)、軍手(グンて)、王手(オウて)、気持ち(キもち)、駅売(エキうり)、王様(オウさま)、素直(スなお)、絵筆(エふで)、金歯(キンば)、円高(エンだか)、円安(エンやす)、学割(ガクわり)、県境(ケンざかい)、地主(ジぬし)、地元(ジもと)、仕訳(シわけ)、職場(ショクば)、粗品(ソしな)、味方(ミかた)、役目(ヤクめ)、役割(ヤクわり)、曜日(ヨウび)、両腕(リョウうで)、両足(リョウあし)、両替(リョウがえ)、炉端(ロばた)
ex.2重箱読みが定着している法律用語
役場(ヤクば)、縁組(エンぐみ)、借家(シャクや)、外為(ガイため)、質屋(シチや)、新株(シンかぶ)
4 最近の湯桶読み
知事や市町村長を総称する「首長」の正しい読み方は、「シュチョウ」であるが、「くびチョウ」と言うことがある。
なぜ「くびチョウ」と湯桶読みをするのかについては、「主張」・「市長」・「首相」と紛らわしいので、これと区別するためだという説がある。
http://kikiasi.blog.fc2.com/blog-entry-117.html
しかし、個人的には「酋長(シュウチョウ)」と紛らわしいので、これと区別するためだという説に一票を投じたい。子供の頃に、「インディアン、嘘付かない」というテレビCMの科白が流行語になったことがある(現在、「インディアン」は差別用語だということで、「ネイティヴ・アメリカン」と呼ぶそうだ。「インディアン、嘘付かない」は、放送禁止用語になっているらしい。)。もともとは大人気西部劇『ローン・レンジャー』の主人公の相棒インディアンがたびたび言った科白であって、「白人は嘘を付くけど」という意味が込められていた。当時のテレビや映画では、このインディアンの部族の長(おさ)のことを「酋長」と呼んでいた(現在、「酋長」は、放送禁止用語になっているらしい。このような言葉狩りのせいで、西部劇の名作がテレビで放送されなくなってしまった。)。酋長とは、未開な部族の長を意味する。この「酋長」と紛らわしいから、「首長」を「くびチョウ」と言うようになったと聞いたことがある。皮肉を込めて「首長」に対して「酋長」と呼ぶ人がいたためだ。
ところが、最近では、逆に「酋長」を「首長」に言い換えるようになってきたらしい。「酋長」が野蛮人の長という侮蔑の意味で用いられることが多かったからだという。
https://furigana.info/w/%E5%A4%A7%E9%85%8B%E9%95%B7
そのためであろうか、大辞林第三版にも、「しゅちょう【首長】 ① 上に立って集団や団体を支配・統率する人。かしら。 ② 行政組織における独任制の長官。内閣総理大臣や、地方公共団体の長。 「 -選挙」 ③ クウェート・カタール・オマーンなど、二〇世紀後半にイギリスの保護下から独立したアラビア半島東岸のイスラム諸国の君主。 ④ 「酋長」に同じ。」とある。
「首長」と「酋長」が同じ意味になったのであれば、「くびチョウ」と湯桶読みする必要もなくなるわけだ。笑
もともと「酋長」という言葉には、差別的な意味合いがないことについては、下記のリンクを参照のこと。言葉狩りは、やめてもらいたいものだ。
https://www.news-postseven.com/archives/20170313_500752.html/2
また、「科料」と「過料」は、いずれも違反行為に対する制裁として金銭支払義務を科すものであって、その正しい読み方は、いずれも「カリョウ」であるが、前者は前科が付く刑罰であるのに対して、後者は刑罰ではないことから、両者を区別するために、わざと前者を「とがリョウ」、後者を「あやまちリョウ」と言うことがある。「私立」と「市立」を区別するために、「わたくしリツ」と「いちリツ」に呼び分けるのと同じ理屈だ。
内税(うちゼイ)、外税(そとゼイ)は、消費税導入後にできた新しい湯桶読みだと思うが、すっかり日常生活に定着してしまった。
言葉は生きものなので、今後も湯桶読みや重箱読みが増えていくであろうが、法律用語については、湯桶読みや重箱読みが日常生活に定着するまでの間は、住民との関係では正しい読み方に従うことが望ましいであろう。
蛇足ですが、西部劇の名作を一つご紹介。
ジョン・フォード監督『黄色いリボン』(1949年)。主人公である年老いた騎兵隊長を演じるジョン・ウェインがいい味を出していますね♪
西部劇が侵略者である白人側から描いているという理由で、名作がテレビで放送されないのは残念です。戦争映画の名作もテレビで全く放送されなくなりましたね。無知蒙昧な視聴者が洗脳されるとでも思っているとしたら、国民を馬鹿にしていると言わざるを得ません。
後から基準を作って過去の作品に当てはめるのはやめてもらいたいものです!