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【ESSAY #4】 「時間に追われる国」と「時間に追われない国」 ムーミン女子が気づいたこと

2019.10.04 22:00

(※以下、出産前の2016年6月ドイツにいた頃に書いたものです。)


 ムーミンが好きだ。

丸いシルエットに癒されるというだけでなく、彼らの発する哲学的な言葉や、全てがハッピーエンドではないシュールな世界観に15年ほど魅了され続けている。

 

ここ数年、日本の20-40代女性間でのムーミンブームは、目を見張る。私の友人(ワーキング女子達)でも、熱烈ムーミンファンを数えてみると、軽く5人以上はいて、ビックリ!

 

一昨年の銀座松屋での、トーベ生誕100周年記念・ムーミン展は、入場まで1時間以上並んだし、世界のムーミングッズの50%が日本市場向けという。

 

昨年夏、フィンランドの聖地・ムーミンランドに行った時も、何と当日入場者(計60人くらい)の約5分の1が日本人観光客

(うち、ムーミン女子一人旅が約半数)で心底驚いた。

 

 みんなが今、ムーミンを求めている…!?

日本の女子達の心を捉えてはなさない「ムーミン」。

その魅力とは一体......!?

 

 答えは、意外な本から見つかった。

ドイツが生んだ著名童話作家:ミヒャエル・エンデ作の「モモ」。

時間どろぼうに盗まれた時間を取り戻しにいく、女の子の物語。

時間に追われる現代社会への警鐘ともとれる、大人も楽しめる童話だ。

ここで描かれる【時間に追われる国】と【時間に追われない国】とが、まさに、【自分】と【ムーミン】の世界なのではないだろうか。

 

 まずは、「ムーミン谷」の世界。

ムーミン、ムーミンパパ、ムーミンママ、スナフキン、ミィ。

個性豊かなキャラクター達が、「ムーミン谷」という【時間に追われない国】で過ごしている。

無駄が多く、無駄が必要。

それぞれが、自分のものさしを持っていて、

感性で物事をみて、生きている。

だから、正解なんて無くても苦にならない。

それを体現する彼らに、私は恐ろしく癒された。

 

 一方、日本の生活は、正反対の【時間に追われる国】。

数字による効率化、「プロセス」より「結果」を求める。

正解が必ずあると信じて、ゴールへの最短距離をひた走る。

企業だけなく、学校でも然り。

【時間に追われる国】で1番になれる人こそが偉く、【時間に追われる国】で1番になるための教育を受けてきた。

効率化が徹底された、究極の資本主義である。

 

 日本のワーキング女子達がムーミンに求めるものは、【時間に追われる国】で疲弊した彼女達の、【時間に追われない国】の憧れ、だったのではないだろうか。

少なくとも、自分についてはそう言い切れる。

 

 なぜなら、1年前にドイツに来て以来、私の生活(=子無/専業主婦)は、100%【時間に追われない国】のものとなったからだ。

伴い、ここ1年私のムーミン熱が驚くほど落ち着いてきた。

 

日本では、毎日ムーミングッズはマスト!であったのに、今ではそんな恋愛のようなトキメキが湧いてこなくなった。

それはそれで、大好きだけど、という、

静かで落ち着いた家族愛みたいなものに変わってきたのだ。

 

 なるほど、自分は【時間に追われる国】で

随分無理していたのだな。

だから、もう癒しのムーミンを極度に求める必要がなくなったのだな。

 

勿論、【時間に追われる国】がダメだとは思わない。ここまで日本が発展し、経済大国になったのも【時間に追われる国】のルールに乗っ取って来たから。

【時間に追われる国】さま、さま、だ。

このルールが、ゲームのように大好きで得意とする人達も沢山いる。私は、彼らを心底尊敬する。でも、正直自分はここでは長くはやっていけない、と思う。

 

日本では、

ある時を境に【時間に追われない国】が、

まさに童話「モモ」の如く、【時間に追われる国】のルールに支配されるようになってきたのではないか。

 

 例えば、「教育・介護・子育て・地方活性」。今、世界の課題先進国と言われる日本での大きなテーマだ。世界が、日本の解決策に注目している。

 

昔から【時間に追われない国】とのルールに

則ってきたそれらが、突然”ビジネス”という波の中、効率化やゴールを求める【時間に追われる国】の方程式で紐解かれるようになってきた。

利潤追求・効率化を第一とする資本主義の企業経営。こんな【時間に追われない国】の鉄板ルールで、これらの課題を解決しようとすると、当然無理が生じる。

 

効率化を求めすぎて、ギスギスし自殺者が出た老人ホーム、一義的な物差しで図られ過ぎる日本の教育。

美味しいものを、心を思い込めて出すことの

対局にあるファーストフード。

 

つまり、今、【時間に追われる国】の中で慣れ親しみ、そのルールのみを教え込まれてきた私達は、知らずのうちの2つの世界を、混ぜて考えてしまっているのではないか。

 

会社員時代も思い当たる節がある。

年次と共に担当クライアント数を増え、

1案件・1クライアントに対して、自分が思ったように時間をもって対応できない、という不満があった。

 

そこで、よく言われたのが、

「クライアントを案件を、うまくさばくんだよ」。

マルチタスクに、さばけて、まわせる人こそが、仕事ができる、優秀な人なのだと。

 

まさに【時間に追われる国】の象徴的な言葉である。

しかし、本当にそうだろうか。

顧客側からすると、営業カウンターは自分1人。

自分が、いくつクライアントを抱えてようが、関係ない。

逆の立場にたったら、すぐわかる。

いつでも、顧客にとっては、熱をもって誠実に対応してもらえるのが一番なのだ。

 

 対局の2つの世界では、優劣などつけられないし、つけるべきではない。

ただ、【時間に追われる国】に浸かりすぎて、このルールが全て、と思いがちな私達は、今こそ、立ち止まって考える時かもしれない。

 

 2つの世界があり、2つのルールがあることを。自分は今、この瞬間はどちらのルールに従うべきかを。

 

▼2015.7 Finland Moomin Worldにて。

▼【ESSAY #1】「社会とつながる」ということ

▼【ESSAY #2】”自分の言葉で語る” ということ

▼【ESSAY #3】「コミュニケーション」の本質とは?