認知症サポーター養成講座のご報告
誰もがサポートできる体制づくりをめざして、養成講座を開いています。今年度は10月5日、筑紫女学園で開催しました。以下、その報告です。
1.活動趣旨
当NPOが今季主要活動として展開しているオレンジカフェは9月度で4回を開催した。
今回は活動目的を拡大し、認知症サポーター養成に関する活動を企画・実施した。当講座を受講した参加者は、認知症サポーターとしての資格を得ることができる。
資格を獲得していただき、認知症の人や家族を温かく見守る応援者として、または友人や家族にその知識を伝えるなど、地域のリーダーとして、まちづくりの担い手を育成ことを目的するものである。また当NPOの活動要員として参加していただくことも期待するものである。
当企画は当NPO活動について、日ごろからご指導・ご支援いただいている筑紫女学園大学の山崎先生・金先生の多大なるご尽力により実現したものである。
【 実施概要 】
● テーマ:「認知症サポーター養成講座」及び「認知症対策最新情報講座」
・日時:2019年10月5日(土)9:10~12:20
・場所:筑紫女学園大学8号館(8103教室)
・主催:NPO法人福岡あんしん生活ネット
・共催:筑紫女学園大学人間科学部(心理・社会福祉専攻)
● 講 師
1部:認知症サポーター養成講座(9:10~10:40)
・龍頭吉弘氏(社会福祉法人笑楽福祉会理事長)
・金圓景氏(筑紫女学園大学人間科学部心理・社会福祉専攻准教授)
2部:認知症対策最新情報講座(~12:10)
・山崎安則氏(筑紫女学園大学人間科学部心理・社会福祉専攻教授)
【 活動概要 】
■Ⅰ部:認知症サポーター養成講座(9:10~10:40)
1.金准教授講義内容
(1)認知症高齢者への社会的なケアの歴史
・80年代までは認知症の人は精神病院へ、医療の対処としてはCure(治療)中心。
・その後はキュア(Cure:治療)に加えケア(Care:癒し)概念による共存時代へ
*グループホームや宅老所の誕生、身体拘束禁止など
*2000年には、「介護保険制度」スタート、2013年「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」、2015年「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」策定
(2)新オレンジプランとは
・従来のオレンジプランとの大きな違いは、従来が厚生労働省単独で策定されていたのに対して、新プランは厚生労働省に加えて11の関係省庁が参加し、省庁横断的に12省庁の協力により作られたこと。
・新オレンジプランの特徴は、「認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会を実現する」ことに重点を置いていること。
(3)「認知症サポーター」に期待されること(厚労省HPより)
〇 認知症に対して正しく理解し、偏見をもたない。
〇 認知症の人や家族に対して温かい目で見守る。
〇 近隣の認知症の人や家族に対して、自分なりにできる簡単なことから実施する。
〇 地域でできることを探し、相互扶助・協力・連携・ネットワークをつくる。
〇 まちづくりを担う地域のリーダーとして活躍する。 など
(4)認知症カフェと「あんしんオレンジカフェ」
① 認知症カフェの効果としては、
〇認知症本人→自ら活動し、楽しめる場所
〇家族→わかり合える人と出会おう場所、
〇専門職→人としてふれあう場所、
〇地域住民→つながりの再構築の場所 など
② 認知症カフェの運営として留意すべきことは、
〇認知症の人が安心して参加できるよう合理的な配慮がなされること。
・合理的な配慮とは、認知症の人やその家族が認知症カフェで特別視されることや排除されることなく、自然に溶け込めるための専門職等による専門的な配慮のこと。
・具体的には、認知症カフェに参加するうえで、地域住民に自然に受け入れられるように、会話の橋渡しや友達を作るため関係づくりを意識した声掛けや誘導、安心して過ごせるための環境づくりなどである。
〇認知症の一次予防が主目的の内容とならないよう、配慮がなされていること。
・一次予防とは、認知症にならないための取組のこと。健常者のみならず、認知症者も対象としていかねばならない。
〇プログラム提供自体が主目的でないこと。
・アクティビティ(活動・イベント)を取り入れる意義は、対話と会話を促すための手段のためであり、それ自体が目的ではないことを意識すること。
2.認知症サポーター養成講座
■キャラバンメイト
福岡県認知症介護指導者 笑苑福祉ネットワーク 龍頭吉弘氏
(1)太宰府市の高齢化および認知症者状況の理解
・総人口:71,829人(外国人483人)(R1・6・30現在)
・65歳以上の高齢者:19,743人、総人口に対する構成比:27.6%(H30・4・1現在)
・認知症および予備軍:4,975人(65歳以上19,743人÷<全国での比率:4人に1人>)
(2)まずは認知症に対する正しい知識を
① 脳の働きと認知症の関係(資料参照)
② 認知症は老化か病気か、またどんな病気か。
・老化と関係があるが、病気である。
・正常に発達した知的機能が持続的に低下する病気。
記憶障害→複数の認知機能障害→日常生活に支障をきたすという悪循環が生じる。
③ 加齢による物忘れと認知症の違い
・両者の相違は、まず体験した記憶について、一部を忘れるのか、全部を忘れるのかの相違が上げられる。また物忘れを自覚しているか、していないかの違い。
・記憶障害のみならず、判断力の低下や実行機能障害がみられると認知症の疑いが強い。
④ 認知症の種類と割合
・脳の神経細胞の異常(=変性性認知症)が原因
*アルツハイマー型認知症(50%)、レビー小体型認知症(20%)、脳血管性認知症(20%)、前頭側頭型認知症、混合型(10%)
*レビー小体型認知症(20%)は第二の認知症といわれ、日本では小坂憲司先生により政界で最初に報告された。特に幻視が有名で、「ごはんの上を虫が動き回っている」「ヘビが天井を這っている」「テーブルの下で子供達が遊んでいる」など、実際には見えないものがありありと見えるという症状が特徴。
*アルツハイマー型認知症では、以前は70%を占めていた。その時点で他の症状を発見できなくて、アルツハイマー型に含む傾向があった。最近の特徴として混合型が見られるようになった。
・脳血管性認知症(脳梗塞など脳血管の異常が原因)→いわゆる「まだら認知症」(20%)
・前頭側頭型認知症(ピック病他)
*初期症状は記憶障害より“人柄の変化”が目立つ →同じ行動を繰り返す(常同行動)
・診断は、その後を「より良く暮らす」ためのスタートライン
*早期診断 → 早期に人生を最大限楽しむプラン作りを。
⑤ 軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)
・正常でも認知症でみない認知機能の低下が認められるものの、日常生活能力は障害されていない状態。進行しない例、改善する例もかなり多いとされる。(治る認知症)
・ただし年間5%~9%が認知症に移行するとされる。しかもうつ病を伴う場合は、認知症への移行率は高いといわれる。
⑥ 認知症の症状への理解
・中核症状(認知機能障害)
→ 記憶障害、判断力低下、実行機能障害、見当識障害(自分のおかれた状況を判断する機能の低下)、失認(まわりの状況を把握する機能が低下すること)、失行(身につけた一連の動作を行う機能が低下すること)
・随伴症状(行動・心理症状)
→ 幻覚・妄想、暴力・暴言、徘徊、不潔行為、抑うつ 等
(3)認知症の人がいる家族への理解
①家族の気持ちを理解しょう:家族の人たちの気持ちの変化について
第1ステップ:とまどい・否定
・いつもと違う言葉や行動に戸惑い・否定
→「あんなにしっかりしていた人がどうもおかしい、まさか…」
第2ステップ:混乱・怒り・絶望
・認知症の理解が不十分で対応に混乱を来たし、些細なことで腹を立てたり叱ったりする
→精神的・身体的に最もつらい時期
第3ステップ:割り切り
・医療・福祉や地域社会からの援助を受けてこころも変化していく
→しかし認知症が進行することにより、第2ステップに逆戻りしかねない時期でもある。要注意時期である。
第4ステップ:受容
・認知症の理解が深まり、認知症のいる家族をあるがまま受け入れられるようになる。
→介護者自身が認知症の人の心理が分かるようになる。経験を通して介護者も人間的に成長を遂げている。
②認知症の人と接するときの心がまえ
・認知症の人は「何もわからない」のではない。心配で苦しいのも、悲しいのも本人である。
・「バカになりよる」「私は忘れていない」などは隠された悲しみの言葉なのである。
または「おかしくない、大丈夫」「病院に行く必要なんかない」と言い張るのも、「認知症だったらどうしよう」「家族に迷惑がかかる」というやり場のない悲しみ、怒りから自分を守るための防衛反応であると言える。
・自分のことがわからなくなっても、道端に咲く花を見て美しいという感じる感性は豊かであることなどちゃんとわかってあげることも忘れないで欲しい。
・自分がまだ元気なうちに何か症状があれば治しておくことが重要である。老後を豊かにすごすためには、早期に対応しておくことが一番肝心である。(前立腺、心臓病など)
*悪魔のささやき
階段から落ちて骨折でもしてくれないかな、何か病気になってしばらく入院してくれないかな、と介護のつらさから逃げ出したくなる思い。
(4)早期発見、早期受診・診断、早期治療が大事なわけ
① 初期は専門の医療機関の受診が不可欠
・認知症の診断は初期ほど難しく、熟練した技術と高度な検査機器を要する検査が必要。
*CT、MRI、脳血流検査などの画像検査
*記憶・認知などに関する心理検査
*認知症のような症状を引き起こす身体の病気ではないことを確認する検査 など
② 早い時期に受診することのメリット
・病気が理解できる時点で受診すれば、少しずつ理解もでき生活上の障害を軽減できる。
・障害が軽いうちに、後見人(任意後見人制度)を決めておくことなど将来に対する準備が可能となる。
・認知症のような症状がでても、正常圧水頭症、脳腫瘍、甲状腺ホルモンなどは、治療で治るケースが多い。放置しておけば回復が不可能となる。
(5)認知症の人への対応の心得
①3つの「ない」→ 1.驚かさない 2.急がせない 3.自尊心を傷つけない
②具体的な7つのポイント
〇まずは見守る
→近くに認知症と思われる人がいたら一定の距離を保ち、さりげなく見守ること。
〇余裕をもって対応する
→こちらが困惑や焦りを感じていると、相手にも伝わり動揺させてしまう。
〇声をかけるときは1人で
→複数で取り囲むと恐怖心をあおりやすいので、できるかぎり1人で声をかける。
〇相手に目線を合わせてやさしい口調で
→小柄な人の場合は、体を低くして目線を同じ高さにして対応する。
●おだやかに、はっきりした話し方で
→高齢者は耳が聞こえにくい人が多い。またその土地の方言で話すことも大切。
●相手の言葉に耳を傾けてゆっくり対応する。
→認知症の人は急がされるのが苦手。また同時に複数の問いに答えるのが苦手。また何をしたいのかを問う場合、相手の言葉を使って推測・確認していくこと。
(6)認知症サポーターとは
・特別なことをやる人ではありません。
一、認知症を正しく理解する。
二、認知症の人や、その家族を取り巻く家族の良き理解者である。
Ⅱ部:「認知症に優しいまちづくり‐超高齢社会に備える」
~地域共生社会の実現に向けて~
筑紫女学園大学心理・社会福祉コース 山崎安則教授
( 要 旨 )
1時間にわたって、認知症対応などを中心とした地域共生社会創造に向けた課題および具体的対応を総合的に解説された。またあるべき地域共生社会から現在の太宰府市行政の対応を判断したとき、かなり遅れており、このまま無策だと将来地獄見るという状況にあると警鐘を促された。
そのためには、当NPOの活動などを通して、地域住民が自らその危機意識を自覚し、地地域住民が連携をして対策を考えあうとともに、行政に対して強く促していく活動が肝要であると熱く述べられた。参加者も大いに力づけられた。
以下講義内容のポイントを整理した。
●太宰府市は福祉に対する対策が周辺市に比べ大変遅れている。今のままだと将来地獄を見ることになる。
・団塊の世代のいわゆる2025年問題が迫っている中で、太宰府市の福祉対策は非常に遅れていると言わざるを得ない。また将来的は2040、2050問題も迫ってきており、周辺市では地域共生社会の形成に向かって、地域全体で取り組むべき構想をちゃんと策定しその対策に乗り出している。太宰府市の対策がこのまま進展しないと、市民の皆さんは地獄をみることになるだろう。
・筑紫野市における地域福祉計画では、中学校区を一つの単位として、地域包括支援センターを核とした社会福祉協議会、自治会、地域住民などとの連携を行いながら、地域住民主役の支援システムの研究と設立にすでに乗り出している。
その活動の中核となる地域包括支援センターも、当市はやっと2か所目が開設された。
・筑紫野市で4か所(人口約10万人)、春日市で2か所(人口約11万人)、大野城市で4か所(人口約10万人)である。今後特に地域共生社会の創造のためには、旧態依然とした地域包括支援センターの抜本的改革が急務となる。
●地域共生社会を実現するためには、“我が事”“丸ごと”の意識が肝要
・地域共生社会を実現するためには、“我が事”と“丸ごと”という概念が重要となる。比ゆ的に言えば、地球上で人に指をさせば、巡りまわって自分を指していることになる。他人事と無関心でいることは、結局自分に対しても他人は無関心でいることになるのだ。つまり他人事は自分事でもあるということを認識しておくべきである。
*“我が事”=我が事・丸ごとの地域づくり
・住民主体による地域課題の解決強化・体制づくり
・市町村による包括的な相談支援体制の整備
・地域づくりの総合化・包括化(地域支援事業の一体的実施と財源の確保)
・地域福祉計画の充実、各種計画の総合化・包括化 等
*“丸ごと”=サービス・専門人材の丸ごと化
・公的福祉サービスの総合化・包括化(基準該当のサービスの改善、共生型の報酬・
基準の整備)
・専門人材のキャリアパス (組織の中での将来を目指した異動や昇進のこと)の複線化(医療・福祉資格に共通の基礎課程を創設、資格所持による履修期間の短縮など)
●地域共生社会においては、タテ型組織から横型連携的包括支援体制が不可欠
・高齢者対策=地域包括ケアシステム、障害者対策=基幹相談支援センター等、子ども・子育て家庭=子育て世代包括支援センター等、生活困窮者支援対策=生活困窮者自立支援法などが、タテ型で対策を推進するのではなく、相互の連携、協働的対応が不可欠である。
・例えば8050問題など、課題の複合化、ゴミ屋敷などの制度の狭間の問題、または高齢者と障害者を区別するのではなく、共生型サービス的視点より対応していくなど、お互いの組織が連携していかねば、対策が完全に片手間になってしまう。
・利用者側も、課題ごとに支援組織を頼るということは、組織への理解度不足や何か所も訪問し、課題毎に相談しなければならなくなる。その負担を考えれば足は段々遠ざかる。そのためには、公助、自助、共助の連携、また組織の在り方もワンストップ機能を持った、名実ともに“包括センター”でなければならない。
●地域包括ケアシステム構築への取り組みへは次の4項目が鍵
①介護保険の持続性のためだけでなく、地域づくりのために取り組む。
②住民自身の学習と参加・協働が基礎
・コミュニティセンター、校区、自治会、町内会、行政区といった単位で、住民が自分た
ちの地域の課題を学び、将来を考える場をつくり、自分たちでできることを話しあって
いくことが大切。
③介護保険のための仕組みではなく、地域福祉の仕組みにする。
・介護保険があてにする地域資源は、例えばサロンが多世代交流の場になったり、有償の助け合いが幅広い層を支援しているなど、地域資源や地域福祉の仕組みしていくことが大切である。
④今までの地域福祉の延長でもだめ
・サロンなどの活動に参加しない人、来れない人に焦点を当てるなど、これまでの地域福祉活動をバージョンアップさせることが必要である。
●地域共生社会の実現に向けて、私たち何を目指すべきか。
①それぞれの地域で共生の文化を創出する挑戦
・例えば障害者福祉施策などで共生社会の創造が理念として取り上げられているが、その実現の困難さも経験している。高い理想であることもわかるが、あきらめることなく、それが文化として定着するよう挑戦し続けることに価値がある。
②すべての地域の構成員が参加・協働する段階へ
・地域住民、民間事業者、社会福祉法人、民生委員・児童委員、福祉委員、行政等、具体的に連携する「仕組み」と事例に基づく「対話・協議」をしていく過程とその「計画化」が重要である。
③重層的なセーフティネットの構築(予防的福祉の推進)
・これからの社会福祉にとって重要な視点は「予防」である。これまでの申請主義による「待ち」の姿勢でなく、セーフティネットの構築により、問題が深刻化する前に早期発見・支援につなげていくことが大切である。
④包括的な支援体制の整備
・分野別、年齢別に縦割りだった支援を、当事者中心の「丸ごと」の支援とし、個人や家族の地域生活課題を把握し、専門職による多職種連携や地域住民等と連携・協働して解決していくことが求められている。
以上1時間にわたる講演の趣旨を述べたが、他にもコンソーシアムで地域の教育力・福祉
力の向上、公民館を拠点とする地域生涯福祉教育の必要性など地域コミュニティの形成の
創造なども解説された。全体の内容については、資料「認知症優しいまちづくり-超高齢
社会に備える~地域共生社会の実現に向けて~」を参照されたい。
以 上