鳴門・高松旅行2 大塚国際美術館②
古代遺跡や教会などの壁画を環境空間ごとそのまま再現した臨場感を味わえる立体展示を「環境展示」と呼ぶことを初めて知ったのは大塚国際美術館の「マップ&ガイド」を通してだ。「システィーナ・ホール」、「スクロヴェーニ礼拝堂」だけでなく、ポンペイ遺跡の「秘儀の間」や「貝殻のヴィーナス」、フランシスコ・デ・ゴヤが、晩年に自宅の壁に描いた一連の絵画「黒い絵 」など。こういう展示は、画集などでは決して味わえない魅力があり、この美術館に足を運ぶ大きな意義もここにあると思う。
今回それとは別に発見があったのは、以下の作品。写真も含めて初めて見る作品だ。
①アンジェロ・モルベッリ「80セントのために」ボルゴーニャ美術館 ヴェルチェッリ イタリア
アンジェロ・モルベッリ(1853-1919年)という画家の名前は、今まで耳にしたことすらなかった。画風は、象徴主義や未来派に近いが、社会の諸問題にも深く注目した画家のようだ。ブレラ美術学校でロマン主義的なリアリズムを学び、その視線は主に田畑での労働、困窮する老人たちといった主題に向けられた。この作品も1890年代の初頭に米価が暴落し、深刻な農業危機が発生して、稼ぎがもともと不安定だった田植え女性たち(ちょっと意外な印象を受けるかもしれないが、ポー川流域の米作地帯では日本と同じように田植えが行われてきた)の生活をいっそう不安定にさせたことが背景になっている。本作品はこれら搾取されていた女性たちのメッセージとして受け止められ、社会告発の絵として評判を呼んだという。
②フォード・マドックス・ブラウン「さらばイギリス」バーミンガム市立美術館
銅版画家ウィリアム・ホガースの風刺の精神を、ラファエル前派の絵画スタイルで受け継いだとされるイギリスの画家(1821年~1893年)で、その一員とはならなかったが、ラファエル前派のグループと交流した。この作品は、船上で、次第に遠ざかっていくイギリスを見つめる、厳しい顔が印象的な移民夫婦の肖像画。新世界への旅立ちに心躍らせるという趣は全くなく、不安、あきらめの境地の表情をしている。ラファエル前派の彫刻家トーマス・ウールナーが、ゴールドラッシュに湧くオーストラリアへ1852年に移住していったことをきっかけに描かれた。ブラウンも経済的な困難から、インドへの移住を考えていたようで、生きるために祖国を捨てざるを得ない人々への深い共感が感じられる。。今までに見た彼の作品では「ペテロの足を洗うイエス」(テート・ブリテン)が印象に残っている。有名な「最後の晩餐」の直前の場面で「ヨハネによる福音書」13章に次のように書かれている。
「イエスは、父がすべてを御自分の手にゆだねられたこと、また、御自分が神のもとから来て、神のもとに帰ろうとしていることを悟り、食事の席から立ち上がって上着を脱ぎ、手ぬぐいを取って腰にまとわれた。それから、たらいに水をくんで弟子たちの足を洗い、腰にまとった手ぬぐいでふき始められた。シモン・ペトロのところに来ると、ペトロは、「主よ、あなたがわたしの足を洗ってくださるのですか」と言った。イエスは答えて、「わたしのしていることは、今あなたには分かるまいが、後で、分かるようになる」と言われた。ペトロが、「わたしの足など、決して洗わないでください」と言うと、イエスは、「もしわたしがあなたを洗わないなら、あなたはわたしと何のかかわりもないことになる」と答えられた。・・・・主であり、師であるわたしがあなたがたの足を洗ったのだから、あなたがたも互いに足を洗い合わなければならない。わたしがあなたがたにしたとおりに、あなたがたもするようにと、模範を示したのである。」
フォード・マドックス・ブラウンの絵は、イエスの行為の意味が十分には理解できていない人間ペテロの様子が印象的である。
③サミュエル・ルーク・ファイルズ「救貧院に収容されるのを待つ人々」ロンドン大学ロイヤル・ハロウェイ・アンド・ベッドフォード・ニュー・カレッジ
④デヴィッド・ロバーツ「エジプトからのユダヤ人の脱出」バーミンガム市立美術館
アンジェロ・モルベッリ「80セントのために」ボルゴーニャ美術館 ヴェルチェッリ イタリア
フォード・マドックス・ブラウン「さらばイギリス」バーミンガム市立美術館
フォード・マドックス・ブラウン「ペテロの足を洗うイエス」テート・ブリテン
サミュエル・ルーク・ファイルズ「救貧院に収容されるのを待つ人々」ロンドン大学ロイヤル・ハロウェイ・アンド・ベッドフォード・ニュー・カレッジ
デヴィッド・ロバーツ「エジプトからのユダヤ人の脱出」バーミンガム市立美術館