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「第二の家」ブログ|藤沢市の個別指導塾のお話

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』という、今まで見たことのない成長物語の読書感想文

2021.08.26 04:16


「多様性っていいことなんでしょ?学校でそう教わったけど」


「うん」


「じゃあ、どうして多様性があるとややこしくなるの」


そう尋ねる主人公の中学生に、著者の母親は答えます。


「多様性ってやつは物事をややこしくするし、喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃないほうが楽よ」


「楽じゃないものがどうしていいの?」


「楽ばっかりしてると、無知になるから」


「また無知の問題か」


「多様性は、うんざりするほど大変だし、めんどくさいけど、無知を減らすからいいことなんだと母ちゃんは思う」


随所に出てくる、こんな感じの親子の会話が好きです。




人気ライターのブレイディみかこさんがこの本で描くのは、英国に暮らす中学生の日常。でも、とびきり刺激的で、面白くて、なぜか感動もして、一気に読めちゃう、ノンフィクションの毎日。


僕にこの本を紹介してくれた知り合いの先生が、興奮しながら内容について話していた理由がわかりました。いや、こりゃ誰かに勧めたくなってしまうな。


もう一度言いますね。この本が描くのは、英国に暮らす中学生の日常。勝手に華やかだと思っていた英国の白人社会の現実。その中で否応なしに出会ういじめやレイシズムや格差の波。なんだかんだ平和な日本で暮らしていると、本当は近くにあることに気付きもしないそんな物事たちに囲まれながら、パンク母ちゃんとその息子が織りなす、成長と苦悩とユーモアに彩られた、愛らしい日々のこと。


そして、僕も、きっとあなたも、大好きな物語。




書店に並んでいるこの本を見たときは、小説かノンフィクションの違いはあれど「ああ、いちばんここに似合う人みたいな本なのかな」と思ったのですが、いい意味で、もうちょっと刺激的でした。単に色が似ていただけかもしれない。


また、昔『アラジン』のミュージカルを見た僕は、この本の冒頭でその語句が出てきたときに、「この物語には出会うべくして出会ったんだ!」とテンション上がりましたけど、うん、きっとそれも勘違い。


でも、今読めてよかったと思える一冊です。


あらすじはこちら。

優等生の「ぼく」が通う元・底辺中学は、毎日が事件の連続。人種差別丸出しの美少年、ジェンダーに悩むサッカー小僧。時には貧富の差でギスギスしたり、アイデンティティに悩んだり。世界の縮図のような日常を、思春期真っ只中の息子とパンクな母ちゃんの著者は、ともに考え悩み乗り越えていく。落涙必至の等身大ノンフィクション。


驚くべきは、これがたった一年半の物語だということ。実はまだ連載も続いているみたいですから、そのうちまた彼に会えることを、僕は心から楽しみに待っています。


以下、ネタバレありの感想文になりますので、ぜひ本書を読んでからお進みくださいませ。



ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー ネタバレ感想文



付箋が足りなくなってしまいました。


「おおっ」とか思ったところや、学びがあったところにプラスチックの付箋みたいなのを挟みながら読んでいたんですよね。でも、ご覧の通り、付箋が意味を成さなくなっている感すらあります。


それぐらい衝撃的で、それぐらい面白かったということです。ちょっと本書に倣って、細かい章立てで感想を述べていきましょう。




アイデンティティの話


本書のテーマの一つは、「アイデンティティ」だと思います。


アイデンティティ。自己同一性。卒論でアイデンティティステイタスを調べた僕にとっては馴染み深い言葉ですが、皆さんにとってはどうでしょうか。


タイトルにある通り、主人公の男の子は、イエローでホワイト。英国白人社会の中で、少しだけ浮いた存在であり、本書の中でも自分のアイデンティティについて悩む描写があります。


でも、その答えだって、本書はちゃんと用意してくれているのです。


アイデンティティは一つじゃなくていい


以前にこのブログで紹介した『人生が変わるすごい地理』で、【アイデンティティとは、「ある特定の集団」への帰属意識】という文言がありました。なるほど、その通り!と思ったものです。


『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の中でも、校長と著者との話の中で、「よく考えてみれば、誰だってアイデンティティが一つしかないってことはないはずなんですよ」という言葉が出てきます。


また、主人公がワールドカップでどこを応援するかで、今まで応援していた日本が負けると、あっさりイングランドを応援し出す様子が、コミカルに描かれています。


そうそう、そうだよね。日本人でも、イギリス人でも、子どもでも大人でも学校でも家でも友達グループでも塾でも、その時その場で帰属意識のある集団を好きに選んで、自分のアイデンティティにしちゃえばいいんですよね。


いやいや、もちろんそれはそんなに簡単なことじゃないんですけど、特に世界ではそれを理由にいろんな問題が起きているんだけど、だからこそ、子どもたちにはこの本を読んで知って欲しい。考えて欲しい。僕らは、変われるのだから。


人の色は、いつも今もこれからも瞬間瞬間で変わり続けるのだから。




そう、人は変わる(子どもは特に!)


それまでエリート校と呼ばれるカトリック系の小学校に通っていた主人公が、進学先として選んだ中学校は、元・底辺校でした。


そこには、校長先生を始め、生徒の貧困問題についての過激なラップに心からの拍手を秒で贈れる素敵な先生方がいて、「生徒たちのしたいことをできる環境を整えて、それを思いっきりやらせたら、学業成績も伸びてきた」という稀有で、魅力溢れる学校です。あ、だから、「元」がついているんです。


小学校では典型的な「いい子」だった主人公。両親たちは180度ぐらい違う雰囲気の学校に通うことに一抹の不安を覚えますが、いやはや子どもは強いです。あっという間に慣れて、すぐにエンジョイし始めたというから驚きですね。


塾や学校の先生仲間たちともよく話をするけれど、子どもっていい意味でも悪い意味でも、コロコロ変わるんですよね。環境や、接する人や、場所やタイミングですぐに。


だから、本人にとって居心地のいい、成長できる場を見つけるって、すごく大切なことだと思うのです。それを見つけたり、見つけるためのヒントを手に入れたりするために、いろんなことに挑戦することもね。




子ども扱いせず、選択をさせるということ


冒頭にも挙げましたが、母ちゃんであるブレイディみかこさんと、主人公の少年のやりとりがこの本の魅力の一つ。


特に僕が「いいなー」と思ったのは、例えばこんな会話です。


それは、大雪の日のボランティアに二人で参加した日のこと。路上生活者を保護した事務所から静かに外へ出ていった息子へ、母ちゃんが話しかけます。


「どうしたの? 家に帰る? 母ちゃんはもう少し手伝っていくけど」


主人公は目を潤ませながら言います。


「こういうことを言うのは本当に悪いと思うんだけど、でも、匂いに耐えられなくって鼻で息をするのを止めてたから、息苦しくなっちゃって…」


事務所内にアルコールや尿の匂いが充満しているのは確かでした。


「帰りたかったら帰ってもいいよ。ただ、こんな天気の日だから、わたしと一緒に帰ってくれたほうが安心ではあるけどね」


主人公は少し考えた後、キッチンでお手伝いすることを、自らの意思で選びます。


この「自らの意思で選ぶ」っていうのがすごく大事なことだと思うのです。これって、「ここにいなさい」って言われてその場にいるのと全然違うんですよね。


自分で選択をする。そしたら、そこから起こる成功も失敗も良いことも悪いことも、全部自分の人生の糧になる。それって成長にとってすごく大事なことです。


本書を読んでいると、家族や学校の中で、子どもたちのそばにいる大人側がそういう機会を多く与えているというのがわかるんですよね。


その後の「善意についての会話」も本当いいし、考えさせられるし、他にも紹介したい会話が沢山あるんですけど、もう全部転載することになってしまうから、ここまでで終わらせておきます。


まだ未読の方は、ぜひ本書の中で味わってくださいね。そして、その時が来たと思えたら、ぜひお近くの子ども達にも問いかけてあげてみてください。


「この本、難しい言葉もあるけれど、面白いよ。ある中学生一年生のお話。どうする?読んでみる?」




大人の先生になる子どもたち


子どもたちは時に、僕ら大人の先生になったりもします。


僕が授業している時もそうです。僕ら大人の固定観念や既成概念で凝り固まった頭で考えることを、自由な発想と考えで飛び越えて、「え、それいいじゃん」という答えを出したりすることがあるんです。


この本の中でも、主人公の言葉が、大人たちの発見や刺激を生む描写がいくつもあります。それは貧困やLGBTQといったなかなか答えを出しづらい問題や大人の個人的な悩み事についてなど、様々な内容に及びます。その中でも、僕が特に好きな表現が「エンパシー(empathy)」の訳についてです。


「エンパシー」を辞書で調べると、「共感」と出てきます。僕もきっとそう言っちゃうな。でも、中学校のシチズンシップエデュケーションで、その「エンパシー」の意味について尋ねられたとき、主人公の少年はこういった訳し方をしました。


自分で誰かの靴を履いてみること


元々はその授業の先生の言葉で、英語圏では有名な表現だということですが、これを11歳の少年が理解し、使うというのはちょっと驚きでした。


驚きだけど、理解もできます。だって、それはこの物語の主人公の少年の言葉だけではなくて、日常の子ども達とのコミュニケーションの中でも出会う驚きだから。


この驚きの積み重ねの上に乗っかる度、僕は思うのです。きっと僕らの想像以上に、彼ら子どもたちには可能性があって、きっと僕らが心配しているよりもずっと遥かに、子どもたちはより良い世界を、よりよい未来を作っていくんだろうなって。


すごいな、子ども!


なんだかワクワクしてきました。




まとめ、という名のまとまらない話


生きていると、難しいこともどうにもならないことも、沢山起こります。


この本の中でも、やりきれない想いを抱えてしまうような出来事がいくつか綴られています。


僕らはみんな、人と人だから、違うから、理解できないことや「No!」と叫びたくなるようなことも沢山ありますよね。


だけど、それ以上に温かさや喜びや「君がいてくれてよかった」と思えるようなことが、きっと多分もっともっと沢山ある。それは数じゃなくて、重さみたいなものなのかもしれないけれど。


この本は、ただただ笑いながら、泣きながら、ページを捲っているだけでそんなようなことに改めて気付かせてくれる、とびきり素敵な本だと思います。


人生を100としたら。


いいことと悪いこと、どっちが多いか知っていますか?


いいことがあった時は、「ハハハ」と笑うでしょう。悪いことがあったら「シクシク」泣くでしょう。


ハハハで、8×8=64。シクシクで4×9=36。足して、100。


ちょうどこのぐらいの割合が、人生。そして、この本って感じ。


悲しいことも笑い飛ばせたら、笑顔は増えていくね。


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